第59話

パイク=ラックさんから擂粉木すりこぎに使えそうな棒を分けて貰った。次にジョー=エーツさんに【から茄子】に詰める挽き肉にする為のお肉をお願いした。多分、周辺で狩ってきてくれると思う。有れば玉葱も分けてもらおう。何故なのかは分からないんだけど、前世の植物と異世界の植物、形状はかなり似ている。名称は同じだったり違ったり。不思議だよなぁ……多分、上位存在の気まぐれでそうなってるに違いない。俺としては楽でいいけど。



『関所の集落(仮)』の中をパタパタと走り回っていたらリンド=バーグさんに呼び止められた。


「ミーシャ、ちょうど良かった。今ヒマか?」


「はい、大丈夫です」


木賊とくさの事が聞きたかったから声を掛けられてちょうど良かった。


「先日預かったバサルトタートルの甲羅なんだけどな、今こうなったところだ」



そう言いながら真ん中の割れ目を銀で継いだバサルトタートルの甲羅を見せてくれた。


「凄い、割れた甲羅を銀で継いでる!!」


前世で割れた茶碗を漆と金で修復する『金継ぎ』という技法があったけど、何となくそれに似ている。


「バサルトタートルの甲羅は防具に使ったりするからな。ただ、甲羅という特性上、分割しやすい素材だから、縁を魔力の流れやすい金属で覆って利便性と強度とを補ってやるのが正しい使い方だ」


成る程、戦国時代の鎧の小札こざね的な使い方が推奨されるのか。そりゃーそうだよね、ゲームに出て来る甲羅の鎧みたいな形状は防御力があっても見た目ダサいもん。


「なので、甲片で欠けたり割れたりしてしまったものはこんな風に継いでから加工するものなんだ。まぁ、この甲羅は風化が入ってるし幼体の甲羅だから、こうやって継いだところで防具素材にはならないが、技術の練習にはなる。おお鍛冶師や宝飾職人なら大抵は習得している技術だ」


「どう処理するんですか? 継ぎ目の感じからすると、割れた断面をある程度滑らかに形成してからそれに沿わせる様に継ぎ目の金属を充て、出っ張った部分が無くなる様に研磨で整えてるみたいですけど。継ぎ目には何か塗ってます?」


ぶっちゃけ聞きたいことだらけだ。


「ミーシャの言う通り断面は整えてからそれに合わせて今回は【聖銀】継ぎにしてみた。普段なら【魔銀】継ぎだ。ちゃんと断面に沿うか確認したら魔漆を塗ってから形成した【聖銀】を充てがい、硬化したら整える。出っ張ってる【聖銀】部分を削り落とする時にバサルトタートルの甲羅を削らない様に気を付けるのが大変でなぁ……」



【聖銀】は銀98%:金:1.5%:ミスリル0.5%の合金だ。柔らかく魔力を流しやすい特性がある。柔らかすぎるので通常の武器には向かないが、対アンデッドには効果的目であり、鍍金メッキ仕上げなどで使われる。柔らかいと言っても普通の銀程度の硬度はあるのでアクセサリーの地金として使われたりはする。


【魔銀】は銀75%:魔導ガラス25%の特殊合金だ。魔導ガラスというのは魔石滓を精製して作る魔力を含むガラスでポーション瓶や魔道具の素材として使われる。非金属でありながら合金素材として使われている。武器に使うこともできるが、俗に “ 鈍器は【魔銀】、刃物は【魔鉄】 ” と言われている様に鈍器にするのが一般的。



リンド=バーグさんはサラッと説明してくれたけど、あれ絶対に精密かつ複雑な作業なハズだ。職人さんの「簡単だよー」は一般人には全然簡単じゃないやつです。



後でアクセサリーにしてやるから、もう数日待っててくれ。


うおっ! おお鍛冶師作成のアクセサリーを頂けるなんて最高過ぎます。

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