第13話ー【干支の謎】探索:樹


 四方を四人それぞれで探索することになり、皆で適当に振り分けた結果東側の本棚を担当することになった樹は、本棚を眺めて呆然としていた。


「えぇと……あれ、だよね?」


 樹の視線の先には、黒い本に囲まれただ一つポツリと存在する赤い本があった。

 その赤い本に狙いを定め、それを取る為に手を伸ばすのだが……。


「んーっ!!!んーっ!!!」


 樹の身長は少し低く、ちょっと高めの方にある赤い本を取る為、必死に背伸びをした。


「届かないなぁ……んーっ!!!んーっ!!!」


 背伸びをしても中々手が届かない。


「んーっ!!!はぁはぁ……」


 体力があまり無く、かつ運動が苦手な樹は背伸びをするだけでも身体に負担が掛かり、息切れを起こした。


「んーっ!!!やっぱり駄目だ……僕じゃ届かないのかなぁ……」


 樹が必死に背伸びして、あともうちょっとで届く位置。

 この位置は蒼や陽葵ならすんなりと取れる位置なのだ。

 

 だから誰かに応援を頼もうとしたが……蒼は銅像を舐め回す様に見ながら熟考していて水を差しにくいし、陽葵に頼むのは男として何か負けた気分になるし、かと言って綾華に頼んでも何にもならないし……。

 そんな思考の果て、そういえば椅子あるじゃん……となった樹は椅子を頼ろうとするが、その途端、ある思い出がフラッシュバックした。


 そう、あれは中学生の頃の話。

 小学生の時までは軒並み、皆と同じ位の身長があった。

 だが中学生になってくると成長していた筈の身長が、揺らぎを見せぬ山の如くピタリと止まったのだ。

 それでも僕は、身長が低いことに何も思わなかった。

 それは身長は遺伝によるモノが多く、低身長の家系に生まれた僕が低身長なのは何も驚くことじゃないからだ。

 しかし、中学生のある日、事件が起こった。

 僕がいつもの様に台を使っていると、後ろの方で女子二人がコソコソ話をしているのに気づき、しかも、その内容が聴こえてしまったのだ。

「ねぇねぇ……アレが樹先輩でしょー?」

「そうそう」

「台使ってて可愛いねぇ……」

「でしょー!小動物みたいで可愛いよね!」

「マジ分かるぅ!」

「しかも樹先輩、学年で成績トップなんだよー?」

「えぇ!?可愛くて頭良いとか反則~」

「それなー!」

 最初の方はコソコソ話だった。

 しかし!途中から普通の声で話し始めたのだ!!

 男の子なら誰しもカッコイイと言って貰いたい!

 それが思春期の男子なら尚更だ!!

 それがなんだ!小動物みたいで可愛いって!!

 カッコイイって言ってくれえええええ!!!

 ……………………僕としたことが、クールじゃなかった。

 そう……これが僕に起きた事件であり悲劇だったのだ。


「ヤバい……思い出したら泣きそう…………」


 ポロリと流れた男の涙を拭い、謎に思い出したトラウマの所為で傷ついたプライドを癒すべく、棚の方に戻り、また背伸びした。


「椅子なんか無くなって……絶対にっ、取って、やる!」


 樹が脚をつれる程に伸ばし、腕が肩から取れそうになるくらい背伸びしていると、肩にツンツンと合図が来た。

 誰かに呼び出しされたので背伸びをやめ、合図が出された右側を見ると、そこには満面の笑みを浮かべた綾華が立っていた。

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