第73話 帰国、アルマからのボーナスと今後の予定

 そして、時夫たちはようやく帰国できた。


「ただいま〜」


 真っ先に愛する我らが『トッキーのアイスクリームファクトリー』に帰って来た。


「お帰りなさい!」

「イオリさん!無事だったんですね!」


 狐獣人の二人が尻尾をフリフリ出迎えに来てくれた。


「こっちは大丈夫だった?」


「はい!たまにギルド長が心配してこっちを見に来てくれたりしてたんです!」


 コニーがクスクス思い出し笑いをする!

 店には女性客が随分と沢山来ている。

 なんとか客足が戻って良かったな。


 フィリーの死により契約から解放された北狐族の子供達は家に帰すことに。


『パーラーゴールダマイン』は、益々をもってなんか全体的に強そうになっていた。

 特殊な魔法で剥製にされた魔物たちが、店の隅に飾られている。

 それに、店長が仮にも飲食店で働いてる感じじゃ無くなってる。

 客層も女性は冒険者っぽいのしかもういない。


 しかし、残念ながらオーナーであるフィリーも死んでしまったし、このお店は閉店することになった。

 ギルド長に変身ネックレスをいい加減返して貰わないといけないし。


「そんな……せっかく固定客もついたのに……」


 ギルド長が打ちひしがれている。


「店員さんたちも仕事が無くなってしまう……」


 大きな体を縮こまらせつつ、何故かチラチラと時夫の方を見てくる。


「せっかく店員同士の絆も深まったところなのに……」


 チラッチラッ

 くそっ!ウザいけどお世話になったし、なにより冒険者ギルド長って、それなりに周囲に影響力があるからな……。


「………………店員さんはうちの店で引き受けましょう」


「ほ、本当か!?じゃあ、この剥製も!!」


「いや、剥製はギルドに置いてくださいよ!あんたの店のイメージじゃ女性客寄り付かないんだよ!!」


 つい口調が荒っぽくなってしまった。


 そんな訳で、アイスクリーム店は店員を大幅に増やして、ギルド長がギルドをサボって来まくる場所になった。


 店長はフォクシーだ。

 そして、コニーも店を通じて冒険者たちから認められるようになったので、ギルドの受付に戻った。


「2階の酒場でアイスクリーム出す様になったんですよ」


 コニーはそう言って笑う。看板娘を失うのは痛手だが、コニーはギルドの受付がやはりよく似合っている。


 時夫も冒険者としての活動を強化することにした。

 仕事をこなすうちに、また邪教徒の情報が入ってくるかも知れない。


 そうそう、邪教徒を倒したのでボーナスも貰わないといけない。

 今後のためにも貰えるものはしっかり貰っておかねば。


 内容は既にルミィと共に決めている。

 神殿に帰り、ルミィが祈りを捧げる。


 光が差して、瞳が金色になる。


「此度もご苦労だったわね」


 アルマが満足そうに微笑む。

 

「今回は情報が欲しいんだ。勇者召喚の時の生き残り、祖父江さんについて。

 生きているのか?生きてるならどこにいる?」


 時夫は決めたのだ。

 カズオ爺さんの形見、平さんの形見を手にした。

 祖父江さんが生きているなら、日本に連れて帰る……。もちろん本人が望めばだ。

 そして、もし高齢で亡くなってるなら、その遺品を可能ならば遺族に持って行くのが時夫の役割だ。


「変なことを聞く。お前たちは祖父江稲子とは半年も共に暮らしているのに」


 アルマは不思議そうな顔をする。


「は?一緒に?」


 意味のわからない言葉に時夫は首を捻る。


「だから……知らなかったのか?

 お前たちが一緒に暮らしてる老婆が、祖父江稲子だ。

 ゾフィーラなどと変な名前で呼ばれているが、奇妙な呪いを掛けられて哀れなものだ……」


「……ええええええ!!!????な、なんで!?なんでこんな所で!?」


 時夫は驚きでアルマに掴み掛かりつつ、キョロキョロと周囲を見回す。

 ゾフィーラ婆さんは今は外で散歩か!?


