三題噺 練習

ゴトー宗純

第1話 タイムマシン ツーリスト 社会

 未来の話をすると必ず否定しようという輩が現れる。それはどうしてか、といえば簡単で否定することで自分の知らない情報を引き出そうとするからだ。それが図に当たった様子で老人は否定した人物に知っていることを話した。

「これから先、人はべらぼうに減る」

「べらぼうに減るってのは何だってんだ、えぇ? 鉄砲か刀か槍か戦争かってぇのか爺様!」

「よくきけ甚吉、お前さん、せわしないのが悪い癖だよ。損気は短気、いや、短気は損気だ。まず人の話を聞く時というのだわね、聞いてあげていますよと気をよくするもんだ。なんだい、その顔は」

「いやだけど聞いてあげていますよ、という顔」

「表情に説明をするもんじゃあないよ! うん、まず話すとするよ、人が減るんだよ、これから」

「どうしてだい」

「そうそうそれでいいんだよ、気をよくしたから話すけれども、あたしの知り合いの社長さんがねタイムマシンを完成させたんだよ」

「あぁ、あの未来は人類史の終焉から、過去は人類史の開闢からっていうあの! タイムマシンだね! いやさ、でもそれおかしくないかい?」

「あんたの風呂敷の広げ方が大きいのはおかしいよ、そこじゃないのかい?」

「いやな爺様だね、終焉開闢に行ったり来たりしちゃったら幅が広くなっちゃうじゃあないかい。そんなことを切り出したらSFファンが黙っちゃいないよ」

「いいんだよ、SFファンがこんな場末の小噺なんか聞いちゃいないんだから。まず話を戻すとだ、その社長さん旅行会社を立ち上げようって企てなのさ。しかも安価で」

「そんな夢みたいな話あるもんかい、えぇ、王侯貴族様には安価っていうお話なんだろう?」

「いいや、どうやら一万円きっかりで百年後先オールオッケーというコマーシャルをもう作っちまったんだと」

「ダシャ―、それやっちまったねぇ、そんな社会的にも世間的にも実証されていないサービスなんて騙されるほうが悪いまであるけれども、消費者庁が黙っちゃいないでしょ」

「いやさ、やったんだよ、実はな、俺が被験者なんだよ」

「えぇ! 百年前に行ったのかい?」

「いや、三日前」

「ケチだねぇ」

「どうなるかわからないんだから、ショートレンジで行くのはデュエルの基本だろ?」

「そういえば爺様どこかおかしい、そうだ、頭だ!」

「なんだ失礼な、あたしの頭を侮辱して」

「紙が三本だったのが、一本毛になってらぁ」

「どうも波平です、っておバカ。で、あたしみたいなのが結構いてね、タイムスリップできるんじゃんねっていうのが、SNSでもちきりになったぁってわけよ」

「まだ話が見えてこないが、筋立てからするとタイムマシンを使って過去だったり、未来だったりに行くから人が減ると」

「そうそう、ちなみにお前さんだったらどっちに行く?」

「過去かなぁ」

「へぇ、過去、その心は?」

「温暖化で暑いじゃないの、私の子供の頃も暑かったけれどもここまでひどくはなかった、見なさい、カエルがゆだっているのに気づかず煮えくり返っている、それが今の暑さですよ」

「いや、これはカエル鍋だよ、実際、食糧難もある、だから、未来に希望が持てず、過去に飛ぼうっていう人が多くてね。タイムマシンかかりきりになっているんだよ」

「それで、いついなくなるんだい」

「社長の話だと著名人からインフルエンサー、教授、発明家なんてのも世界中から過去に明日には向かうってぇ話だ」

「景気のいい話だぁね、過去に英知がいっちまってより良い未来になってくれたらありがてぇんだが」

 そうこうしているうちに人はずらりといなくなって、既得権益の利得者や友人家族が大事な人たちはすっかり残った。

 ひどいところだと、悪政を敷いた独裁者も亡命したという。

 さて、ことの顛末どうなったかと申しますれば、タイムマシンの総出の熱量が過去に届いて、過去からして温暖化の社会問題が早々と生まれてしまったというわけであります。

 それを見越して特許取った社長さん未来にタイムマシンを走らせましたが、誰もいない無人の荒野になった未来にくしゃみを一つ。

 荒涼たる星の輝きだけが、いやに輝いて、社会もなくなった、というお話でした。

 特許取ってしまったから、助けどころか、殺しに来る刺客もなく、孤独に孤独にどこにも行けずひとりぼっちで空を眺めたそうな。

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