第98話

痛い寸劇の後は本格的に騎乗特訓だ。先ずは四頭いるポニーにご挨拶という名のスキンシップから。栗毛がヤジイ ♂、赤毛がラパン ♂、黒毛がワギュ ♀、白毛がスノウ ♂。四頭とも比較的温厚ということだけど。ホーク=エーツさん的には黒毛のワギュがお勧めらしい。


「横から近付くんだぞ。声掛けも大事だ。ポニー達が嫌がらない様だったら首筋を撫でたり腰のあたりをポンポンと触れてみてくれ」


よーしよしよし… あの動物王国の創設者のマネをしてみようかな。噛まれたら嫌だけど。それとも、ボクと契約して乗用馬になってよ……の方がいいのかな?



代わる代わる撫でてあげてた後、ファイン=ロックさんとガルフ=トングさんにサポートされながら四頭全てに跨ってみる。それから手綱を引かれて『関所の集落(仮)』の中を歩き回る。確かに黒毛のワギュがいいかもしれない。時間を掛けたら四頭とも仲良くなれそうだけど。


「みんな、ボクにお付き合いしてくれてありがとう。ワギュはもう少しボクを乗せてくれる?」


そう言いながらスキンシップ。


「ガルフ=トングさん、ブラシって有ります?後で皆をブラッシングしてあげたいんですけど」


「ブラシは無いな。櫛だったらパイク=ラックが持ってるんじゃないか? 荷造りされないうちに聞いてきたほうがいいぞ」




「パイク=ラックさん、ブラシとかタワシ持ってないですよね? ポニー達をブラッシングしてあげたくて。ポニーに優しい櫛があれば荷造り前に貸して下さい」


「櫛なら髭用のしか無いのう。ブラシも無いが。それよりタワシとは何じゃ!?」


えっ!? タワシって無いの!?


「タワシは椰子ヤシの仲間のゴワゴワした繊維を束ねたブラシ状の掃除道具です」


「【絲瓜ヘチマ】の繊維とは別じゃな」


「タワシの材料は塵集めホウキの繊維とかが近いかもです。ゴワゴワした麻糸とかでもいいのかな?」


「うむ…、役立たずの【火口ほくち麻】なら残っていたのう。あれがまたゴワゴワで使い辛いのじゃ」


パイク=ラックさんが戸棚の奥から【火口ほくち麻】を引っ張り出す。シュロとは違うけど、お風呂で背中を擦る時に使う柄の長いブラシの毛に似ている気がする。


「それ、貰ってもいいですか?あと櫛も貸して下さい」


そう言ってパイク=ラックさんから謎繊維の【火口ほくち麻】と櫛を受け取ると、ポニーの近くにいるガルフ=トングさんの元に走る。


「ミーシャ、どうだった?」


「ガルフ=トングさん、少しだけ協力して下さい。針金って持ってますよね?」



ガルフ=トングさんの家に行き、針金を出してもらう。タワシの作り方は前世のTVで放送されていた職人探訪番組で見た記憶がある。切り揃えたシュロ繊維をピンと張った二本の針金で挟み、針金をクルクル捻って繊維を固定したら、楕円形にグッと曲げてタワシにしていた。そう言うと簡単そうだけど、リポーターの人が体験したらグズグズのグダグダのタワシになっていたし。


しょう鍛冶師の実力を信じタワシの作り方を俺なりに説明してみた。多分、伝わったとは思うけど。


「おおっ!? これは!? 役立たずの【火口ほくち麻】がブラシの様になるのか!?」



ヤバい、まさかタワシが異世界チート枠だったとは!!





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