都会に疲れきった限界社畜、田舎に帰って代々伝わる家守りロリ神さまにあまっあまに癒やされる。

ミオニチ(コミック電子1巻7.16発売)

第1話 帰郷。おかえり、ぬしさま。

(蝉の鳴く声)


(年季の入った横開きの扉が少し軋みを上げながら、ゆっくりと横にずれる音)


(奥から、体重の軽い足音が逸るように小走りに駆けてくる音)


*↓少し息を切らせ、はずませながら。喜びの混じった幼い声色で。


「おお! よう帰ったのう……! 本当に、本当に久方ぶりじゃなぁ……! まったく。ぬしさまときたら、町の学校を卒業して家を飛び出してから、ひいふうみぃ……だいたい10年ほどになるかや? ここに帰ってくることはおろか、文ひとつすらろくによこさずに……どうした? 泣いて、おるの……わひゃっ!?」


(体格差のある大きな体に突然すがりつかれ、玄関の上り口で尻もちをつく音)


(一拍おいて、か細く息を飲む、音)


「……よいぞ?」


(衣擦れ、さらりと長い髪が揺れる音)


(大きな体を小さな体で抱きしめ返す。やさしくやさしく、そっと背中を撫ぜる音)


「うむ。よいぞぇ? この白絹しらぎぬの……おキヌばあやの胸でたぁんと泣け。なぁに、遠慮はいらぬ」


*↓ 顔を近づけ、労わるような声色で耳もとでやさしくささやく。


「だぁれもおらぬよ? ここには、ぬしさまとわらわだけじゃ。そのように声を抑えずともよい。ぬしさまがいままで溜めてきたモノ、その心のおりを存分に吐き出すがよい。そして、どうかぬしさま? ばあやに聴かせて、ほんの少しだけでも、分かちあわせておくれ?」


(背中を、指先でそっとやさしく、とん、とんとたたく音)


「ほら。ぬしさまが泣きやむまでおキヌばあやが昔のように、こうしてぬしさまの背中をずぅっとなでていてやるから、のう?」


「うむ。……うむ。……そうか。そうか。……つらかったのう。がんばったのう。うむ。……うむ」


(背中を、あやすように指先でそっとやさしく、一定の拍子で何度か、ゆっくり、ゆっくりとたたく音)


「……いいや? ぬしさまは、決してまちがってなどおらぬよ? うむ。生まれたときからぬしさまを知るこのおキヌばあやが保証しようぞ。よしよし。本当に、本当にようがんばったのう。うむ。……うむ」


(心音。より強く抱きしめられ、一定のリズムで心地良い拍子が耳にとどく)


「うむ。……うむ。本当じゃ。おんや? このおキヌばあやがぬしさまに嘘をついたことがあるかや? うむ。……うむ」


(背中を、あやすように指先でそっとやさしく、一定の拍子で何度か、ゆっくり、ゆっくりとたたく音)


「うむ。……うむ」


(蝉の鳴く声)


(二回繰り返す、涼やかな風鈴の音)


「…………ぬしさまや? もしかして、寝て、しもうたかや?」


(背中を、指先でそっとやさしく、とん、とんと二回たたく音)


「ふふ。あどけない寝顔をしおって。……こうしておると、なんだかぬしさまがまだ小さなわらべだったころを思い出すのう」


(衣擦れ。髪が揺れる音。起こさないようにそっとやさしく、けれどきゅっと強く抱きしめる音)


*↓起こさないように小声で、そっと耳もとでささやく。嬉しそうな声色、少しだけ涙声で。


「おかえり、ぬしさま。よう生きて戻ってくれたのう。おキヌばあやは……わらわはそれで、それだけで、本当にたまらなく、たまらなぁくうれしいのじゃ。だから、いまはぬしさまの生まれ育ったこの地でゆっくりとゆっくりと、その傷ついた心と体、休めるがよいぞ。……のう。わらわの愛しい愛しい、この世でただ一人のぬしさまよ」

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