転生聖女の逆襲 ~裏切られた聖女は異世界の邪神と手を組み逆襲を開始する~

レルウェン

裏切りと邪神との契約

 「これより、聖女の名を騙った大罪人、セルフィナの処刑を執り行う!」

 「こんなのが、私の人生の結末だなんてね……」


 群衆の集まる広場に響き渡る朗々たる声。

 処刑の開始を布告する役人の言葉を聞きながら、柱に磔にされた私は、誰にも聞こえない程小さな声を漏らす。

 

 国民を欺いた偽聖女、それが私に押された烙印だ。




 『お願い、貴方の様な強い魂を持つ者の力が必要なの。世界の脅威たる大魔王を倒す為に力を貸して!』


 異世界転生に憧れていた女子大生だった私は、暴漢に襲われ死んだのだが、気が付けば見知らぬ空間に居た。

 私の前に立っていた女神シャルティーナと名乗った少女は、私に大魔王を倒す為に力を貸して欲しいと言ってきた。

 私は彼女の提案に条件を付けて承諾し、大魔王を倒す勇者のサポートをする聖女として異世界に転生した。


 セルフィナという名の少女に転生した私は8歳の時に聖力が覚醒し、聖女候補として当代聖女であるお師匠様から指導を受ける事になった。

 お師匠様の修業は厳しく、一人また一人と候補者は脱落していく。

 私も何度も挫けそうになったけど、私には叶えたい夢があったからお師匠様の訓練に必死に喰らいついていった。

 

 私の夢、それは転生する前に女神様と交渉して手に入れたチートスキルと前世で学んだ知識を活かして、この異世界で技術革命を起こしたいという夢だ。

 大魔王を倒して平和を取り戻したら、それを実現するんだ。

 それを目標に私は厳しい訓練を耐え、候補の中でただ一人残り、十六歳の時に亡くなったお師匠様から聖女の称号を受け継いだ。


 女神様が呼んだ一人目の転生者、勇者リヒトによって封印された大魔王、その復活が近づいている。

 私の住む国、リグティオン神聖帝国と教会は連名で大魔王討伐の聖戦の開始を宣言し、帝国やその属国、同盟国から精鋭が選抜された。

 

 神聖帝国第一皇子エリュシルドを指揮官とし、教皇の娘で元聖女候補の神官アステラ、魔導国元帥の娘リリアーナ、獣人国家の魔竜殺しの英雄ジーグレドラ、帝国随一の弓使いと言われる女軍人ユースティエル、ドワーフ族の英雄ヴィトゥルガット。

 

 そして聖女になってから旅をしていた私と出会い、背を預ける程信頼し合った相手。

 私が相棒と呼ぶ、勇者の末裔の青年アーヴィング。多くの魔族や魔物達を倒した英雄達が大魔王討伐に挑む事になった。


 聖女である私は、お師匠様が大魔王の力を抑え込む為に人生をかけて築いた破邪の大結界の制御と、彼らのサポート役として随行する。

 私を疎む教皇の意思が働いているのが容易に想像できた。

 

 それは私の出身が辺境の貧しい農村出身という、彼らから言わせてみれば卑しい身分と私の見た目にも問題があったのだ。

 家族や村の皆は誰も気にしていなかったのだが、私の髪は深い闇を思わせるような黒髪に、血の様に紅い真紅だ。

 その見た目が不吉だ、およそ聖女に相応しくないなどと陰口を叩かれているのだ。


 自分の娘こそが次代の聖女に相応しいと考えていた教皇は私を目の敵にしている。


 だが私としても大魔王討伐の名誉なんて求めていない。

 大魔王を倒して早く平和を取り戻して、私はこの世界で技術革命を起こすのだ。

 やる事やったら聖女の座は教皇の娘に押し付けて、家族と一緒に帝都で暮らしながら便利な技術を開発しよう、きっと楽しい毎日が来る筈だと私は心を躍らせる。


 大魔王封印の地で始まった大魔王討伐の戦いだったが、それは予想だにしない展開を迎える事になった。

 各国から選抜された英雄と言われた彼らは、大魔王に対してあまりにも無力だったのだ。

 リリアーナの魔法やユースティエルの矢は大魔王を守る障壁を打ち破る事は出来ず、剣皇と呼ばれる皇太子殿下の魔法剣も、魔竜殺しの大剣も、ドワーフの英雄の一撃も全て阻まれる。

