第113話

「あっ、俺も試食すれば良かった…」


残念そうなマリイン=リッジさん。その発言、何だかちょっと嘘くさいんですけど。


「種を『発根』させたら何時でも食べられますよ」


折角なので俺もニッコリと微笑む。


「ミーシャ、他の種類の豆の芽って食べた事がある?」


「無いと思います」


多分、ないハズ。


「畑に行こう。何かの豆が残ってるハズ」


マリイン=リッジさんに手を引かれて畑に連れて行かれる。丁度いいからキャベツを貰おう。



「今残ってるのは……あった、はい【目出度メンデルス・ビーンズ】」


マリイン=リッジさんが小さな豆を毟り取って俺に手渡して来た。『対物簡易鑑定』の結果は【目出度メンデルス・ビーンズの若い鞘】。見た目はとってもキヌサヤです。


目出度メンデルス・ビーンズ】:前世のエンドウ豆。若い鞘のキヌサヤ、スナップエンドウ。育った物はグリーンピース。成熟したものはみつ豆や豆大福に入っている。若菜は豆苗。鞘、若い豆、成熟豆と様々な時期のものを食べることが出来る、とても目出度めでたい豆である。




あ、キヌサヤだったよ。目出度めでたい→目出めんでるでメンデル読みってマジなの?ギャグなの? 豆界の出世魚的なやつなのか? そして豆苗って書いてある。この流れは……又かーー!!



「マリイン=リッジさん、ボク、この若菜も食べた事があります」


どこかの居酒屋のお通しで食べたんだったか。確かお浸しにされていた様な。



「ホーク=エーツに教えてあげないとね。特に発芽直後の【紫萌肥しアルファー・アルファー】は食べられるって事を」


ニヤリと笑うマリイン=リッジさん。


「そうですね。一緒に食べましょう」


俺もニッコリと微笑み返す。アルファルファの実食は一蓮托生ってことでお願いします。何なら豆苗も。大丈夫、どちらも美味しい野菜だからね。



「それはそうと、【玉菜キャベツ】を下さい」


「いいよ。また【鉱滓スラグ包み】に入るの?」


「はい。それと【猪肉の生薑ジンジャ焼きも】に千切り【玉菜キャベツ】を添えます」


「とても楽しみ。ミーシャが居ると皆に野菜を沢山食べてもらえて嬉しいんだよね」



それは嘘偽りのないマリイン=リッジさんの本音なんだろう。



「ボクもお肉は大好きですけど狩りに行かないと…ですし。野菜類は野生種でも畑の栽培種でも手に入れやすいですもんね」


「それにね、野生は掛け合わせるのが楽しいんだよ。結果が出るのに数年かかっちゃうけど、たまにトンデモナイ品種が出るのが最高。畑の錬金術だー!! ってね」


「ドワーフ史上では何の野菜の品種改良が有名なんですか?」


「それは【茄子】!! 断トツで【茄子】だね。【茄子】の品種改良史で最初に挙げられるのが【美茄子ベラドンナ】でね……」



ヤバい、マリイン=リッジさんのギアが入った。


「魔族領にほど近い山中で発見された薬草にして毒草の【美茄子ベラドンナ】の栽培研究から始まってね……。なかなか成功しなくて “ 魔女の秘薬 ” なんて言われてて、その中でもヒト族は早々に研究を諦めた。エルフやドワーフは継続してたんだけどね。まぁ、寿命の差ってのは仕方ないじゃない?」


熱意ある研究者とかパトロンが逝去したら研究が下火になるって事は珍しくない話だ。


「そのうち変異種が生まれたんだけど、それが【茄子】なの。原種の【美茄子ベラドンナ】と違って無毒で美味しい野菜が。その噂を聞きつけたヒト族は怒り散らしてね…。「研究費が無駄になった!!」って。別にエルフもドワーフも共同研究してた訳じゃないんだけどなぁ…。そこから更に派生種の【茄子花芋】が生まれた。毒芋とか言われちゃったけど、今ではドワーフの大好物だし。【から茄子】や【細辛茄子】も派生種」


「【あか茄子】もですよね?」


「そうそう。【あか茄子】の派生種が【から茄子】で、そこから【細辛茄子】に繋がる。次の派生種はまだ確認されてないハズだよ」



美茄子ベラドンナ】はさて置き、食用品種はほぼ出揃って気もする。パプリカとかシシトウは【《から》|空茄子】派生で生まれるかもしれないけど。うーん、ナス科の植物とか覚えてないぞ…。何か有名な植物が含まれていた気がするけど。



―――――――――――――

(誤字修正)


(誤)その発現、何だかちょっと

(正)その発言、何だかちょっと

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