「じゃあ、ボーナスの話はまた後だ!」


 時夫はゾフィーラ婆さんを探しに飛び出す。


「あ、おい!デコピンしてから……」


 なんか言って来てるけど、アルマは放置だ。


 ゾフィーラ婆さんは、家庭菜園を虫から守っていた。

 婆さん用に木を植えて、下にベンチを置いてからは、よくそこで作業をしてくれている。

 今は木陰の中で、穏やかな顔をしている。

 

「祖父江……稲子さん」


 時夫の改まった声にニコリと笑って、ベンチを半分開けてくれた。


「トキオ君。どうぞ、座って」


 時夫が腰掛ける。


「どうしたの?どうして私の事を知ったの?」


 いつもの、ぼんやりした口調ではない。

 背筋も心無しか伸びている気がする。


「アルマに聞いたんだ。昔ここに来た日本人の……生き残りのこと知りたくて。

 ……これ、平さんの手帳。墓守のなんたらって奴は俺とルミィで倒したよ」


 それを聞いて、婆さんはニッコリと嬉しそうに笑った。


「そう……平さんの……。

 仲間たちの仇を取ってくれてありがとう」


 やり取りを経て確信する。

 この人はボケてなんていない。


「どうして勇者がこんなところにいるんだ?

 邪神や邪教徒と戦った国の英雄だろ?」


「私は失敗したのよ……」


 そして、婆さんはかつて何が起きたのかを語った。


「じゃあ婆さんをずっとやってるのか……」


 年寄りとして何十年も生きるのは、男でもキツイと思うが、女の人なら尚更キツそうだ。

 時夫も目が覚めていきなり爺さんになってたら絶望する。


「それって敵を倒してどうにか何ないかな?」


「ふふ……トキオ君は優しいのね。でも、もし若さをあの時奪われなくても、私は今は実年齢と見た目がようやく同じくらいになったから……」


「そっか……日本に帰りたい?」


「いいえ……帰る場所はもう無いから」


 ゾフィーラ婆さんは悲しくは無さそうだった。悔しくも無さそうだった。

 その段階は何十年も前に過ぎてしまったのだろう。

 カズオ爺さんと同じ、諦めるばかりの人生。


「……辛い話を聞かせてくれてありがとう。

 ボケてる振りもう良いよ。

 ルミィもちゃんと婆さんの秘密は守るから」


「そう……嬉しいわ」


 婆さんは本当に嬉しそうに微笑んだ。

 時夫は腰を上げる。


「私はもう少し虫を殺してから戻るわね」


 そう言って、婆さんは杖を収納から取り出す。

 婆さんの杖は初めて見る。

 少し本気を見せてくれるらしい。数百の細い光線が家庭菜園を舐める様にハジからハジまで通過する。


「ありがとう。頼むよ」


 光魔法の使い手の勇者か。

 こんなに強くてもダメだったのか。

 ……なんとか少しずつ邪教徒を倒して、相手の力を削いでいくしか無いな。

 時間が掛かりそうだ。

 日本にはまだまだ戻れそうに無い。


 そして、長椅子で不貞腐れてるアルマに声をかける。


「おい、若さを奪う邪教徒について教えろ。

 そいつ倒したら若さ返して貰えるのか?」


「何?藪から棒に。若くなりたいの?」


 アルマが怪訝そうに聞いてくる。

 まあ、確かに十代くらいの元気一杯な感じになったらもっと楽しく……ではなく。


「ゾフィーラ婆さんが奪われた若さを返してやるんだよ」


 アルマはそれを聞いて意外そうな顔をした後、考え込む。


「でき……無くは無いかも知れない。

 その邪教徒の消滅時に私をその場に呼び出してくれれば……もしかすると……」


「出来るんだな?わかった。

 じゃあ、今回取り戻した力とやらはその時のために取っておいてくれ」


「そなた……お人好しなのね」


 アルマは揶揄う様に笑う。

 でも、そもそもコイツのやらかしで苦労してるんだから、もっとコイツも婆さんのために何か自発的にしろってんだ。


「まあ、そんな訳だから。お話はおしまい。帰れ」


 ばちん!


 そして、オデコを擦りながら目覚めに目をぱちくりさせているルミィに、事のあらましを伝えた。


「なるほど……邪教徒殲滅は決定事項ですが、それらしい邪教徒の話が無いか私も調査します」


 今後の予定が決まった。

 さて、婆さんがボケてないことも分かったんだし、夕飯何が良いか聞いてみるか。

 俺ら婆さんの好きな食べ物が何かすら知らないもんな。


 その日の夕飯は野菜たっぷりのクリームシチューになった。

 

 

 

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