第4話
「うおおおおお、マジでラスファンの世界じゃん…!」
俺は興奮した声を出す。
周囲を行き交う人々が変な奴を見る目を俺に
向けてくるが、今はそれどころではなかった。
バハムートをなんとか倒した俺は、ハンターギルドでハンター登録をするために街へとやってきていた。
そこに広がっていたのは、まさにゲームの中で何度もみたラスファンの街並みそのものだった。
中西風の建物と道。
そこを行き交うのは、さまざまな格好をした人々、あるいは亜人たち。
まさにゲームの中でよく目にするファンタジックな世界が俺を圧倒していた。
「エルフ…ドワーフ……あの格好は確実にハンターだよな……なんかようやく実感湧いてきたな…」
自分がラスファンの世界に転生してしまったことをしみじみ実感しながら、俺はハンターギルドを目指して歩いた。
何度もプレイしたラスファン世界のマップは、隅々まで頭に入っている。
俺は少しも迷うことなくハンターギルドの前までやってくることに成功した。
「頼もう!」
若干テンション高めで両開きの扉を開く。
中へ入ると、慣れ親しんたラスファンのハンターギルドの光景が目に飛び込んできた。
入ってすぐの場所にある酒場のような空間。
そして奥にある受付。
中央にはさまざまなクエストの依頼書が並べられた掲示板がある。
「「「ははははは!!」」」
「おいなんだあいつ!?」
「見ろよあれ!!」
「馬鹿だろあいつ」
ハンターたちが俺の装備を見て指を刺して笑ってくる。
無理ないことで、初期装備のままの俺は、腰に褌を巻き、錆びた剣を帯剣しただけのほとんど裸見たいな格好だった。
早く素材を換金した金でまともな服と装備を買おう。
俺はハンターたちに笑われまくって顔を赤くしながら奥の受付へと向かっていく。
「こ、こんにちは…今日はどのようなご用件でしょうか…」
受付に辿り着くと俺の格好に若干引き気味のお姉さんに出迎えられる。
「あ…二次創作でめちゃくちゃ脱がされてるギルドのお姉さん…」
「は…?」
「いや、すみませんなんでもないです」
つい思ったことを口にしてしまい、めちゃくちゃ睨まれる。
俺は慌てて謝ってから、名前がないにも関わらずプレイヤーたちの間で熱狂的な人気を博していたお姉さんに要件を伝える。
「ハンター登録を行いたいと思って……頼めるでしょうか」
「はぁ……ハンター登録ですか。でしたら登録料をいただくことになりますが…」
「素材換金料で支払っても問題ないですか?」
「素材の値段が登録料を上回っていれば問題ないですけど……素材というのは?」
「これなんですが」
俺はカウンターにバハムートから採取した牙を乗せた。
受付のお姉さんの目が大きく見開かれる。
「ちょ、なんですかこれ!?いったいどこ
で!?」
「どうかしましたか?」
「これ、ドラゴンの牙じゃないですか!?最高級の武器素材ですよ!?」
「いや、そんなの見たらわかりますけど」
「…!?!?」
受付のお姉さんが信じられないものを見る目で俺を見てくる。
確かにドラゴンの牙は最高級の素材だが……ラスファンを何度もクリアして最高級の素材をいくつもストックしていた俺にとっては別段珍しい素材ではない。
強いハンターなら当たり前に持っている素材だし……そこまで驚くようなものだろうか。
「こんなものいったいどこで…あなたはいったい…?」
「あの……登録作業は…」
「はっ!」
我に帰るお姉さん。
自分の本文を思い出したように慌てて素材を鑑定し、登録作業を進める。
ステータス鑑定をしてもらい、武器素材を換金して得られたお金から登録料を支払うこと
であっという間に登録作業は完了した。
「す、末長くギルドのご利用をよろしくお願いします…」
無事にハンターライセンスを取得することに成功した俺は、最初の時とはすっかりと態度の変わった受付嬢に見送られながら、ギルドを後にしたのだった。
「何者なのあの人…」
たった今ハンター登録を終えてさっていった男を思い返し、受付嬢は呆然としていた。
裸にふんどし、装備は錆びた剣のみという奇怪な格好で訪れたその男の名前はヒビヤというらしかった。
そのあまりにふざけた格好に、受付嬢はヒビヤのことを冷やかしか何かだと思っていたのだが、登録料を支払うためにとなんでもないかのように出された武器素材を見て度肝を抜かれるほど驚いた。
ドラゴンの牙。
それは最高級の武器素材だった。
日々何人ものハンターの素材換金作業を行なっている彼女でも滅多に見ることのない素材で、売れば大金になる。
そんな高級で希少な素材を、低級の薬草でも扱うかのように出してきたヒビヤに受付嬢は開いた口が塞がらなかった。
「レベルも120だったし…」
さらに驚いたのはその後で、ヒビヤのレベルは120を超えていたことだった。
レベル120と言えば一握りのハンターのみが到
達出来る頂の境地だ。
いったいこのギルドにレベル100を超えているハンターが何人いただろうかと受付嬢は思い返してみる。
おそらく両の手で数えられるほどしかいなかったはずだ。
「本当に何者なの…なんであんな格好を…」
そしてそれほどのレベルへと至った者たちというのは、一目見てわかるような格好や雰囲気をしているものなのだ。
高級装備で身を固めていたり、部下に守られながら歩いていたり。
にも関わらず受付嬢には一目でヒビヤが強者だと見抜けなかった。
ヒビヤが裸同然の格好であり、その振る舞いもお調子者のそれで全然強そうに見えなかったからだ。
装備は錆びた剣一本で、今時田舎から出てきた新参ハンターだってもう少しマシな装備を持っているだろうという貧弱さだった。
見た目と中身が全く釣り合っていない謎の大型新人ハンター。
そんな触れ込みで、ヒビヤの噂は、瞬く間にギルドの職員たちに広まって行ったのだった。
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