第32話

【茄子花芋】デンプンで作った春雨を調理する。俺の中では春雨春雨と連呼しているけど、この世界でどう呼べばよいものか。架空家族爺ちゃんイキージビーキー(仮称)なら春雨のことをどう呼ぶか?うーん、芋麺かな?芋粉麺かな? ……芋麺にしておこう。


【茄子花芋】の絞り滓を入れた塩味のスープは完成。塩味で、少しだけミンチにしたウサギ肉を入れてある。とろみ付けには煎った大麦粉を水で溶かした物を加えた。食べる直前に毟った【菊の葉】を入れればバッチリ。


絞り滓を大麦の粉を溶かした物と合わせて焼き、クレープの皮にした。そのまま食べても春雨の炒め物を巻いて食べてもよし。有ればベリーのジャムを塗ってもいいしね。


春雨改め水で戻した芋麺を炒める。熱したフライパンでウサギ肉を炒め、次いで【食用マンドラゴラ】、【から茄子】を加える。芋麺を加え、魚醤で味付け。味変用に刻み【細辛茄子】も添えておく。



芋麺料理が完成したところで『関所の集落(仮)』のメンバーがエール片手に全員集合。エール、大樽が一つ置いてあるのは気のせいなのかな?



芋麺料理は概ね好評だった。


「ミーシャ、これは何という料理なんだ?」


「はい、芋麺炒めです。デンプンの取れる芋からならこの麺は作れるので爺ちゃんは芋麺って呼んでました」


「ヒト族やエルフの奴らに食わせてみたいな。奴ら、【茄子花芋】のことを毒芋と呼んでバカにしやがる。特にエルフ!!」


あ、やっぱりジャガイモの毒芋設定はあったんだ。ドワーフが平気に食べてるのは穴で保存して遮光がバッチリだからだよ。エルフは日光に当てまくって濃緑色の芋にしてそうだ。


「まさか、【食用マンドラゴラ】と【から茄子】をこれほど美味く食べられるとは思わなかったわぃ」


あ゛ー、やっぱり要らない野菜だったんだ。そりゃニンジンとピーマンだもんな。俺だって好きじゃないもん。


「プルプルと柔らかいのに歯ごたえもあり、細いのに千切れない。味もよく染み込んでいて最高だな!」



皆、芋麺炒めを口にしながらエールを呷る。クレープの皮に芋麺炒めを巻くドワーフもいればスープに浸すドワーフもいる。クレープの皮で岩塩と刻み【細辛茄子】を包んで食べるのが好きなドワーフもいた。皆の楽しそうな顔を見ていたら、つい一言口走ってしまった……。



「パイク=ラックさん、ボクのお願いを聞いてください」


俺はそう言いながら土魔法『土器』でジョッキを作ると樽からエールを注ぎパイク=ラックさんに手渡す。


「パイク=ラックさんの秘匿魔法でこのジョッキの中のエールを冷して下さい」


言っちゃった。だって飲みたかったんだもん、冷たいエール。



「うむ、よいじゃろう」


パイク=ラックさんの秘匿魔法で程無くエールが冷える。パイク=ラックさんがジョッキを渡してこようとしてくる。


「パイク=ラックさん、よかったらそのエール、一口飲んで貰えませんか?」


「不思議な事をさせるのう。よいじゃろう。集落を代表して儂が飲もう」


グビリとエールを呷る音が聞こえる。グビグビ……ゴクッ。一気に飲み干すパイク=ラックさん。五人の視線がパイク=ラックさんに注がれている。パイク=ラックさんがプハーっと息を吐きジョッキを置くと俺の両肩に手を掛け揺すり始めた。


「ミーシャ、美味いのぅ!!冷えたエールも美味いぞ!!」


そこから先は当にカオス。俺達のエールも冷やせ!!とジョッキを突き出し…広場は蜂の巣を突いた様な大騒ぎに早変わり。


「あー、騒ぐな!一杯ずつ冷やすとか冗談じゃない!!儂が樽ごと冷やすわい!!」



……… パイク=ラックさん、ごめんなさい。



ああだこうだと盛り上がる中、徐々に料理が足りなくなってきたので皆を驚かせる為の秘策を披露することにした。揚げ油を貰いフライパンで温める。熱した油に残りの芋麺を投入する。パチパチという音を上げながら膨らんでゆく芋麺。


「おおーっっ、芋麺がまるで白髭の様じゃ!」


「ガルシア翁の髭だな」


誰っすか、それ?


「この料理は “爆髭ガルシア麺” と呼ぼうか」


それはガルシアさんの名誉の為にも止めてあげて下さい。



盛り上がるオッサンドワーフ達を横目にカリッと揚った芋麺を引き揚げ、笊に乗せて油を切る。


「軽く岩塩を振ってもいいですし、そこのスープに浸して食べても美味しいですよ。サラダのトッピングとかでもいいかな?」



その言葉を合図に六人が揚げ芋麺に群がる。岩塩を試し、スープに浸し、更には芋麺炒めと混ぜ合わせたり。何だか収集がつかなそうだったので六人は放置して俺だけ家に帰る事にした。


「ボク、先に帰ります。皆さん、おやすみなさい!!」




そう、疲れたとか眠くなったからとかではない。水飴の素が気になってしかたないだけなんだ!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る