第89話

「兄貴、ここのメンバー大丈夫なの? 配置換えの申請する?」


「ホーク、落ち着け」


ジョー=エーツさんがホーク=エーツさんの肩に手をやって語り始める。


「お前も何日か冷やしエールを飲んだらああなるからな。一度快楽を知ったらドワーフというのはもう前の頃には戻れないものだ」


「兄貴っ!!」


「ミーシャ、【あか茄子】以外にエールに混ぜたら美味い素材を知らないか?」


「そうですね、柑橘類の絞り汁なんかどうでしょう? ワインなんかも合うんじゃないですか?」


「酒を酒で割るのか……、いや酒に酒を足すのか」


「エールに『生命之水蒸留酒』を足してみるか?」


「【血祭りブラッディ・フェスタ】に【血の海ブラッディ・オーシャン】を足したらどうなるんだろうな?」


「次に飲む機会が有ったら試そうじゃないか。差し詰め名前は【血の雨ブラッディ・レイン (仮称)】とでもしておくか」



確か、レッド・アイにウオッカ追加のカクテルがあったはず。名前は忘れたけど。血の雨じゃなかった事だけは確かだ。多分、レッドなんちゃら…だよね?



今夜は絶対に餃子を作らなきゃ駄目だな。冷えたエールに熱々の焼き餃子攻撃だ。春雨チャプチェ、擦り下ろし芋のチヂミ、猪玉お好み焼き、焼き餃子、どう考えても冷やしエールが進む系だ。そしてホーク=エーツさんも冷やしの沼に沈むんだな……。合掌。


そうだ、餃子の名前を考えなきゃ駄目なのか…。面倒くさいからギョーザでいいんじゃないか? まぁ、似た形状のものもあるかもしれないから、名付けは皆に任せてもいいのかな。一応考えておくか。………耳餅? イタリア料理だとなんだったか……ラビオリ?




一悶着あったけど、全員で調理を始める。ピーラーで芋の皮を剥く者、おろし金で【茄子花芋】と【棍棒芋】を擂る者、【バーサーカッター】で猪肉をミンチにし、【玉菜キャベツ】を微塵切りにする者、餃子の皮を作る者。


餃子の皮作りは建築組が強かった。ファイン=ロックさんとダン=カーンさんが一手に引き受けてくれた。ダン=カーンさんは陶芸職人さんだけあって上手いの何の。これは絶対、餃子の皮作りスキルが生えたと思う。


どうせなら皆に『調理』スキルが生えたらいいのになぁ。エールが冷やせる様になるのなら、簡単なツマミくらい作れたら最高じゃん。



「しかしこの【バーサーカッター】という道具は凄いな。肉も野菜もアッと言う間に微塵切りになる」


「それも原理は、弓錐式火起こしとほぼ一緒だ」


「これまた懐かしい。魔力も魔石も必要ないのがまた良いな」


「魔石式にしたら魔道具として売れるぞ」


「いや、手動方式の方が手を出しやすい」


「そして、魔石のコストは掛かるものの、ポンとボタンを押すだけの魔道具型式の方が徐々に人気になっていくと…」


「はい、その意見も提出です!! ここで必要以上に盛り上がらない!! ガルフ=トングもレオナルド=ダービーを唆さないで!!」


「ホーク=エーツ、堅いこと言うなよ。あまり堅苦しいモテないぞ」


「業務上なので堅くていいんですよ」




果たしてホーク=エーツさんは冷やしエールの洗礼を受けた後、まだ冷静な審査官でいれるのだろうか……。



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