第69話

「マリイン=リッジさん、お酢かレモンが欲しいんですが有りますか?」


「お酢? レモンは【リモー】の事かな?黄色くて酸っぱい実だよね。“ドワーフを殺すやつ” を飲みながら齧ると最高にゴキゲンになれる実だね」


えっ、お酢なんだけど前世の単語と意味が違うの?それとも俺の説明が悪いのか!? レモンは【リモー】と呼ぶんだな。


「お酢は、放置していたワインが発酵して酸っぱくなった時の液体です」


「あっ、それは知ってる。【涙目サワー酒】の事だね」



あ、名前に納得。大好きなお酒が酸っぱくなっちゃって涙目…って事か。多分、その固有名詞はドワーフ以外には通じないと思います。


ドワーフが積極的に【涙目サワー酒】なんか作らないと思うので、【リモー】の実を持ってきてもらっう。



「お待たせー。【リモー】以外にも色々持ってきたよ」


うわっ、色々ある!! これは『対物簡易鑑定』しないと駄目だ。


「えーと、……『対物簡易鑑定』させて下さい」


マリイン=リッジさんがニコニコしながら俺を見ている。鑑定結果をどう言うのかを楽しみにしてるんだな。



【リモー】:前世のレモン。酸味は穏やか。丸齧り可。ドワーフは蒸留酒を飲みながら齧る。


【シークワ】:前世のシークワーサー。


【ライ・ムー】:前世のライム。


【オーリンジ】:前世のオレンジ。


「あ、甘いのは【オーリンジ】だけですね。後は全部酸っぱいです。どれもお酒と合います。ボクは【オーリンジ】の搾り汁を【生命之水蒸留酒】で割って飲むのが好きです」


カボスとかスダチとかユズとかのお酒に合わせない系は持ってこないのか。それとも存在しない?


「ミーシャお勧めの【オーリンジ】割りだったら何杯でも飲めそうだね。でもちょっと甘いから【グレポン】割りの方がサッパリ飲めるかな?」


【グレポン】は推定前世のグレープフルーツに違いない。



どうせならライムをドレッシングに使おうかなぁ。尤も全部混ぜてもいいんだけどね。グレープフルーツが無かったのは残念。



「【生命之水蒸留酒】の【グレポン】割りは鍛冶師や鉱夫に人気があるんだ。ジョッキの縁に岩塩を付けておいて、それを舐めながら飲むのが最高に美味い!! 水分と塩分とお酒を同時に補給出来る優れものだよ。塩を付けて飲むのは『エイドパス鉱山』の鉱夫が広めたんだって。尤も海塩だけど」


「そうなんですね。その飲み物に名前は付いてますか?」


それ、ソルティドッグだよね。こっちの世界だと何と呼ばれてるんだろう?


「俺たちは “【生命之水蒸留酒】の【グレポン】割り” って呼ぶけど、ヒト族の間では【ソルティ・ドワーフ】って呼ばれてるらしいね。それってちょっと失礼だと思わない?」



うん、何だかとっても残念な名前です。

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