置き去りな青春
@shikakita
青春への期待
乗るはずだった電車がまた1本、私たちの目の前を通り過ぎていった。もうすぐ夏休みというこの時期にそれだけの時間外にいれば、肌はじめじめと水分を帯びて耳の横を数滴の汗が流れ落ちていく。
「・・・ひな、どうしよう。
「どうしようって・・・優実の答えが出るまで待つよ。」
この親友はいつもこうだ。優実が何かを決めようとする時は小一時間悩む。少し前に流行っていたタピオカ屋に行った時も並ぶかどうかで悩み、並んでからも何にしようか悩み続けた。
「・・・ひな、やっぱ帰ろっか。」
「はぁ?」
「いや、ほらさ。なんていうか今日じゃないっていうか・・・青木くんだって急にこんな事言われたら困るじゃん?」
「・・・」
イライラする。普段なら優実が何にどれだけ悩んだとしても待っていられる。しかし陽が傾いてきたとはいえ、梅雨が明けてすぐのこの時期に散々待たされてウジウジされるとストレスが貯まる。
「まだ夏休みまで時間あるしチャンスはあるよね。明日でも明後日でもさー。」
「あん?」
「・・・へ?」
由美から間抜けな声が出た。それもそうだろう。普段なら優実が何を言っても仏の如く優実が決断するのを涼しい顔をしてる私から、低いドスの効いた声が飛び出したからだ。
「じゃあ、明日ならやれんの?明後日?」
「う、うん。明日にはきっと勇気が湧いてて青木くんに可愛く告白を・・・」
「嘘つけ!」
「ひぃ!」
思ったよりも声量が出た。暑さで私の声を抑えるブレーキが壊れたみたいだ。優実はビクッとしている。マンガのキャラクターみたいなヘンテコな声が出ていた。150センチにも満たない小柄な私だが眼光は鋭く、声も大きい方だ。
「お前、昨日も一昨日もずっと同じこと言ってるだろ?」
「そんなこと・・・」
「あ・る・の!そんなことあるの!今日出来ることなのに明日に伸ばしてるようなことは一生出来ないんだよ。そうだよな?」
「うん・・・」
「優実はいつまでも青木に告白出来なくてもいいのか?」
「・・・いや。」
優実はボソッと返事をした。私はそんな小さな返事を許せるはずもなく。
「は?聴こえない!」
「いや!!!」
「じゃあ、どうすんの?」
「青木くんに告白してくる。今日出来ないことが明日出来るわけないもんね!」
「そうだ優実!いつ行くんだ?」
「今から!」
「よし、行ってこい!」
私は優実の背中を右手で思いっきりひっぱたいた。その瞬間、手にかなりの熱がこもる。
「うん、行ってくる!ひな、ありがとう。がんばるね。」
「うん、頑張れよ!」
優実はホームから走り出し改札口へと向かう連絡橋に続く階段を全速力で駆けて行った。その背中を見ていると段々と冷静になってきて先程までの青春ドラマの1シーンの様な、やり取りに顔が熱くなってくる。この時間帯は駅の利用者が多い訳ではないが、ちらほらと同じ制服を着た生徒が電車を待っていた。
黒歴史に残りそうな人生の1ページになったが悪い気分ではない。心臓は高鳴り優実の背中をひっぱたいた右手はまだジンジンと脈を打ち熱を帯びている。青春とは無縁だった私の高校生活。部活も終わり何もなかったはずの青春に何かを期待している自分がいる。
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