第10話A
俺はそれまでは普通の生活だった。そこそこいい大学を出て,そこそこいい企業のそこそこいい立ち位置で働いて,彼女もいた。いや普通じゃなく充実していたと思う。
だが,あの瞬間変わった。
その日はたまたま部下のミスをカバーすることもなく,何事もなく,珍しく早い時間に帰ることができた。その頃は彼女と同棲もしていて,結婚の話もしていたころだった。何ごともそこそこよかったんだ。あの日までは。早く帰れたことで気分は上がっていた。だが,人間幸福もあれば不幸もあるのだろう。
「うん?何か騒がしいな。」誰かヤっているのか?頼むぜ。静かにやってくれよと思いながらドアに近づいていった。この時妙な考えが浮かんだが,それを放棄する。
だが,近づくにつれ,その音は大きくなっていった。呆れの感情が焦りに代わっていく。わかっていたのだろう。でも信じたかった。中で彼女が少し照れながら,迎えてくれるのを。そしてその希望は二つの靴によって霧散した。
そして視線を上げると,そこには部下で社長の息子,神崎と彼女がいた。
「違うの!これは」
「この際だからはっきりしとこうぜ。あんたの彼女寝取ってやったよ。あんたのことは同期だが,俺の会社なはずなのになぜか俺より出世しているくせにいきってやがったからな。この女もお前に不満があったんだとよ。」
そこからの展開ではラノベなんかの都合の良いざまあ展開なんてものは起きなかった。あんな奴を雇った職場が嫌で転職もした。現実はとても無常で,できたのはトラウマとそれから逃げるために打ち込んだ仕事の金の山。この記憶は封印していた。できれば思い出したくなかった。思い出すたびに彼女の顔がこびりつく。でもやっぱり時間が経つと三回も経験すると,慣れてどうでもよくなるものだな。
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「お前らが乳繰り合っている間におれは社会的な立ち位置をゲットした。いろんな方面に手を出したが,全アカ含めて総勢100万人。これが俺の三か月の阻止て今のそして今の同接は5万人。」
そう俺はこの三か月間念の為にと小説家,イラスレーター,歌手として活動し,100万人の味方を手に入れた。
「お前らが違法してなくてもその行為は人徳に反する。デジタルタトゥーとして背負ってくんだな。」
「そんな...。」
「まさかここまでやってくるとはね...。」
「いいですか。皆さんこれは演技です。実際はこんなことしてませんよ」
さすがあの狡猾な神崎の息子だ。あいつは後で知った話だが,自分のミスを俺にかぶせていたらしい。もはや称賛に値する。
「シラを切るか...。」
「なら見るか?あんたらのキス映像だ。そしてこれが俺とあずさが付き合っていた証拠だ。そして俺はあんたらがラブホに入ろうとする前からとっていた。あんたらが使っていた証拠もあのとき集めてある。」
「それって担当が私だったから持ってないはず...。」
「馬鹿ですか,先輩?彼女寝取られて自分から探しに行かないほうが不自然でしょうに。」
「...。」
「大丈夫だ!俺の親父はあの大企業の社長だぞ。いくらでも...「神崎茂のことか」」
「っ!」
「ちなみに俺が稼いだ金どこに使ったと思う?」
「「「...。」」」
神崎あんたは知らされてないんだな。
「あんたの社長の身辺調査したら少し弱点つついただけで出てくるわ出てくるわだったよ」
一応あいつの上司をやっていたんだ。なにかを隠す場所なんかはわかるし,特にあのくそ彼女方面から突いたらかなりぼろが出てきた。酒癖が悪かった奴だからな。
「発表してあげよう,金の横領に,賄賂,挙句の果てにやくざとの関わり,不倫に強姦,援交まで世の中の炎上要因オールスターだな。そしてこれも賄賂でバレなかったそうだぞ。」資料を見せながら言う。
「...」
「今気づいたか?もうお前は終わりだ。父親のようにお前が媚薬を盛っていたことも知っている。まあこれについての証拠はないが,あんたのもみ消しに協力していた。警察と暴力団のやつらも手のひらをかえすだろう。」
「どうした?言葉も言い返せないか?」そうすると凶器に満ちた顔で彼は言った。
「なあ,刑務所にはいったら人生は真っ暗闇なんだよ。どこに行っても噂をされる。ならそんな苦しい世界に飛び込もぐらいなら道連れにしてやる。」
ナイフを彼は取り出した。そこに彼は何かを垂らした。
「お前まさか...。」
「知ってるか?トリカブトってのは田舎なら自生しているところもあるんだぜ。」
「まことっ!?」
「まことせんぱいっ!?」
この軌道は右腹。だが,よけられない。逆恨み,狂気に走った,嫉妬に狂った人間の恐ろしさを忘れていた。時間がゆっくりに感じる。だけど体は動かない。そして彼女らの顔は恐怖と悲しみと後悔で入り混じっていた。最期に見るのが寝取られた元カノの顔といつの間にか取られていた先輩って,やばいな。ま,こいつらがとめにかかっても人を抑え込んだりする系は全くできないもんな。もう死ぬのか。そう思い,目をつむった。
「バシーン!!!」
竹がへしをれるような音をなった。人殺すときってこんな音だっけ。いやこれでも人殺せるな。恐る恐る目を開けると「会長っ!?」
「バタッ」
「助けに来たぞ,小樽くん」
「蓮大丈夫か!」
「生徒会勢ぞろいでどうしたんですか」
「普通に寝てなかったんだけど,明らかに帰りが遅くてな。そのうえであの副会長もいないから,携帯見てたらお前がライブ開いてるしそれで全員で追いかけてきたんだよ。間に合ってよかっただろう。」
「みんなありがとう。疲れた。」俺はバタッと倒れた。ラブ本前の床で寝転がったのはひょっとして俺が初めてではないだろうか。そんなことを思いながら精神の極限状態から解放されたことの疲れをいやすために遠くから聞こえるサイレンの音を聞きながら眠りについた。
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