 有翼の悪魔の姿をした大魔王は、一人また一人と英雄達を倒していく。


 お師匠様が破邪の大結界が構築し始めた百年前から、魔族や魔物達の力は結界の範囲内では大幅に削がれ本来の力を発揮できていない、そんな魔物達を狩っても成長などするものか。

 そしてその程度の魔物しか存在しないから、更に強くなろうと鍛錬を続ける者などほんの一握りだ。

 大魔王の言う通り、彼が封印されている百五十年の間に人間種は大結界の恩恵に預かり己を鍛える事を放棄し、大幅に弱体化したのだ。


 これがお師匠様が厳しい修行を課して、私にどんな時でも鍛錬を怠るな、己を鍛え高め続けろと言ってた理由なのだと理解した。

 私と共に戦い経験を積んでいるアーヴィングの力も大魔王には届かず、私を除いて全員が倒れてしまったパーティ。

 

 このままじゃ全滅だ。私はこんな所で死にたくないし、二年間共に戦った相棒であるアーヴィングを守りたかった。

 私の計画とは違うけど、やるしかない。

 腹を括った私は相棒に回復魔法をかけた後に、彼の手元に転がっている初代勇者が女神から授かったとされる聖剣エクスカリバーへと手を伸ばす。


 「セ、セルフィナ……な、なにを……き、君だけでも、に、逃げるんだ……」

 「大魔王が逃がしてくれるわけないでしょ……借りるよ、相棒」


 早く逃げるんだ、と弱々しく声を漏らす相棒へと断りを入れて、私は彼の聖剣を手に取った。

 それを見た瞬間、信じられないと言った様子の表情を浮かべる相棒。

 そうだよね、聖剣エクスカリバーって、リヒトの血族である勇者の末裔しか使えないって言い伝えがあるんだもの、でも使えちゃうんだ。

 

 血族以外でも勇者リヒトのように強い魂の力を持つ者、例えば彼の様に異世界から呼ばれた存在なら、十全にその力を振るう事が出来る。

 私はそうお師匠様に教わったのだ。あの人も多分使った事があるんだろうね。


 聖剣を手に私は大魔王に一騎打ちを挑み、己の持てる力を全てぶつけていく。

 後から倒れて動けなくなってもいい、平和を取り戻す為、相棒を助ける為にも必ずコイツを倒す。

 私は傷つきながらも大魔王と戦い、そして最終的には勝利した。


 『ク、クククッ……ハハハ……よもや、ニンゲン一人に倒されるとはなぁ……リヒトの小僧だって六人がかりだったんだぞ……ま、まったく、出鱈目な聖女だぜ』

 「それはこっちの台詞。私のお師匠様が人生を賭けてまで築き上げた破邪の大結界をもってしても、半減程度しか弱体化出来なかったアンタの方こそ反則だよ……」


 両膝を突いて、聖剣を支えになんとか倒れ込まないようにしている私へと、出鱈目過ぎる聖女だと笑う大魔王、これは奇跡みたいな勝利だ。

 お師匠様の作った破邪の大結界がなければ、私が聖剣を手にしても逆立ちしたって勝てるような相手じゃないのだから。

 フッと笑った大魔王の身体が急速に崩壊していく、この状況から復活する事など、もう出来ないだろう。


 「さようなら大魔王。私も全力が出せて、なんだかんだ楽しかったよ」

 『クククッ、そうかい……口惜しいが負けは負けだ。じゃあな、聖女セルフィナ』


 大魔王の身体が崩壊していく中、互いに別れを告げる。

 やがて大魔王の身体は全て灰になり、風に乗って散っていく。

 やっと終わった。緊張の糸が切れた私は、力なく地面に倒れ込む。

 後先考えずに全力で力を振るいまくったから、これしばらくは身動きすらも殆ど出来ないなぁと苦笑する。

 後始末は殿下達に任せよう。これくらいはやって貰わなきゃね。私は目を閉じて意識を手放した。

 

