第148話

焼きチーズや蕗炒めは美味しかったけど、座っていると少しフワフワしている感じがするのは馬車の揺れで三半規管がやられたからだろう。気晴らしを兼ねてポニーの所に行く事にした。


ブルルッ ヒヒーン


俺の気配に気付いたのか頭を上下しながら出迎えてくれた。


「ワギュ、ラパン、少し撫でていいかな?」


横から近付き交互に首筋を撫でる。毛並みは艶々。手に伝わる暖かさが何とも心地よい。


「心配させてごめんね。ボク、乗馬も馬車も慣れて無くて…。ワギュとラパンが悪いわけじゃないから」


ワギュが鼻先を擦り付けてくる。ラパンはいつもの様に甘噛みしてくる。なぜラパンばかり甘噛みしてくるのか謎なんだけど。


「『スワロー』に着いたら君たちと一緒に出掛けられなくなっちゃうのかな? それともお金を出して乗馬用に借りたらいいのかな? 折角仲良くなったのになぁ…。ワギュは優しいしラパンは始めは怖かったけど君も優しい子だよね」


そう、職校に入校したらそんなにポニーに乗って出掛ける…なんて無いだろうし。流石にポニーの所有権を買って飼うのも大変だし、走らせてあげられないのも何だか可哀想だ。


腰回りをポンポンしながら撫でていると、ワギュに鼻水を付けられ、甘噛みしてきたラパンには涎を付けられる。まぁ、後で『汎用魔法』の『清浄』を掛ければいいだけなので気にしなくはなったけど。


「君たちとお話しできたら楽しいんだろうなぁ…。そんな魔道具とかスキルって無いのかな?」


ヒーン ヒヒーン 


「『スワロー』に着くまでまだ何日かあるから、またお話ししにくるね」




――― side【運馬ウマ】 ―――


( 「夜だし念話にしましょう」 )

( 「ああ、そうだな。夜中にウマが鳴いてたらドワーフが出て来るわ」 )

( 「ミーシャちゃん、お話ししたいって」 )

( 「俺も……話してみたいよ。でも恥ずかしい」 )

( 「なに乙女乙女してるのよ。普段みたいにギューンとバーンと行きなさいよ!!」 )

( 「………」 )

( 「さっさと【運馬石ウマせき】渡しちゃえばいいのに。お友達アピールは大事よ」 )


普段のイケイケ態度からは信じられないほどウジウジでグダグダなラパンにワギュも少し呆れ気味。


{ ――― YOU、渡しちゃいなよ ――― }


ブルルッ


( 「誰だ!?」 )


{ ――― 暗いと文句を言う前に、灯りを点けましょボンボリに ――― }


( 「えー、変な声聞こえるんだけど……」 )

( 「悪霊マニトウ!? るか!!」 )


{ ――― 一応、神デス… ――― }


( 「やばーい。自称=神の悪霊ピイかもよ」 )

( 「『馬闘歩法バトルステップ』からの『馬壊者バスター』使うぜ」 )

( 「私は『馬防壁バリア』を」 )


{ ――― 待って待って待ってーー!! ――― }


( 「待てって言われて待つウマが居るかって…」 )


{ ――― 私は【見守る者・ヤーデ】、先日ミーシャさんのお陰で神上がりしたばかりの新米の神です!! ――― }


( 「えっ、ミーシャ関係なの?」 )

( 「詐欺師だろ? そいつ胡散臭いぞ」 )


{ ――― YOU、面倒くさいよ…、スキル『馬連ウマレン』を授けましょう ――― }


( 「はあっ!? なっ!?」 )

( 「うわっ、凄いよ」 )


{ ――― 馬系魔獣が人型生物と念話出来るようになるスキルです。返品不可 ――― }


( 「えっと……」 )


馬連ウマレン』:馬系魔獣が【運馬石ウマセキ】や角、羽、蹄など特定の体組織構成物質を渡した人型種族と念話が出来る様になる一種の契約スキル。

正式名称は『魔獣馬念話二種族複式連絡方』だが長いので誰もそう呼ばない。



{ ――― 使うか使わないかはあなた次第 ――― }


( 「ちょ、待て!! 押し売りして逃げるな!!」 )



この間、約十分少々。見守る者・ヤーデの介入に翻弄される【運馬ウマ】二頭。



「私はもうミーシャちゃんと念話リンクが繋がってるみたい」

「早っ、…ってこの前【運馬石ウマセキ】渡したからか」

「ラパンも渡しちゃえ〜」

「あ、でもまだ心の準備が…」

「じゃあ、ミーシャちゃんに伝えとくね。ラパンもお話ししたがってるって」

「止め、止めて!!」



グダグダなラパンを説得しながら、【運馬ウマ】達の夜は静か…?に更けてゆく………。



―――――――――


「お早う。調子はどうだ? ちゃんと寝られたか?」


「お早うございます。まぁ何とか…」



簡単に朝食を済ませていたら ヒヒーン!!ヒヒーン!! といつもより高い声の【運馬ウマ】のいななきが聞こえてくる。この声は…ラパンか!? 何かトラブルでも!?


「ラパン!! 何かあった?」


慌ててポニーを繋いでいる場所に駆け寄る。病気や怪我じゃなきゃいいけど。昨夜はあんなに元気だったんだよ!!


ヒーン  …ブルッ


俺の姿を見たせいかいななきのトーンが下がる。怪我や獣に襲われたとかではなさそう。


「ラパン、どうしたの? お腹が痛いとか? それともトゲが刺さったりしたの?」


蹴りを警戒しながらラパンを撫でて落ち着かせる。いつもならこの辺りで甘噛み攻撃のハズなんだけど… スリスリスリスリ グリグリグリグリ 何この新パターン。やっぱり調子が悪いのか?


ラパンに頭をグリグリ押し付けられていたら……ポロッと何かが落ちた。これ、【運馬石ウマセキ】だよね? 一回見たから驚かないぞ。


「ラパン、ボクにくれるの?」


こくこくと頷く。これも見慣れたポニーのヘドバン。


「あ…、ありがとう。でも急に鳴いてビックリさせないでね」


( 「ごめん…なさい」 )


「だっ、誰っっ!?」


知らない声に思わず声が裏返る。


( 「俺、ラパンです。今ミーシャに念話で話しかけています……」 )



ねっ、念話!? 何!? どういうことなの???

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