第11話:冒険者ギルドのお約束 

 冒険者ギルド。


 剣と魔法の世界とは切っても切れない存在だ。


 全ての魔物を公的機関で倒せれば良いのだろうが、それだけの軍隊や騎士を雇うのは不可能だ。


 必要な分を必要な分だけ。


 そして国では対応が難しい時の対応要員として。


 国の手が届かない辺境の守りてとしても期待された冒険者ギルドは、様々な国と提携し、一大勢力となった。


 ギルド自体は中立を宣言しているが、属しているギルド員については個別の判断に委ねている。


 勿論戦いだけが全てではなく、採取や護衛。帳簿の整理や店番などの依頼もある。


 そしてギルドお馴染みのランク制度。


 当初は強さだけで決めていたようだが、時代が進むにつれて様々な要因を加味するべきだろうとなり、なんと三つの種類に分かれている。


 更に言えば冒険者ギルドと技巧ギルドの二種類があるのだが、一般職が冒険者で、専門職が技巧ギルドといった感じだ。


 この例えも少し変だが、気にしないでおく。


 ギルドのランクの種類は戦闘部門。生産部門。貢献部門の三つとなっており、まあ、詳しくは追々で良いだろう。


 個人的には、国を跨いだ組織がここまで勢力を広げられている事に驚きだが、俺の居た世界より個人の強さが重視されているせいかもしれない。


 普通は国対国だが、国対個人が成立する場合がある。


 流石に裏を含めれば個人では勝ちようがなく、正面切って戦った場合だけに限るが、抑止力としては十分だろう。


 さて、何故俺がこんな事を知っているかについてだが、ひな鳥の巣から帰る途中に冒険者ギルドのパンフレットを見かけたので、一部持ち帰って読んだのだ。


 事前情報とすれば悪くない量だ。

 ついでにギルドは24時間営業しているのと、この都市には複数の冒険者ギルドがある。

 行くのは最も近い冒険者ギルドと決めた辺りで、シラキリが目をこすり始めたので寝る事にした。


 そして翌朝。


「おはようございます。顔を洗ったら早速行きましょう」

「うむ。誘っておいてなんだが、おそらく悪漢も多い故、シスターサレンは十分に注意するのだ」


 男の時と違い、女だから注意しなければならない事。

 

 運悪く痴漢に反応して殴ろうものなら、俺が牢屋行きとなるだろう。

 とっさの反応でこの怪力を制御するのは無理だ。

 ライラが上手く処理してくれることを願おう。

 

「私も遂に冒険者に!」


 意気込んでいるシラキリだが、別に冒険者ギルドの登録は十歳以上なら誰でも出来る。


 ただ、個人で登録してからパーティーを組むのは大変なので、大体が最初にパーティーを組んでから登録している。

 昨日見かけたチラシもそう言う事だろう。


 何かしら技能があれば個人で登録しても何とかなるだろうが、シラキリは獣人の中では力が弱い方であり、ゲーム風に言えばスカウトやレンジャーと言ったクラスに該当すると思う。

 

 どちらも訓練が必要なので、孤児では難しい。


 因みにこれらは冒険者ギルドに限ったことなので、技巧ギルドはまた別となる。


 先ずは朝食を食べるために飲食店街の屋台でサンドイッチを買い、冒険者ギルドに向かう馬車の中で食べる。


「最近調合用の素材の入りが悪いね」

「初級ダンジョンで何かが起きたって話を知っているか?」

「あの三人組可愛く……すまん。何でもない」


 向かう先が冒険者ギルドなだけあって、聞こえてくる会話はそれらしいものが多い。


 因みに朝食を食べた後は目を閉じて瞑想らしきものをしている。


 俺は美人だが、目がつり上がっているせいで冷たい印象があるそうだ。

 それも威圧を感じるレベルなので、気をつけてくれとライラに言われた。


 ついでに、ワンチャン魔力を感じられないかなーと思ってたりもする。


『次の停車は東冒険者ギルド前。忘れ物にご注意下さい』


 …………まあ、そんなうまい話はないか。


「それでは降りるとしましょう」

「うむ」

「はい!」


 ぞろぞろと降りる人たちに続いて馬車を降りると、大きな木造の建物があった。


 これだけは俺のイメージするギルドと一緒だが、規模的にはかなりの差がある。


 この都市が大きいのもあるのだろうが、コンビニとスーパー位の差がある。


「おや? もしかして新人さんですか?」 

 

