第110話

ジョー=エーツさんにナッツ類があるか聞きに行ったら松の実があると言われた。酒のツマミにするには美味しい実だけど、調理用の搾油には向かないので寄せてあるんだとか。


「で、その手にしている石は何だ?」


「この集落の端で拾いました。何となくピンク色が見えたので気になっちゃって」


手にした謎の劣化した鉱石を見せながらそう答える。


「あー、それは “ 愛の囁き ” が “ 心変わり ” したやつだな。磨いても価値はないぞ」



“ 愛の囁き ” が “ 心変わり ” ですと!? やはりこれは異世界ストーン???



「 “ 愛の囁き ” はヒト族の付けた宝石名だ。ピンク色の鉱石を見つけたヒト族の男がドワーフの宝飾職人に研磨させ、それでアクセサリーを作らせて恋人にプレゼントしたんだが、数年後、ピンクだった宝石が真っ黒に変色していて、それと関係したのかしていないのかは不明なんだが、最終的に恋人とも別れる事になったので、“ 心変わり ” という異名も付けられた……と言う逸話がある鉱石だ。ドワーフは【薔薇石】と呼んでいる鉱石だな。色味違いで【赤薔薇石】か【黒薔薇石】だ。特に珍しくはないぞ」


「それでそんな名前で呼ばれているんですね。」



そうか、これはロードナイトか。前世だと和名で『薔薇輝石ロードナイト』、マンガンの鉱石だ。マンガンのピンク部分が酸化して黒くなるんだっけ。ヒト族、ナイスネーミングです。



「でも、その宝飾職人のドワーフは経年劣化で変色することは分かってたんですよね?」


「そりゃあ知ってただろうな」


「知ってて教えなかったと」


「まぁ教える必要もないからな。教えたところで納得しなかっただろうし」



多孔質で水分で変色しやすいとか、紫外線に弱くて変色しやすいとか、知識として知らなかったら変色を悲しむしか仕方ないもんなぁ。石が “ 育った ” とは言わないだろうし。



「でも、その一件があったお陰で【薔薇石】は恋人達の愛の強さを確かめる石としてヒト族に広まったからな。いいんじゃないか?」


「それ、確実に “ 心変わり ” しますよ」


「たまに変色しない石もあるって話だからな。ミーシャが将来ヒト族から “ 愛の囁き ” の仕事を請けることがあったら、持ち込みの鉱石で仕事を請けろよ。お前の工房の石のせいで恋人が “ 心変わり ” した…と因縁付けられたら気分が悪いだろ?」


「そうですね。でも、ジョー=エーツさんって特に何かの職人でもないのに鉱石に詳しくてびっくりしました」


「おいおい、俺はエーツ氏族の出だぞ。これでも鉱山ヤマ関係には自信があるんだ」


あっ、そうだった。


「そうでした。ごめんなさい」


「まぁ、気にするな。俺達からしたらミーシャも相当に謎知識持ちだぞ」


はははは……、ヤバッ。



「で、また新しい料理か?臭い的に【細辛茄子】だな」


「はい。調味料として【細辛油ほそからーゆ】を作ってみました」


「試すのが楽しみだ。ホークの奴は楽しくないだろうけど」



「ボク、 “ 心変わり ” した【黒薔薇石】で遊んできます」



そう言って場を離れた。さぁ研磨するぞー!!





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