 


 私が目を覚ましたのは大魔王との戦いから二週間後だった。

 その間に何が起きたかをメイドに聞いた私はベッドから飛び起きた。

 大魔王が倒された事を察知して結界の領域外へと後退を開始した魔族や魔物達。

 エリュシルド殿下は教会と手を組んで魔族達への追撃、そして彼らを根絶やしにする絶滅戦争を開始していたのだ。

 皇帝陛下が病に臥せている事を良い事に、殿下は賛同する軍派閥を集め指揮権を握っている彼は強引に作戦を開始した。

 

 そして私達が大魔王討伐に出発した直後に帝都で起きた出来事、それは強い聖力を持つ新たな聖女候補が現れた事だ。

 候補となった令嬢は、私と共にお師匠様の元で結界について学んでいたアステラのサポートを受けて破邪の大結界を少しずつ拡張して、絶滅戦争に加担しているという。

 教皇は自分の娘を使って都合よく御せる駒が出来たと喜んでいる事だろう。


 止めなければならない、そんな事をやる前に戦火で傷ついた国土の立て直しや民の救済こそが先だろう!

 急ぎ支度を整え宮殿に向かった私は、そこで殿下やアステラ達と面会する。

 絶滅戦争なんてやっている場合じゃない、そんな馬鹿な事はやめて下さいと訴える私を心底鬱陶しそうに睨んでくる殿下。


 「煩いぞセルフィナ。これは教皇と協議し父上からも承認を得た事項だ」

 「大結界の制御に力を使いすぎて、無様に倒れていた貴方は黙っていなさい、大魔王を討伐した殿下を筆頭とする私達7英傑の威光を知らしめるためにも、これは必要な事ですわ」

 「は……? アステラ嬢、何言ってんの? 大魔王を……倒した?」


 これは決定事項だと告げる殿下に続く様に、私に黙っていろと威圧的に言い放つアステラ。

 ちょっと待った、今彼女はなんて言った? 大魔王を討伐した7英傑、彼女は何を言ってるんだ。

 私が問いかければ、何かに気付いたのだろう、彼女はサッと顔を青褪めさせ、殿下は驚愕に目を見開き固まっている。

 ここには居ないアーヴィング以外の者達を見回せば、彼らは皆一様に顔を青くさせている。

 これはアレか、私が力使い果たして気絶してたのを良い事に、彼らは大魔王討伐の手柄を自分のものにした訳か。


 「ど、どういう事だリリアーナ。記憶改竄の魔法は確実に行ったのだろうな?」

 「は、はいっ、か、確実に、ね、念を入れて二度同じ改竄をしたのに……な、なんでっ」

 

 どういう事だとリリアーナの胸倉を掴んで引き寄せ問い詰める殿下。

 長い緑髪を三つ編みにしている眼鏡をかけたリリアーナは今にも泣きだしそうな表情で記憶改竄はちゃんとやったと彼に言う。丸聞こえですよ殿下。

 うーん、多分その魔法私に効いてないわ。実力の差があり過ぎてね。精神系魔法の耐性を得る為の訓練とかもやったもん。

 

 そうかそうか、そんなセコイ事をして手柄を横取りした挙句に、こんなクソみたいな絶滅戦争までやってんのか……はっ倒すぞクソ皇子。

 まぁ武力に訴えたら勝てるのは分かってるけど、立場ってものもあるし、ここは穏便に交渉と行こうか。

 

 私は殿下に絶滅戦争の中止を要求する。

 大陸から魔を一掃する為の聖戦だと宣言して行っている絶滅戦争の中止、そんな事をすれば宣言をした自分と教皇の面子は丸潰れだと殿下は難色を示す。

 

