第65話 装備と対決

 「来ると思っていたよ」


 教会にはカッコ付けが奥の中央に一人暗い中佇んでいた。

 夜なんだし明かりくらい付ければ良いのに。

 変に演出しないで欲しい。


 異世界の夜を照らす二つの月がちょうど雲から顔を出した。

 ステンドグラスを通して月の光が赤に青に様々に色付けられて建物内部を照らし出す。

 今日は珍しく月が両方ともに満月だから、十分な明るさを得る。


 何十人も座れそうな長椅子には、今は祈る人は誰もいない。

 時夫も今日はここで祈る予定は今のところ無い。

 戦うためにここに来た男が、七色の光の下にその雄々しい姿を現した。


 沈黙。


 長髪気障野郎が困惑する気配が伝わる。

 

「……ええっと、てっきり本当の聖女の男性とお姫様が来ると思ってたのにな」


 ふっ……と時夫が失笑を漏らす。

 やれやれ、まだ分からないのか。


「俺が聖女だ!」


 時夫ギルド長バージョンは分厚い胸板を逸らして、肩を怒らせ鼻息荒く男に近づきながら、変身を解いた。

 時夫本来の姿を見て、ようやくフィリーは混乱から立ち直った。


「へぇ……変身する魔法か。

 古代魔法で存在するとは聞いた事あるなぁ。

 ……僕はね、貴方を死体にしても良いから、唯一神に捧げたいんだ。

 ニホンジンは、死体になろうとも神の力が乗りやすいみたいでね。

 欲しがってる天使がいるんだよ」


 緑髪が饒舌に説明しながら、腰に刺した杖を手に取る。


 シンプルで短い杖だが、緑の宝石、そして見た事無い真っ黒な黒曜石の様な石が嵌め込まれている……様に見える。

 

 でも、もうちっと明るい所で良く見せてもらわないと分からんな。あれ、黒っぽいけど黒いよな?

 ステンドグラスのせいで色が分かりにくい。

 ……そのための嫌がらせか?


 時夫が思考を高速で巡らせて、対象を見極めんとしているのを見て、

 長髪は余裕の笑みを浮かべた。

 ――くそっ!自慢か?


 時夫もすごい杖を持ってるので、速やかに収納から出した。

 時夫のだって特別に作ってもらった凄い奴だから全然負けてないからこれで互角ね。


 時夫は杖を自慢する様に掲げてみせる。

 装備対決1回戦目はこれでドロー!


 そんな時夫の不審な挙動を無視して、自分勝手に成金は名乗りを上げる。


「改めて挨拶しようか。僕は欺瞞の名を神より賜りし天使フィリー!では、いくよ!」


 欺瞞の天使フィリーが歌う様に戦闘開始を告げた。


「『ウサギの足』『滑り止め』『クッション』」


 自分だけ名乗って時夫に名乗らせ無いのは反則では無いか!?……と思ったが、命の取り合いの場には残念ながら審判はいなかった。

 時夫の基本の3点セットで、素早く長椅子の間を跳ぶように移動する。


 風の刃が次々と長椅子の背もたれを切り刻んで行く。


 伊織がいないのは残念だったけど、それならそれで全力でやれるのでラッキー。

 時夫もこの世界に来て半年以上。

 祖父まで殺され、いつまでも日本の倫理観で生きていくつもりは無い。


 残念だけど死んでもらおう。


「『空間収納』『空間収納』『乾燥』『ファイアボール』」


 時夫の殺意の3点セットだ。

 引火性液体燃料の入った瓶が、中身の気化による膨張で割れる。

 そして、瓶の破片と共に広がった燃料は簡単に引火し爆発する!


 時夫はその爆風と熱を、収納から出していた使い捨ての魔道具のシールドで防いだ。


 屋根や壁の一部が吹き飛ぶ威力だ。

 伊織がいたらとても使えない時夫の必殺技である。


「やったか!?」


 時夫はこれを言うのはお約束なので、必ず言わなくてはいけないと思い込んでいる。


 月が半分雲に隠れて辺りが少し暗くなってしまった。


 そして、

 お約束通りに、立ち上がる黒い影。


「……何それかっこいい」


 根が素直な時夫は敵ながらあっぱれな姿に感嘆を漏らす。


 夜闇よりもなお暗い、漆黒の全身鎧がそこにはいた。

 そして、黒い石が無くなり、緑の石だけになった杖を掲げてみせて、飄々とした声で自慢する。


「ふふ……僕の貰った能力は見ての通りの頑丈な鎧さ。

 先ほどの爆発でも、傷一つ付かない。

 伝説級の鎧も、これ程のモノはそうは無いだろう……。

 でも、これでも不完全なんだ。

 完璧な僕に相応しい完璧な鎧とする為にも、もっと神のために尽くさないとね」


 そして、2回戦目……。

 

 時夫はカッコいい鎧とか持ってないから、この装備対決は時夫の負け!

 

 ……ムカつく!殺してやる!


 時夫は決意を新たに拳を握りしめた。




読者様への謝罪


16話のウサギ大量発生の後、1話分抜かして一週間掲載してました。

16話の2として話を挟み直しました。

ご迷惑お掛けしました。


 


 


 

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