第9話 調査中の小さな障害

リナは再びオフィスに戻り、夜の静けさの中でデジタルアーカイブにアクセスする準備を整えた。リナが選んだのは、記憶ストレージのメンテナンス中に発見した詳細なデータベースであった。このデータベースには、個人の記憶に関するすべての履歴が記録されており、過去の記憶の消失や異常を調査するために役立つと考えられた。


「よし、これが鍵になるかもしれない…」リナはコンピュータの前に座り、慎重にデータベースにアクセスした。画面には複雑なインターフェースが表示され、彼女は自分の記憶に関連するログを検索するためのフィルタを設定した。


検索結果が表示されると、リナは一つ一つのログを確認し始めた。そこには、彼女の記憶が消失する前後の時間帯に関する詳細なデータが含まれていた。特に注目したのは、記憶のエラーや異常が記録された時間帯であった。


次に、リナは記憶のビジュアル化ツールを使用することに決めた。ツールを起動し、記憶の断片を視覚的に表示する機能を使って、以前発見した断片を検証した。画面に現れたのは、スーツを着た男性との会話のビジュアルデータだった。その男性はリナにとって見覚えがない人物であり、その会話の内容には意味深な言葉が含まれていた。


「このビジュアル化ツールがあれば、もっと詳細に分析できるかも…」リナはツールの機能を駆使し、会話の断片を拡大して検討した。画面に映る男性の表情や言葉の変化から、リナはその会話が重要であることを直感的に感じ取った。


最後に、リナは過去数日間の自身の行動ログを分析することに決めた。ログには、彼女がどのような行動をとっていたのか、どのような場所に出入りしていたのかが詳細に記録されていた。リナはこのデータを使って、記憶の消失が発生する前後の状況や場所を特定しようとした。


「このログを見れば、何か手がかりが見つかるはず…」リナはログのデータをじっくりと見つめた。特に記憶の欠落が発生したタイミングや場所に注目し、その周辺で何が起こっていたのかを調べた。


リナがデジタルアーカイブのログを詳細に分析している最中、画面上に突然エラーメッセージが表示された。文字は赤く、警告のアイコンが点滅していた。


「アクセス権限が失われました。再度ログインしてください。」というメッセージが、リナの集中力を妨げた。彼女は驚きと困惑の中で、画面を凝視しながら何度も再ログインを試みたが、いずれも失敗に終わった。


「どうして急に?」リナは不安になりながらも、冷静さを保つよう努めた。彼女は再度ログイン情報を確認し、システムが何らかのエラーを起こしているのではないかと考えた。しかし、いくら試みてもアクセスは許可されなかった。


困ったリナは、同僚でありシステム管理者のジョンに連絡することに決めた。ジョンはリナの古い友人であり、記憶ストレージシステムの内部に精通しているため、頼りにするには最適な人物だった。


リナは急いでジョンにメッセージを送信し、デジタルアーカイブへのアクセス権限が突然失われたことを説明した。「ジョン、急いで助けてほしいの。デジタルアーカイブにアクセスできなくなってしまった。何が起こっているのか分からないの。」


数分後、ジョンから返信があった。「了解、すぐに対応するよ。少し待っていて。」


数時間後、ジョンがオフィスに到着した。彼はリナの席に座り、彼女のコンピュータにアクセスして問題の調査を始めた。リナは彼の作業を見守りながら、心の中でこの問題がどのように解決されるのかを願っていた。


「どうやら、システムに異常が発生しているようだね。」ジョンはスクリーンを見つめながら言った。「アクセス権限が突然変わることはまずないから、セキュリティ上の何か問題があるのかもしれない。すぐに調査するよ。」


リナはジョンの言葉に安心感を覚えたが、同時に不安も募っていた。彼女の調査が続行できないことで、記憶の消失の謎を解く道が遠のいてしまうのではないかと心配していた。


ジョンはシステムの設定を調べ、いくつかのアクセスログを確認した後、「大変だ、何者かがシステムに不正アクセスを試みている形跡がある。セキュリティの設定を見直す必要がある。」と説明した。


「それなら、私ができることは?」リナは必死になって尋ねた。


「まずは、セキュリティ問題を解決するまで、しばらくこの問題の調査を中断するしかない。」ジョンは答えた。「ただし、アクセス権限が回復したら、すぐに調査を再開できるように準備しておくよ。」


リナはジョンの助けを借りることに感謝しながら、調査が再開できる日を心待ちにした。彼女の決意は変わらず、記憶の消失の真相を突き止めるための努力を続けることを誓った。


「ジョン、本当にありがとう。早く問題が解決することを願っているわ。」リナは感謝の意を込めて言った。


ジョンは頷き、「心配しないで、すぐに対応するから。」と答えた。そして、リナとジョンは問題解決に向けて最善を尽くす決意を新たにした。

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