 だが私が真実を第二皇子殿下に告げると言えば彼は顔を真っ青にさせる。

 ハーシェル第二皇子殿下は優れた政治力と権謀術数に長け国民の人気も高い御方だ。

 そして私は技術に関する相談をする間柄で、あの方とは近しい仲なのだ。

 あの方が兄達が事実を捻じ曲げて手柄を奪ったと知れば、必ず貴族を動かして真実を確かめようとする動きを見せる筈だ。

 それで事実だと発覚すれば、殿下の権威は失墜し、ハーシェル殿下に皇太子の地位を脅かされるだろう。


 事実の証明の仕方なら幾らでも思いつく、あちらの隠蔽はお粗末な上に、よく調べればおかしい点もある。

 簡単なのは武力に訴えて、相棒以外の6人の英雄達をボコるだけでも証明出来るだろう、私と彼らじゃ実力が違い過ぎるのだから。

 

 しかしこの一件、相棒も加担してるのかな。

 いや、彼は帝国貴族の地位は持っているがそれ程高い訳ではない、殿下や教皇によって圧力をかけられているのかもしれないと私は考えた。

 事実を捻じ曲げた上で、権力獲得の為に更なる戦争を引き起こしている殿下と教皇が許せない。


 まぁ彼らは詰んでいる、絶滅戦争を中止しても、私がハーシェル殿下に真実を打ち明けても、待ち構えているのは権威の失墜だ。

 私は待てと叫ぶ殿下を無視して部屋を出て行く、だが私はもう一つの可能性を考えていなかった。

 彼らがなりふり構わず私の口封じをしようとするという可能性を……。

 


 

 殿下の部屋を出たその足で私はハーシェル殿下に取次ぎを依頼したが、殿下は魔族襲撃の被害の大きな地域の視察に回っておられており、数日待って欲しいとの返答が来た。

 まだ本調子ではないし、ゆっくり待つとしようか、エリュシルド殿下が折れるのが先か、ハーシェル殿下が戻られるのが先か、私は主導権はこちらにあるのだと油断しきっていた。




 ある晩の食事の最中、私は胸を抑えて床に倒れ込む。

 胸が焼けるように熱い、ズキズキと身体が痛み、身体が殆ど動かせなくなっていく。

 毒を盛られたようだ、それもとびきり強烈な物を、私が倒れた直後に部屋へと荒々しく入り込んでくる騎士達と教皇と殿下、奴らが私付きのメイドを買収して毒を盛ったのだろう。


 「お前が悪いのだぞ、大人しく黙っていればこうする事は無かったのだ」

 「聖女セルフィナ、君はもう用済みだ。結界の制御は新たな聖女候補に行わせる。そしてその補佐をする我が娘アステラの名も、帝国に光をもたらした者として歴史に記されるだろう!」


 床に倒れ伏す私を見下ろしてお前が悪いのだと言い放つエリュシルド、そして教皇はお前は用済みだと笑う。

 こんな所で死んでたまるか! 

 私は猛毒に苦しみながらも立ち上がり、魔法を発動させて騎士達を一撃で吹き飛ばす。

 同時に回復魔法を行使して解毒を始める。


 「バ、バカな!? 常人なら即死レベルの毒だぞ!?」

 「こ、こんな所でっ、死ねるかぁぁっ! 聖女を、舐めんじゃないわよ!」


 一瞬にして守りを失った教皇は腰を抜かして尻餅をつき、エリュシルドは剣を構えているが私の気迫に気圧されてる。

 あと少しで毒も解毒できる、聖女を殺害しようとしたんだ、その罪は重いよ。

 私が二人へとゆっくりと近づいていく中、部屋へと飛び込んでくる影。

 エリュシルドと教皇にだけ注意を向けていた上に疲弊している私は、それにすぐに反応が出来なかった、ぞぶりという音と共に鋭い痛みが生じる。


 「あ、相棒……ど、どう……して……」

 「き、君が、君が悪いんだ、セルフィナっ!僕の、勇者の一族の矜持を踏み躙るような事をした君が悪いんだっ!」


 私の腹部に突き刺さった物、それはエクスカリバーだった。

 それを手にしたアーヴィングは君が悪いんだと叫ぶ。

 ああそうか、彼は脅されてなんかいないんだ、勇者の血族にしか扱えない聖剣を扱った私が認められなかったんだ。

 認めちゃった瞬間、彼と彼の一族の抱いていた矜持は砕けてしまうのだ。

 もっとも信頼していた、恋心すら抱いていた彼に裏切られた私は、剣を引き抜かれると床に倒れ込む。


 「ハ、ハハハッ! よ、よくやったぞ勇者アーヴィングよ!」

 「クククッ、セルフィナぁ、この神聖帝国次期皇帝である私によくも歯向かったな!? お前だけでは済まなさい、お前の家族も大罪人として処刑してやる! 罪状はこうだ、セルフィナは偽物の聖女で魔族達と通じていたとな! ハ、ハハハハハハッ!」


 ふ、ふざけるなっ、か、家族は関係ないっ!

