一方そのころ
無数の星々が輝く宇宙空間。
当然そこに昼夜は無く、だから自分の眠気だとか腹の虫の具合が指標になる。
時計を見てそれに合わせればいいじゃないかと言えばそうなのだけど、あいにく幼い頃からそういった習慣は無かった。
世界の昼夜はあたしにとっての昼夜じゃない。
何かに没頭すれば、二日でも三日でも起きたまま机に向かい続けたし、そうやって体力を使い果たしたら一週間だって眠り続けて見せた。
「さて、今回は・・・・・・一体どれくらい起き続けることになるやら」
目的地は地球。
聖剣使いのダージリンが居る場所であり、おそらくそこに聖剣とアルの魂もある。
群星ウサギを殲滅してから丁度半日ほど経った頃合いだろうか。
魂単独でいったいどれほどの間存在できるのか、それは研究されていない。
そういった事態に陥ることなどあり得ないはずだからだ。
ところが起こってしまった。
群星ウサギをたおして尚アルは目覚めないのだから、もう近くにアルの魂が無いのはほとんど確定みたいなものだ。
アルと行動を共にするようになってどれくらいになるだろう。
長いような気もするし、短いような気もする。
いや、適切に言い換えるなら・・・・・・。
「長い間一緒にいたけど・・・・・・今生の別れにはまだ早すぎるわよ」
地球にたどり着くまで、あたしに出来ることは少ない。
せいぜい主のいないアルの肉体を本人に代わって管理するくらいだ。
それ以外は地球につかないことにはどうにもできない。
窓の外には幾千の星々の灯が流れていく。
二人いたときは多少遠足気分ですらあったこの船旅も、一人になった途端、潜水艦で海中プランクトンをかき分けて暗闇を進んでいくような、心細い気分だ。
「流石に遠いわね・・・・・・」
いっそこの飛空艇まるごと転送魔法で地球へ飛ばしてしまいたい。
しかしそんな規模の設備があるわけでもないし、まだ魔法としての認可が下りてすらいない魔法を使ったのだから自分の星に戻ったら即身柄拘束だろう。
可能な手段の中で、こうして直接追いかけるのが一番確実で、一番早い。
こういう事態を想定していたわけではないけれど、派遣する聖剣使いもこっちのコネで固めておいてよかった。
ダージリンにも事情は説明したし、向こう側でうまく動いてくれるはずだ。
「・・・・・・」
アールグレイ。
特別何が得意ってわけでもないし、なんならむしろドジな助手だったけど・・・・・・。
まさか居ないとこんなにも調子が狂うなんてね・・・・・・。
自分の情けない思考に「ふ」と乾いた笑い声が漏れる。
あたしはあたしの憧れる研究者の姿よりよほど人間らしく、そして不出来であるようだ。
何をしても気がまぎれないので、その温度に寄り添うようにアルを寝かせてあるベッドの方へ向かう。
そして、事情を知らなければただ眠っているようにしか見えない少女の足元に腰を沈めた。
すぅすぅと寝息が聞こえる。
そのリズムを感じながら、瞳を閉じる。
こうすることで「アルは生きている」と安心することが出来た。
ベッドの上、無意識にアルの手に自分の手を重ねて、空を蹴るように足を揺らした。
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