第69話 墓守の天使との戦い
さて、準備も万端!やる気たっぷりの時田時夫だ!
念のために液体燃料も買い足しに行っておいた。
でも、伊織が近くにいると使えないけど。
魔石もそこそこなサイズのを買ってみた。
ふふふ……アイスクリーム屋さん頑張って今回の赤字を補填しないとな。
レメド共同墓地に、今回は伊織救出とドミナをあわよくばアレコレころっとしてやる為にやって来た。
それにしても、綺麗に手入れが行き届いてると墓地でも気分がいいなぁ。
墓石があるから樹木葬とは違うんだろうけど、墓ごとに必ず木を植えると言うのは面白い。
墓によって木の種類が違うのは亡くなった人の生前好きだった木だとか、遺族の趣味とかで決まるんだろうな。
ただ、嵐でも倒れないようにしっかりと根を張る種類限定で、教会で示された種類から選ぶ方式なので、完全に好きなようにできる訳ではないようだ。
そして、そのうち木が大きくなって墓地が森になることもあるらしい。
そしたら、別の場所にまた墓地を作り直すそうだ。
何だか壮大な話だ。
マルズ国含む数カ国でやってるらしいが、アーシュラんではやっていないそうだ。
宗教同じなのにね。
土着の信仰と混ざった結果なのかな。
この墓地はまだまだ森になるには時間がかかりそうだ。
それとも、少し離れたところの森も墓地の一部だったりするのかな?
ここにある木は結構立派だが、墓と墓の間が時夫の知る墓地よりも結構離れているから、今のところは割と遠くまで見渡せる。
風が木々の間を駆け抜ける。
ルミィは水色に染め直した髪を風に弄ばせてる。せっかくなので色々な染料を試したいそうな。水色も少しくすんだ色だからか、瞳の色と合っていてよく似合うなぁ。
さて、ゆっくりしてる場合じゃないな。
「よし!あの怪しい建物に行くぜ!」
時夫はビシッと杖で道具の入っている小屋を差した。
やる気十分!
ほんと伊織さえいなければ、小屋ごと爆破するのにな。
しあし、やる気のある時夫に、薄暗い声が答えた。
「その必要はない……」
黒いローブを着た背の高い人影が、木の影から姿を現した。
おお……隠れてたんか。
声はしわがれて男か女かもわからない。
そして、深く被ったローブのフードの下に顔を隠してしまっている。
ソイツは右手に伊織の首に繋がる鎖を、左手に三本の鎖を持っていた。
左手の三つの先には、とても生きているとは思えないあり得ない方に首が傾き、腹が裂け、眼窩が落ち窪んだ死体がゆらゆらと揺れながら立っていた。
まだ、臭いはしないから死にたてホヤホヤかな?
剣を三人でお揃いのを持っているから、三人は兵士とかで支給されたか……あるいは仲良し三人組でお揃いで購入したか……もしかすると、あの剣がこの国でめちゃ流行ってて偶々被っちゃったかのどれかだな。
「トッキーさん……うぅ」
伊織が小さな声で時夫の名を呼ぶ。
そして、黒いローブはそんな伊織の鎖を手元に手繰り寄せる。
「良かったよ……この小娘の持っていた服から、オマエが場所を探れるのなら、私も持っていたかった。
だか、あの新入りの貴族の小僧が寄越さなかったんだ。
……いや、その話はもう良い。
ここは墓地だ。
私は墓守の天使ドミナ。
死体を操るのが私の魔法!
ここには百を超える死体があるんだ!」
ドミナの陰鬱な声に合わせて、地面の下からガリガリと音が出る。
「死体は自らの損壊を苦にしない……。
そして、生きている時の何倍もの肉体的な力を振るえるのさ……。
さあ、何百という死体と戦ってもらおうか……。
「あ……あああー……」
いつの間にかドミナの左手の鎖は消え、仲良し疑惑三人衆が自由になっていた。
変な声を出しながら、剣を構えてるので、時夫も杖を構えて臨戦体勢!
「うガァ!!」
仲良しのうちの一人が気合い入った声と共に剣を振り上げて襲いかかって来た!
「『ウサギの足』!『滑り止め』!」
そして、時夫はゾンビの正面から傍に
時夫は魔法をそれぞれ極大で、襲って来たゾンビの右足に『ウサギの足』を、左足に『滑り止め』を掛けたのだ。
すると、どうなるか。
いきなりパワーアップした脚力を制御しきれずにゾンビはすっ飛び、着地したところで、左足に異様なブレーキが掛かるので躓いたように体制を崩す。
そして、
「『ウィンドスラッシュ』」
ルミィが杖に風の刃を纏わせて、ゾンビをぶつ切りに切り刻んだ。
容赦ねぇ!
この通り、時夫とルミィは今やゾンビ一体や二体でどうこう言う二人組ではない。
ドミナの言う通り百体くらいいたら大変なところだった。
「何故……何故だ……死体どもは何故墓から出てこない!?」
ドミナが焦っている。
やはり、事前準備を頑張ってよかった。
そう、時夫達は事前に身分を偽って、ギルド長の姿でこの墓地を管理するシスターさんとここに来ていたのだ。
ギルと言う偽名は、ギルド長から付けたのだ。
ルミィの紫髪バージョンも中々良かったな。
まだまだ染料はいっぱいあるから、もっと色々試すと面白そうだ。
で、時夫は墓を修繕すると言って、『接着』で実際に直しつつも、家庭菜園で培った植物成長促進魔法の『緑の手』で墓の近くの木の根っ子だけを好きなように成長させまくって棺を覆い尽くすようにした。
ルミィに貰った魔石の力も借りて念入りに魔力を注いだ。
すると、何と言う事でしょう。
ドミナの頼りの綱の死体達は急成長した木の根っこが棺に巻いて出て来れなくなってしまったのだった。
実は時夫が最もよく使う魔法は家庭菜園の『緑の手』なのだ。
……戦いの為に使うのはもちろん初めてだけど。
圧倒的な習熟度の為に、今や枝の付きぶりなんかもコントロール出来るし、根っこを立派にして伸びる方向を操るなんてお茶の子さいさいだ!
……園芸のカリスマになろうかな。
そう、確かに時夫は伊織を急いで助けようと心に誓った。
でも、今は亡きフィリー曰く、伊織は時夫を誘き寄せるエサらしいので命の危険そのものは実は差し迫ってる訳ではないと判断した。
一応それなりに急ぐものの、準備を怠る程には急がなくっていいのかな、と考えたのだった。
この適当さはこの世界に来てから身につけたのだ。
時夫も日々成長している。
そんなこんなで、残り二体のゾンビもルミィが速やかに切り刻んでしまった。
つえぇ!
「こ、この娘がどうなっても良いのか!?」
追い詰められたドミナは伊織の首元にいつの間に取り出したナイフを突きつけた。
「……やめてよ!」
「暴れるな!」
抵抗をみせる伊織に、ドミナが慌てる。
「『ウサギの足』『滑り止め』『剛腕』!」
ムカつく奴殴り飛ばす3点セットをドミナの頬にお見舞いした。
良い感じに吹っ飛んだドミナに、ルミィが素早く滑るように近づき、
「『ウィンドスラッシュ』」
いつもの通り切り刻んだ。
そういえばフードの下見てないな。
伊織がへたり込む。
「大丈夫?伊織ちゃん」
「なんか……力が抜けちゃって……」
伊織は恥ずかしそうにはにかむ。
時夫は伊織に手を伸ばし、立たせてやる。
「よし、家に帰ろう」
アイスクリーム屋さんの様子も気になるしな。
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