 私はそう叫びたかったけど、もう声を発する事も出来ない。

 目の前が真っ暗になっていく、最後に見えたアーヴィングの顔は私を汚らわしい物でも見つめるような表情だった。


 私はあの場で死ななかった、捕らえられ地下牢獄に繋がれ、処刑を待つ日々。

 その間に面会を求めてきた者も居たが、それは打算があっての事だ、私から望む物が得られないと分かれば、汚らわしい魔女めと罵ってきた。

 私はこんな奴と戦いが終わった後は提携をして技術開発をしようとしたのかと溜息を漏らす。

 どいつもこいつもクズばかりだ、こんな事なら必死に戦って守らなきゃ良かったと心中で呟く。

 私を信じてくれている者からの情報では、頼みの綱のハーシェル殿下は帝都に戻れないよう足止めをくらっているらしい。

 あの方が戻って来られる前に、私を殺して全てを闇に葬るつもりなのだろう。

 皇帝陛下が臥せっておられなければと考え悪あがきをするも、それも間に合わなかった。


 そして処刑当日、磔にされた私に帝都市民達は口々に悪魔だの魔女と罵声を浴びせ、石を投げつけてくる。

 大方の情勢は知っていた、両親や弟や妹達は帝国軍によって殺害されたとも聞いている。


 私は偽聖女で魔族達と繋がっていて、大魔王との決戦でも勇者達の足を引っ張って妨害し、それでも彼らが大魔王を倒すと、今度は自分の地位を守る為に新しい聖女候補やアステラを殺害しようと画策したと広められていた。

 親しい間柄であった皇女殿下や私に好意的だった貴族は、弁明の機会も全く与えられず進められた処刑の決定に疑問を抱いているらしいが、この流れは止まらないだろう。

 

 「お前が死ねば全て丸く収まるのだ。帝国の輝かしき未来の為に犠牲になれ、セルフィナ」

 「死んだら終わりだなんて殿下も甘っちょろいお考えですねぇ……大魔王を殺せる程の聖女が、かつて国一つ滅ぼしたアーク・リッチの様に高位アンデットになったりしたら、勝てるのかとか考えないんですか? だから貴方は思慮が足らないって陰口を叩かれたり、弟君に揚げ足を取られるんですよ」

 「き、貴様っ……今すぐ処刑を開始しろ! 殺した後は遺体を焼き尽くせっ、灰一つ残すな!」


 処刑直前に他の者達と一緒に私の前に立ったエリュシルド。

 彼は冷笑を浮かべていたが、ちょっと煽ってやっただけですぐに激昂してすぐ処刑しろと命じる。

 

 だから脳筋バカ皇子とか裏で言われるんだよ。

 でも私は本当にアンデットになってでも復讐してやりたい気分だ。コイツらに裏切られ、全てを奪われ、家族も殺されたのだから。


 「愚者共に災いあれ! 震えながら待ちなさいっ、私は……私は必ずアンタ達に復讐してやるわ!」


 私は皇子や勇者達に呪いの言葉を吐きながら処刑された。


 


 『ざーんねん、貴方の物語はここで終わっちゃったわねセルフィナ。でもこれは元々私の筋書き通りだったの』

 「ア、アンタは……」

 

 次に目を開けた私の前に立っていたのは、私を異世界に転生させた女神シャルティーナだった。

 柔らかな金髪を揺らしながら私の前を歩く彼女、ここは彼女の居る神域で、私は両手足を鎖で縛られ吊るされている様な状態だった。


 「す、筋書き通りって、どういう事よ!?」

 『貴方は大魔王を倒すだけに呼び寄せた捨て駒だったの。先代聖女であるアナスタシアもね。あの子は結界を創るのと、当時暴れまわってた大魔王の腹心達を掃除する為に呼び寄せた……大魔王が倒れた今は、貴方も用済みなの。あの世界を導くのは、転生者ではなく純粋にあちらで生まれた者じゃなきゃダメ。新たに覚醒させた彼女が次の聖女となって魔族や魔物達を一掃して、あの世界は私の望むハッピーエンドを迎えるの!』


 な、何を言ってるのこの女は、私やお師匠様が捨て駒?

