第25話

外がワイワイガヤガヤと騒がしい。


「おーいミーシャ、手が空いたら出てこーい。魚焼くぞー!!」


ジョー=エーツさんが叫んでいる。



「はーい!!」


そう叫び返すと『関所の集落(仮)』の中央広場に向かう。そこには土魔法で作られた大きな竈?囲炉裏?があった。土魔法が得意で建築や採掘が専門のロック氏族のファイン=ロックさんと、同じく土魔法が得意だけど農業が専門のリッジ氏族のマリイン=リッジさんの合作。即席なのにかなり本格的で立派な焼き場が出来上がっている。だって、さっき戻って来た時はその広場には何も無かったんだよ。


「うわっ、凄い!!」


「どうせなら皆で焼魚を食おうとなってな。ミーシャならただ焼くだけでなく面白い食べ方を知ってるんじゃないか?となってだな…。まぁ、まずは一匹食ってからだな」


ジョー=エーツさんが程焼く焼けた『渓流鰮』を手渡してくる。唇を寄せ、焼魚の熱さを確かめながらふぅふぅと息を掛けると背中側から噛りつく。


「んーー!!おぃひぃ!!」


香ばしく焼けた皮目。背に程よく乗った脂に少しキツメの岩塩。そして仄かに香る藻の香り。ヤバい、これ前世でいう鮎だ。


あまりの美味さに一気食いしちゃったよ。あ、頭と骨は残したけど。


「どうだ、美味いだろ。ここの『渓流鰮』の塩焼きは絶品だからな」


ジョー=エーツさんがドヤ顔しながら期待の眼差しを向けてくる。この鮎…じゃなくて『渓流鰮』だったら、素直に塩焼きするのが一番美味い。稚魚だったら天麩羅でもいいんだろうけど。


「分かりました。ジョー=エーツさん、お酒あります?エールとかワインでなくて、『生命之水蒸留酒』を。 “ドワーフを殺すやつ” でなくてもいいです」


流石に日本酒は無いだろうから蒸留酒で。この際、焼酎でもウォッカでも気にしない。ブランデーが出て来たらどうしようかとは思うけどそこはドワーフ、多分お酒だったら種類も量も沢山持っているだろうと信じる。


「よーし、酒持って来ーい!!」


そうジョー=エーツさんが叫ぶと蜘蛛の子を散らす様に全員が住居に戻る。ジョー=エーツさんも全速力で走る。五分も掛からず全員が酒瓶を手に再集合した。誰だよ、ドワーフが鈍足だって決めつけたの。本気出したらめっちゃ速いぞ(笑)



「少しだけ味見させてください」


そう言いながら全部のお酒を試飲する。少しずつ風味が違うけどスッキリとした度数お高めの透明な蒸留酒。所謂ウォッカだ。


「一人一匹ずつ『渓流鰮』を焼いてください。先ずは焼き上がった『渓流鰮』を食べます」


俺はそう言いながら土魔法『土器』でジョッキっぽい形をした筒状土器と陶板を作る。


「これにお酒を注いで炉端で温めます。火に近いと燃えるので熱い灰に刺した方が安心です。残った頭と骨を陶板の上で炙り直します」


温まった土器ジョッキから微かに酒精を帯びた湯気が立ち昇り始める。


「お酒が温まったら頭と骨を入れて、一呼吸おいてから飲んでください」



そう、焼鮎の骨酒。本当は数分浸した方が美味しいけど、あのドワーフ達、多分そんなに待てない。



俺が作ってみせた骨酒を前に、おっさんドワーフ達が「飲ませろ飲ませろ」と大騒ぎする。騒がなくても各々が自分の分を作ればいいのに。



気付いたらファイン=ロックさんが熱燗用の炉を作っていた。熾火と灰が移され、酒の入った筒状土器が林立する。程無く広場は『渓流鰮』の焼ける匂いと噎せ返る様な揮発した酒精に包まれる。


陶板上での炙り直しが待ちきれず、火に近付けすぎて骨を焦がすおお鍛冶師リンド=バーグさん。「面倒くせぇ」とか言いながら焼魚のまま熱燗に焼『渓流鰮』を突っ込むジョー=エーツさん。


それを横目に俺は『汎用魔法』の『除湿』で『渓流鰮』の干物を作る。干鮎の鮎酒も飲みたかったんだからしょうがない。



「ミーシャ、その干物はどこから出したんじゃ?」


完成した『渓流鰮』の干物をパイク=ラックさんに気付かれた。ドワーフ、酒が絡むと謎の索敵能力を発揮してるし。


「ボクがさっき作りました。時間がある時は普通に干物を作って下さい。時間が無い時は魔法で乾燥させちゃっていいですけど」


『汎用魔法』の『除湿』か風魔法の『乾燥』で手早く干物は作れる。本当は太陽の光を浴びた干物の方が風味があって美味しいんだけど、腐敗防止の観点で言うと魔法を使った方が安全に完成する。


「食べ終わった骨で作ってもいいんですけど、干物をじっくり焼いてからお酒に浸すやり方だと三回くらいお酒の注ぎ直しが出来るんです。出汁が出終わった『渓流鰮』も食べられますよ」


俺のその一言を合図に走り出す六人。持ってきた酒瓶、さっきより大きくないか!?



夜遅くまで鮎酒を飲みまくったけど、他に何も胃に入れなくても平気な辺り流石はドワーフなんだよなぁ……。

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