 三人揃ってギルドを見ていると、後ろから女性の声がした。

 振り返ると、ピンク髪を短く切り揃えた小柄な女性……少女? が居た。


 腰の後ろに二本の剣を挿しているので、おそらくギルドの人間だろう。


「はい。此方のライラの付き添いで登録しようと思いまして」

「うむ。強くなるためにしても、金を稼ぐにしても登録しておいて損はないからな」


 僅かな動きだが、ライラはそっと俺を守れる位置に移動した。 

 流石護衛を自称するだけはあり、大丈夫だとは思うが有り難い限りだ。


 ついでにシラキリは耳を少し動かしていた。


「ほうほう。それなら先輩である私が案内してあげよう。あっ、私はこういう者です」


 ピンク髪の女性はポケットからカードを取り出し、此方に見せてきた。


 取り出したカードは、所謂ギルドカードのようだ。


 名前とランクが書かれており、軽く自己紹介的なものが書かれている。

 

「ミリー・トレス。冒険者ランクはC級だと……」


 ライラはギルドカードを見て少し驚きながら読み上げた。


 正確には冒険者ランクはC級で技巧ランクは無し。貢献度ランクはD級となっている。

 

「そっ。先輩として新人を導くと貢献度が貰えるから善意って訳じゃないけど、先達が居るに越したことはないでしょう? どうかしら?」 


 完全なる善意ではなく、利があるからこその手伝いなら信用ができる。


 ギャルっぽい感じだが冒険者ランクを鑑みるに、それなりに強いのだろう。

 

 冒険者ランクと強さを比較する材料がないので、ただの当てずっぽうだがな。


 ライラがどうする? と聞くように此方を向いた。


「でしたらお願いします」

「任せてちょうだい! 名前は何て言うの?」

「私はサレンディナ。イノセンス教のシスターです」

「我はライラだ。シスターサレンの護衛だ」

「シラキリです!」

「よし! それじゃあ行きましょうか」


 ミリーさんの後に続いて冒険者ギルドに入ると、人でごった返している中、俺達に視線を向ける者が数名居た。


 正確にはミリーさんを見ているのだろうが、その余波を俺らも食らっている。


 まあ、ピンク髪とグラデーションの髪はこんな中でも目立つ。


 俺としては獣度が高い獣人や、手足に鱗が生えている竜人の方が珍しい。


「此処が見ての通り、冒険者ギルドの中だよ。あっちに技巧ギルドへ繋がる通路があるけど、一旦置いておくね。んで、受付はランク毎に違うから注意してね。パーティーの仲間を募集する時は向こうに見える掲示板を利用すると良いよ。依頼を出したい時は専用の受付があるからそっちでやってね。それから……」


 旅行のガイドみたいにつらつらと、ミリーさんは冒険者ギルドの事を語った。


 よくそれだけ覚えられ、噛まずに言えると感心するが、だからこそランクを上げられているのだろう。


 ミリーさんが話してくれた内容は、ギルドを使用する上での注意点が主だった。


 使う受付の種類や、依頼を受ける際の注意点。仲間の募集の仕方や依頼料の分配方法。


 ギルド内で武器を抜くのが禁止だったり、受付にはあまり高圧的に接しない方が良いとかだ。


 珍しいのだと依頼で揉めた場合は、ギルドが介入するシステムがある。


 通常は依頼主と依頼を受けた者でのやり取りとなるが、例えば依頼主が貴族だったりすると理不尽な目に逢う事も珍しくない。


 しかしギルド保険と呼ばれるものに入っておくと、もめ事が起こった場合ギルドが介入し、中立的な立場で解決してくれる。


 これは逆のパターンもあるが、両者にとって良いシステムだろう。


 名前の通り保険なので、入る入らないは個人の自由だが、有事に備えておくのは基本だろう。


 それと武器の貸し出しや、初心者講習。

 戦闘訓練なども有料だがある。


 ついでに魔力量の測定や属性の測定も出来るが、ミリーさん的には値段と効果が釣り合っていないのでお勧めはしないとの事だ。


 知らなくても魔力の流し方さえ分かれば、属性は総当たりで良いし、魔力量は魔法が撃てなくなるまで使えば分かる。


 わざわざ金を払うのもばからしいそうだ(意訳)


