第35話

   ―――――― 今回もジョー=エーツの視点です ――――――



「ジョー=エーツよ、ミーシャのいない今がチャンスだ。ミーシャの将来を後押しする為に会議をしようではないか」


マリイン=リッジがジョッキを片手にそう切り出してきた。


「あのは可能性の塊だ。今や農作物を与えたらどう改造するのか気になって仕方がない。我らドワーフの食事事情をどこまで改善してくれるのか。物によっては他種族向けの輸出品になるやもしれぬし…」


しょう鍛冶師としてもミーシャより溢れ出る道具のアイディアを無駄にしたくない。この先二百年、どこまで新しい道具を生み出すのかが気になって、死ぬに死ねなくなるではないか」


この中ではガルフ=トングが一番ミーシャに驚かされてるハズだ。それこそ、ここ半月で何個の新作道具を作り上げたかだ。ガルフに言わせれば既存の道具や考え方をアレンジした物になるそうだが、それでも二百歳近い鍛冶師が知らない気付かない技術や発想なのだからな。まだ数点、ミーシャのくれたヒント由来の道具を試作中なのだという。


「俺は久々にしょう鍛冶師に嫉妬したな」


苦笑いしながらそう語るリンド=バーグ。そりゃそうだろう、あれだけ新発想の台所用刃物を作るところを目の当たりにしたんだから。


「ファインはどうだ?何か気になる点はあったのか?」


「そうだな。土魔法『土器』の使い方が凄いな。あれは本来、簡単に使い捨てする食器を作るだけの魔法のハズなんだがな。建築や採掘をさせてみたら、きっと面白いことをやってくれるに違いない」


それは俺も思う。それこそ『エイドパス鉱山』で採掘させてみたい。


「そしてパイクの意見は……」


「久々に同族ドワーフに秘匿魔法で殺されかけたわ!!お前らもお前らじゃ、いい歳したドワーフが大騒ぎじゃと……」


パイク=ラック、それは酒が絡むんだから仕方ないだろ。


「『渓流鰮』の件といい、今回の【茄子花芋】の芋麺といい、冷やしエールといい、知ってる知識や浮んだ知恵を同族ドワーフに伝授してくれるのなら一向にかまわぬが、他種族、特にヒト族の手に輝く原石ミーシャを渡したくはないのぅ。皆もそう思うじゃろ?」


一同頷く。


「それこそミーシャは面白いなんだが、それだからこそこの集落には置いておけないんだよなぁ。この集落がもう少し『領都』寄りな場所、もしくは『エイドパス鉱山』そばにあるんだったらよかったんだが…。ここだと才能を伸ばしてやることも出来ないし、ミーシャの噂を聞きつけた賊から護ってやることも難しい」



様々な意見が上がる中、パイク=ラックが持論を語る。


「やはりのぅ、儂としてはミーシャは『スワロー』で学ばせるのが一番じゃと思うのじゃよ。職校に入らず職人の道へ進まなかったとしても、各職人にアイディアを伝えればミーシャ発案の道具は世に出る訳じゃろ?それに、もしかしたら魔法系に才があり、新たな秘匿魔法や魔道具が発現するかもしれぬし。儂的には『汎用魔法』を極めさせてみたいものじゃな」


皆、納得した様に頷く。俺も頷くが、やはりミーシャを『エイドパス鉱山』に潜らせてみたいという思いは譲れない。


「明日にでもミーシャが将来的にどうしたい、どうなりたいか聞いてみることにしよう」



六人で尚も語るが、エールが尽きたところで今夜はお開きとなった。



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