 私は彼女に掴みかかりたくて必死にもがくが、鎖はビクともしない。


 『ああ、貴方に要求されたスキルは回収させてもらうわ。新しい聖女に授けるから、でもスキルだけじゃ完璧じゃないし、貴方の知識や経験も抜かせてもらうわね。あの子はその力や知識を使って人々を導き幸せにして、私の為に世界を一つに纏めてくれる筈!』

 「ふ、ふざけるなっ! わ、私の知識や経験を奪うですって!? そんなの許す訳……」

 『貴方がここでどう足掻こうと何も出来ないでしょう? もう貴方の物語はおしまーい、ここからは私とあの子で新しい物語を紡いでいくからサッサと消えて頂戴』


 与えたスキルだけでなく私の知識と経験も奪うと宣言するクソ女神。

 ふざけるなと私は叫ぶが、アイツの言う通り私は指一本動かせない。

 悔しい、悔しいよっ、こんなクソ女神にいい様に利用されて、相棒にも裏切られて、守ってきた人々にすら魔女呼ばわりされて、私は何のために戦ってきたのよ!


 ——憎いかい? その女神が——


 声が聞こえる、憎いかと問いかけてくる声が、憎いに決まってる。

 このクソ女神も、私を蔑んできた教皇や教会の連中も、私が死に物狂いで戦って倒した大魔王を自分達が倒したとウソをついた英雄気取りのクズ共も、そして私を裏切ったアーヴィングも、私を魔女と罵り早く殺せと騒いだ民衆も、憎くて堪らない!


 ——ならば僕と契約しないか? そうすれば僕は君に復讐する機会を与えよう——


 『ちょっ……? ま、待って、こ、この邪悪な気配は……セ、セルフィナっ! そいつの声を聞いちゃダメ!』


 復讐する機会を与えてくれる? それは願っても無い提案だね、それに私はまだ消えたくない。

 声はクソ女神にも聞こえているみたいだ、聞いちゃダメとか必死に叫んでてウケるね。

 アンタが嫌がる事ならもっとやりたくなってきたよ。


 『ダメぇぇっ! そ、そいつと契約を結んだらっ、あの世界が大変な事になっちゃうの! お願いだからやめてぇっ!』

 「うっさい、黙っててクソ女神……いいよ。契約、結んであげる……だから私に頂戴。このクソ女神に、あの世界の連中に復讐するチャンスを!」


 ——ありがとう、君の決断に感謝しよう。これで契約は成立だ——


 私が契約を結ぶと言った直後、静寂に包まれていた神の領域にどす黒いオーラが溢れ出し、風が荒れ狂い始める。

 オーラを浴びた鎖が砕け散り私は自由を取り戻す、クソ女神は呆然とした様子で地面に座り込んでいる。


 『ハ、ハハハハハハハッ! ようやく、ようやく得られたよ! この世界へと侵攻する足掛かり、僕と契りを結んだ邪神の巫女を!』


 空間の歪みから姿を見せた存在、短い銀髪に金色の瞳を持つ10歳くらいの黒い法衣を着た少年が狂ったように哄笑を上げる。


 『初めまして、エルファラートの女神君、そして僕の大切な恩人である巫女よ。僕の名前はレゼンヴォーザ、滅びゆく世界から来た邪神だ』

 

 私達の前に姿を見せた少年は、芝居がかった動作で一礼して微笑み、自分は邪神だと名乗る。

 大魔王を倒す為に異世界転生させられ、利用するだけ利用されて消されかけた私。

 だがまだ終わりではなかった、止まりかけていた運命の歯車は再び動き出す。

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