おひとりさまの魔女生活

カエデネコ

第1話 私は求めるおひとり様を!

「静寂。平穏。自由。最高の時間ね。これよこれ!私が求めてるのは!」


 心地よい風が流れる。木の葉や草の音が擦れる音がする。この間から光が差し込み、程よい光源。木に吊るしたハンモックに寝転がりゆらゆら揺らしながら、本を読む。木製の移動式テーブルの上にはおやつとアイスティー。


「お師匠様!そろそろ起きてくださいよ。僕なんてやっと水汲み終わって、ヘトヘトなのに、昼ご飯まで作っていたんてすよ!食べてください。あっ!おやつ、また食べてる!昼ご飯入らなくなりますよ」


 ……終わった。静寂よさようなら。


 横からうるさく言ってくるのは自称弟子のカイ。白い銀髪にアイスブルーの目をした可愛らしい少年は冷たい雪のような雰囲気を纏っている。中身は違うけど。


「うるさいわねぇ。誰が師匠なのよ!弟子をとった覚えなんてないわよ。さっさと自分の家に帰りなさい!私は一人が良いのよっ!」


「ひどいですよ!こんなにこき使っておいて!」


 ちょっと傷ついた顔をしている。あーあー……変な小僧を拾ってしまったものよね。あんたは私のお母さんかってくらい口やかましい。


「良いですか?朝はコーヒーだけだったでしょう!?野菜サラダ作っておいたのに、なんで食べないんですかっ?栄養偏りますよ!」


「葉っぱはウサギの食べ物よ」


「お師匠様早死にしますよ!」


 自称弟子のカイは家事に長けている。拾った時は家政婦代わりに良いかと思ったけど、細かい性格がめんどくさすぎる。無視してハンモックに寝そべり続けようとすると、違う声が降ってきた。


「早死してもらったら困るなぁ。オレと結婚してもらわなきゃいけないのになぁ」

 

 その声にズリッとハンモックから落ちかける。


「……なにしに来たのよ」


 半眼になって相手を睨む。背が高く黒髪でガーネットのような輝きを放つ目をした青年はニヤッと笑う。身なりはかなり良く、高級品の布でできたものを身に着け、帯剣している剣には家紋が刻まれている。相当高い身分であるのがわかる。


「つれないなぁ。オレの婚約者なんだから、ニコニコ出迎えてくれよ」

 

「違うわっ!元婚約者でしょ!?それも小さい頃の話じゃないの。今は妹の婚約者でしょ!いつまで言ってるのよ。そもそも私は1人がいいのよ。さっさと帰りなさーい!」


「君の妹を婚約者だとオレは認めてない。勝手に家同士が決めて勝手に結んだんだろ。オレはアウラが良いんだ」


「なに、子どもみたいなこと言ってるのよ。私とあなたの婚約も家同士が決めたものだったじゃないの。さっさと帰ってちょうだい!私はイグニスとの婚約破棄されてラッキーなのよ。この一人の生活最高よ」


「アウラ、そんなこと言っていいのか?」


 イグニスがじっと私の目を見つめる。端正な顔立ちのイグニスはかなりの美青年。こうやって見つめられたら、そのへんの令嬢たちは頬を添めて大騒ぎするだろう。わかってて、やってる気がする。イグニスは自分の魅力をわかってて、私を見つめ、なんなら、距離をさりげなく詰めてきている。赤色の目に映るのはミルクティー色の長い髪に金がかった緑色の目をした自分がいる。


 距離をとろうにも、私はハンモックに包まれていて、身動きとれない。まるで蜘蛛の巣にからめとられた自業自得の虫……いや、海で寝そべるオットセイ?こんなことならカイが声をかけたとき、起き上がっておくのだった。


「オレはいまだに君のことが好きなのに……」


「私はなんとも思ってないわよ」


 一瞬、赤い目が寂しげに光る。だが、それも一瞬で、すぐに自信に満ち溢れた彼に戻り、ニッと人の悪い笑みを浮かべた。


「コレいらないのか?」


 ごそごそと出してきたもの。


 そっ、それはっ!!!!


「うわぁ!おいしそうなヒレ肉!!えっ!?エビ!?巨大なあの幻のエビと言われるやつじゃないですか!?」


 先にカイが反応した。食べ物に意地汚い……私がまるで食べさせてないようなくらいキラキラの目でイグニスを見ている。


「その通りだ。最高級品の食材を土産に持ってきた。いらないのか?いらないんだな?」


「うっ……イグニス!お金に物言わせて汚い真似するわねっ!」


「なんとでも言えばいい!オレはアウラとの時間が作れるなら、どんな手でも使う!」


「餌で釣ってますね。只今絶賛、愛を食べ物で釣り中ですね」


 ボソッとカイが呟く。その言葉を無視し、私の鼻先にぶら下げる高級食材たち。


「デザートは王都の名店のケーキだよ。季節限定タルト。今しか食べれないやつだ」


 甘いものまで持ってきたとは……よくわかってるじゃないの!私は気付いていたら口走っていた。


「どうぞ。イグニス、ゆっくりしていって」


 心が弱い!弱すぎるわよ!私!!ここは抵抗するのよ。一人楽しすぎる時間のために追い払うのよ!!


 そう思うのに美味しい食材の前には無抵抗になってしまったのだった。食い意地のはった師は弟子と変わらなかった。

 

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