 因みに技巧ギルドとは、建築や医療。宗教や錬金術。商人や職人などを一緒くたにしたギルドだ。


 ランクは技巧ランクとなっており、冒険者ランクとは違った形で上がる。


 俺も宗教の本登録が終わったら、技巧ギルドの方も登録するとしよう。


 先程ミリーさんのギルドカードで見た残りの貢献度ランクについてだが、読んで字の如くである。


 ギルドや国。或いは人に対して良い行いをしたかどうかでランクが上がる。


 一見無意味なランクと思われるかもしれないが、この貢献度ランクは割と役に立っているそうだ。


 主な目的は、ギルドに登録している人達の素行を良くするためだ。

 

 この貢献度ランクを上げるとギルドから様々な恩恵を受けられるようになる。

 依頼に掛かる税が安くなったり、ギルドでの買い物が安くなったり、提携している店の利用時にサービスや割引があったりする。


 更に国間を移動する際、国境での検査や待ち時間が少なくもなる。


 他にもありがたいサービスが色々とあるが、それもあってか貢献度ランクを上げるのは大変だそうだ。

 

 査定も厳しいらしいが、俺達にはほとんど関係ないだろう。

 

「こんな所かしらね。それと、貢献度ランクがC級以上になれば、個人でも転移門が使えるようになるわよ」

「転移門ですか?」

「そっ。この都市限定だけど、ギルド間の移動が素早く出来るようになるわ。普通に都市の端から端に行こうとしたら大変だけど、転移門が使えれば一瞬なのよ」


 ミリーさんはだから早くC級に上げたいんだよねーとにこやかに良い、俺達を登録の窓口に案内していく。


「ハロー。新規を三人連れて来たわよー。ついでに説明もしておいてあげたわ」

「これはミリーさん。いつもありがとうございます。査定についてはそちらの三人の登録が終わり次第となります」

「了解。今日は暇だし、一緒に居ても良い?」

「構いませんよ」


 ミリーさんは受付に居る女性の人と親しげに話した後、受付の前にある椅子へ座る様に促してきた。


 因みに椅子があるのは登録用の受付と依頼受付の所だけみたいだ。


「ホロウスティア東冒険者ギルドにようこそ。私はマチルダと申します。確認となりますが、三人とも冒険者ギルドへの登録でお間違えないでしょうか?」

「構わぬ」


 個人的には構うのだが、まあ黙っておこう。


 マチルダさんは耳が横に長く、優しそうな目をしている。

 俗に言うエルフと呼ばれている種族だろう。


 種族名がエルフかどうかまでは分からないが、後で調べよう。


「承知しました。此方の申請書に記入をお願いします。代筆も可能ですが、後程語学の講習を受けていただくことになります」

 

 最低限の読み書きは必須って事か。

  

 ただ働かせるだけではなく、教育の面でもしっかりしているのは良い事だ。


 それと、多分読めるから書く事も問題ない…………筈だ。


 書くのは名前と年齢。それから保険加入の有無。

 パーティー又はクランへの加入予定があるか。

 新人訓練を希望するかどうかだ。


 訓練か……あまり金に余裕がある訳ではないが、受けておいて損はないだろう。


 どうやら登録時に訓練を希望する場合割引もあるみたいだし。


 ついでに年齢は十七歳にしておこう。

 何故かとは聞かないでくれ。

 

 ライラとシラキリと少し相談しながら申請書を書き終え、マチルダさんに渡す。

 シラキリの分はライラが代筆をしてくれたが、シラキリには後で文字の書き方も教えなければな。


 因みにライラは十四歳。シラキリは十一歳みたいだ。


「問題は……無さそうですね。ギルドカードを作成してきますので、ミリーさんからギルドについて気になった点や、疑問点があれば聞いおいてください」

「いや、それって職員の仕事っしょ!」

「査定にプラスしておきますから、よろしくお願いしますね」


 マチルダさんは軽く笑った後、申請書を持って席を外してしまった。

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