第154話

【川サモン】は淡水に生息する鮭科の魚なんだろうな。このノリなら【渓流サモン】や【湖サモン】もいそうだぞ。『対物簡易鑑定』の結果は予想通り淡水に生息するサモンの仲間だった。前世で言うアマゴだそうで。


アリサお姉ちゃんは魚を三枚におろすのが上手だった。流石、冒険者。野営飯の話とか聞きたい。中骨に付いた身はこそげ取られて【蛇魚】の餌になっていた。残飯は区毎に設置されているスライム処理場に持っていけば二十四時間いつでも処分できるのが便利。


【川サモン】は岩塩と【長胡椒ヒハー】を振って下味をつけた後、小麦粉をまぶしてソテーにした。【茄子花芋】はマッシュポテトとにした物と、皮付きのまま櫛切りにしてフライドポテトに。後は白いパンと大麦パンに猪肉の串焼き。そして情報規制の関係上、飲む為には消音の魔道具が必須の冷やしエールだ。


こと一本【樹樹じゅじゅ菜】はめっちゃウケた。



そして肝心の冷やしエールを飲んだアリサお姉ちゃんの感想、その美味さに絶叫したのは勿論だけど、一杯飲み干した後の発言が冷静だった。


「なにこれ、凄い!! これ売れる!! メチャ売れするのは見えるけど、肝心の冷やしはどう運用するの?」


「俺達はパイク=ラックの秘匿魔法で冷やしてもらっていたが、今、報告・申請中なのは冷やしの為の魔道具を作るべきだという話だな。後、個人で冷やしの魔法及びスキルの取得が出来そうなので、その実験と検証を申し立てた」


「冷やしの魔道具が普及するのはいいけど、魔石の需要と供給バランスが崩れるよね。コボルト、ゴブリン、オーク程度の魔石でいいとは思うけど、どう考えても需要が増えすぎる未来しか浮かばない。冒険者職に魔石確保の依頼を出しても足りなくなりそう。他種族に魔石不足の弱みを見せたくないから交易で輸入量を増やすわけにもいかないな…」


これは魔石を獲りに行く側の意見だな。魔石が使い捨ての世界だからこその意見だ。そしてドワーフの間に冷やしエールが広まって冷やしの魔道具が普及したら魔石不足がおきて当然だよ。節電ならぬ節魔石が必要になってしまうな。


「アリサならどこで魔石を穫る?」


「そうねぇ、『ロング=フィールド領』との領境での討伐強化と、隣領にある『マウンテン=ペアー領』内の『ウェルススカラー山』の麓での討伐強化である程度は賄えるとは思うけど、『マウンテン=ペアー領』のドワーフだってあの山に魔石獲りに行く訳でしょ? ケンカはしたくないなぁ…。それよりなら魔道具の方を魔力でチャージ出来る様にして、魔石でも魔力でも動かせる冷やしの魔道具にした方が建設的じゃない?」


「その意見は明日商業ギルドに報告しておこう。現場の冒険者の声は大事だからな」


「アリサお姉ちゃん、流石、現役C級冒険者です」


「ふふふ…褒めたまえ。もっと褒めても良いのだぞ」


椅子に座ったままそっくり返ったアリサお姉ちゃんは………バターンという音をさせ椅子ごとそのまま後ろにひっくり返っていた。


「あいたたた……。『受け身ローリング・ストーンズ』も打撃軽減スキル『滑来撫スライムボディ』も使わないと超痛いなぁ…」


「アリサ、怪我だけはするなよ」


「了解、了解。ちょっと調子に乗りました」




それから職校のカリキュラム切り替え時期の話を教えてもらった。基本、何時でも入校可だけど、四の月と十の月がカリキュラム切り替えになるんだって。前期・後期みたいなやつだな。今が九の月の終わりだから、慌てて入校するより十の月から入校した方が分かりやすいしキリもいいって事か。


今更ながら、この世界の時間と曜日の説明を聞いたよ。一日は二十四時間なのは前世と同じ。これはぶっちゃけ楽なので有り難い。一年は三百六十日。ひと月は三十日が十二ヶ月ある。一週は十日。前世表現の一月五日は “ 一の月・一の週・五の日 ” になる。ちなみに今日は “ 九の月・三の週・五の日 ” 、前世風に言えば九月二十五日。




帰りはアリサお姉ちゃんに送ってもらう事にした。まだ道を覚えていないのが理由だけど、リンド=バーグさん的には髭が生え揃ったばかりのドワーフ娘を夜中に一人で歩かせたらいけない…と言う事だったみたい。悪いドワーフはいないけど。飲んでウザ絡みしてくるドワーフはいるからなぁ…。街の構成は、中心に各ギルドや職校、学園があり、居住区や職人街は放射状に区割されている。時計盤で言うと十二時の方向に鍛冶区があって六時の方向に木工区があるって感じだ。三時の方向には市場区、九時の方向は蔵区。蔵区というのは物流拠点という感じ。物品の集積地だな。


街の出入りは三時門と九時門から。東門、西門と言わないのが変な拘りだよなぁ…。市場と荷物の集積地が物流の関係で門がある方向に配置されている。どこのドワーフの街も似た配置なので慣れたら歩きやすい。ちなみに公衆浴場は街の中心エリアにある。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る