第71話

今日の料理は “(主に)パイク=ラックさんに野菜を食べてもらう” というはずだったんだが。お肉が手に入ると方向性が変わってしまうな。少なくても数日後には酢豚を作ってしまっていそうな予感がする。もしくは豚カツ…いや猪カツサンドとか?


兎肉と山鳩肉は唐揚げとか焼き鳥とか。キュウリは有っても胡麻が無いから棒々鶏っぽいものは出来ないし。何らかのナッツ類があればいけそうではあるが。 


ここに住み着く訳ではないので、この『関所の集落(仮)』の食事事情をそこまで改善する必要はないと思っているが、俺自身は美味しいものを食べたいので必然的に食事事情改革に手を貸してしまっている状態なんだよねぇ。


そして俺の中では…この『関所の集落(仮)』にいる間に報告及び登録案件をの料理を出してしまった方がいいのでは?……な気持ちがある。だってほら、知らない町で騒がれるより、少しだけ仲良くなったドワーフがいるところで軽くやらかして、報告及び登録の手助けをしてもらった方が何かと楽というか誤魔化しがききそうというか。もう、やっちまおうか……なのは酢豚と餃子を思い出したせいだ。場合によっては生姜焼きも追加されそうだし。


{ ―――― 肉饅がある時〜 ない時〜 ―――― }


……!?


脳内に謎の声が響いた気がした。そうだよ、餃子があるなら肉饅を作ったっていいじゃない。カツサンドもいいけど肉饅もいい。猪肉だから『猪まん』と呼ぶべきなのか。



何を作るにせよ、パイク=ラックさんの心臓を止めない程度にしておかないと……(苦笑)



披露する野菜料理が晩ご飯扱いとはいえ、準備ができてお酒が出て来たら宴会が始まっちゃうのは分かりきってるので、全員の準備が出来ているかを確認しにいく。大丈夫そうなので食材と調理器具を運ぶ。まぁ調理器具と言っても、おろし金、【バーサーカッター】、すり鉢と擂粉木すりこぎくらいだけど。あ、ピーマンの肉詰めを焼くためのフライパンも要るか。



それからガルフ=トングさんの家に向かった。


「ガルフ=トングさん、綺麗な火ばさみってありますか? 今から作る料理を掴むのに使いたいんです」


ガルフ=トングさんにトングを要求するの巻。


「料理を掴む用は無いから、この最近下ろした火ばさみを使えばいい。鉱油とかは触ってないから安心してくれ。しかしミーシャは面白いな。普通、料理は火ばさみで掴まないぞ」


「ありがとうございます。今日は【から茄子】を沢山焼くので、それを掴むのに使いたくて。炭用だとちょっと長いので料理用のサイズの物ががあれば便利だと思います。ついでに形状もハサミ状ではなくて…」


「ちょっとまて、ミーシャ、その、これとは別の火ばさみの形状とは?」



ヤバい、しょう鍛冶師、やはりというかトングに食い付く。


「こういう形状で……」


そう言いながら俺は土魔法『土器』でトングっぽい形状の模型を生み出す。


「これは模型なので動きませんが、この曲っている箇所にバネ性があるんだそうです」


「こっ、これは!!………ぶつぶつぶつ…………」


あ、いかん、ガルフ=トングさんのやる気スイッチが入ってしまった。


「流石に今から試作では宴会に間に合わないか。ミーシャ、今日はこの火ばさみで我慢してくれ。これもその、ミーシャの爺ちゃん由来の知識なのか?」


「はい。放浪していた時、【トング】という名の便利な道具を見たって話してました」


「何っ! トングだと!? この料理用火ばさみの名前はトングだというのか!?」


そりゃー驚くよね。見たことのない道具の名前が自分の氏族名と同じだったら誰だって驚くよ。


「もっと小さい物で、指に刺さったトゲを抜く為の【トゲ抜き】というものもあるそうです。ヒト族の女性がトゲの他に髭を抜いたりする時に使ったりするんだとか」


「髭を抜くだと!? 悪魔の道具か!? 拷問器具だろ!!」


「他にも握って使う鋏も有るそうです」


「んん――――――っっ!!??」


あっ、ガルフ=トングさんの目付きが変わった。目を白黒させながらも脳内で物凄い演算処理をしているって感じだ。


「つまりは、この曲がった箇所にバネの性質を持たせる事で、その原理を元に複数の道具が生み出されると……」


「ボク、先に広場に行ってまーす」



今にも試作しそうなガルフ=トングさんをよそに、俺はパイク=ラックさんに声を掛けに向かった。



―――――――――――――――――――――――――

(作者の独り言)


ドワーフが道具を作れていない、作っていないのではなくて、既存の道具で不自由なく使えている為に(今回の場合だと鋏型の火ばさみ)、あえてU字形状のトング及び火ばさみを作る必要が特になかったから存在していなかった…、という事です。毛抜きで髭も抜かないしな(笑)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る