「虚空の記憶」

第25話 予定外の一手

1週間が経過し、リナは街の反応を注意深く監視していた。告発の直後には大きな反響があったものの、次第にその勢いは衰え、街は平静を取り戻しつつあった。彼女は人々が徐々に告発のことを忘れていることに気付き、胸の奥に不安が広がった。

「これは、記憶ストレージシステムが使用されたに違いない…」リナはそう確信した。彼女は事態の詳細を掴むために会社に潜り込むことを決意した。

夜遅く、オフィスのビルに足を踏み入れたリナは、静かな廊下を慎重に進んだ。セキュリティシステムを突破し、上司のグレッグのオフィスに向かう途中、リナの心臓は早鐘を打っていた。緊張の中、彼女は冷静に行動しようと努めた。

ドアを開けると、予想外のことにグレッグがそこに立っていた。「リナ？何をしているんだ？」グレッグの声が響く。

リナは一瞬固まったが、すぐに冷静さを取り戻し、言い訳を考えた。「ええと…ちょっと仕事が残っていたので…」

グレッグは疑わしげに彼女を見つめたが、やがて溜息をついた。「君が無断欠勤していることは分かっているんだよ。何があったのかは知らないが、今は忙しい時期だ。すぐに勤務に戻ってくれ。」

リナは内心ほっとしつつも、グレッグの言葉に驚きを隠せなかった。彼が告発のことを知っているのか、それとも全く気付いていないのかは不明だったが、今は彼に逆らうわけにはいかなかった。

「わかりました、すぐに戻ります。」リナはそう答え、オフィスを後にした。

ビルの外に出たリナは、冷たい夜風に当たりながら深呼吸をした。彼女の心臓はまだ激しく鼓動していた。会社に潜り込んで得られる情報は無かったが、彼女はこのまま諦めるつもりはなかった。

彼女は再びオフィスに戻り、仕事を続けるふりをしながら、どうやって次の手を打つかを考え始めた。ハンクに連絡を取り、現状を伝えることにした。

「ハンク、問題があるわ。会社のシステムが監視されているかもしれない。グレッグに見つかったけど、何とかその場を凌いだ。でも、次の一手を考えないと。」

ハンクの冷静な声が彼女を支えた。「リナ、俺の記憶はまだ残っている。次にやるべきは、安全な場所での情報共有だ。ここでは何も計画できない。」

リナは彼の言葉に同意し、ハンクのオフィスで密かに会合を開くことにした。

ハンクのオフィスに集まった彼らは、告発の影響が薄れつつある現実を前に、戦略を練り直すことにした。エリカとマイクは業務が忙しく、告発の記憶もないためにメンバーから外れることになった。

リナは新たな決意を胸に、ハンクに計画を提案した。「私たちが直接動くしかない。次はシステム内部に潜入し、根本的な証拠を掴む。そして、それを公にするんだ。」

ハンクが頷いた。「そのためには、さらに強力なアクセス権限が必要だ。」

リナは考え込んだ後、静かに言った。「一人だけ心当たりがある。でも、かなりリスクが高い。」

ハンクは彼女を見つめ、「どんなリスクでも構わない。俺たちにはもう時間がない。」と答えた。

その夜、リナとハンクは次なる一手の計画を詳細に詰め、行動に移す準備を整えた。リナの心には、新たな戦いへの決意が固まっていた。彼女は決して諦めない。真実を暴き出し、人々に再び希望を取り戻させるために、次なる行動を計画するのだった。