第53話 アイスクリーム屋さん開店
そしてついにアイスクリーム屋さんの開店日を迎えた。
幼稚園の頃にクレヨンで描いたどおりの素晴らしい店の佇まいに時夫の胸は感動でいっぱいだった。
ウィルとイリーナ、ミーシャ、テオール、そして双子のカイとルルも駆けつけてくれた。
ウィルは必要な道具を作ってくれたし、テオールは大工として内装のリフォームを仲間と共に安くやってくれたのだ。
スペシャルサンクスだ。
「トキオさん、おめでとうございます!」
花束をもってミーシャがお祝いしてくれる。
「ありがとう!」
時夫、感動の涙を流す。時夫はやり遂げた達成感でいっぱいだった。
そんな時夫に水を刺しに来た者がいた。
「ちょっとトキオ!今からスタートなんですから!泣くの早いでしょう!」
看板娘1号ルミィが腰に手を当ててプンスコ怒ってる。
制服がよく似合っている。かなり可愛い。
時夫はグイッと涙を拭う。
「そうだな。でも満員御礼待ったなしだろ」
元々の聖女サリトゥのネームバリューと、聖女と獣人が店員として働くらしいという驚きを持って、噂があっと言う間に広がって、アイスクリーム屋さんは開店前から長蛇の列だ。
獣人に対する偏見もまだあるのか、アイスクリームに興味持ちつつも、並ばずに少し離れた所からソワソワ店を眺めている冒険者もいる。
新聞記者も来ているし、初日は特別に値段半額での提供だ。
今日は時夫の特大『空間収納』にめいいっぱいアイスクリームを詰め込んでいる。
そう、時夫は冷蔵庫の保守とアイスクリームの保管係なのだ。
近々特大冷蔵庫も届くので、ある程度は時夫無しでも沢山の客を捌けるようになるはずだ。
そして、伊織が待っている客に手を振っている。
「きゃー!聖女様!!」
「こっちみてー!」
アイドル的な人気だ。
どこぞのバカ王子はさておき、献身的に瘴気病患者を看病する姿が話題になったので、パレード失敗で一度は急落した人気が復活したのだ。
それと、隣国との何の悪さも、伊織の人気を支える一助となっている。
今は平和だが、昔はそれなりにドンパチやっていたとの事で、アーシュラン国とマルズ国は今でも仲が微妙に悪い。
なので、マルズ国でこっちがホンモノでーす!サリトゥはニセモノでーす!なんて宣伝しているのが気に食わない愛国心あふれる人達が、熱心に伊織を支持しているのだ。
時夫としても邪教徒であり、尚且つ祖父の仇がデカい顔しているのは非常に気に食わない。
今は手出しできないが、必ずやラスティアは倒してやろうとおもっている。
そんな訳で、時夫は伊織の人気が高まるのをなるべく支えたい。
それが少しでもラスティアに対する嫌がらせになれば幸いだ。
そして、遂に開店時間!
「ちゃんと並んで下さーい!」
コニーが割り込もうとする客に注意する。
「なんだと!?獣人の分際で!!」「あ゛あ゛!?」「……んだとコラ!?」
モヒカン三人組がコニーを睨め付ける。
この時勘違いしてはいけないのは、この三人の中には、この間蝋燭になったモヒカンは含まれていない事だ。
髪が焦げてないし、モヒカンの色も違う。後は……だいたい一緒だ。
……モヒカン流行ってるのかな?
「おい……お前ら……」
重低音が響く。
モヒカンズが振り向くと、そこには太い腕を組んでモヒカンズを見下ろす冒険者ギルド長の巨大があった。
背中には巨大アックスを背負っている。
人間の首なんて一撃で切り落とせそうな鈍い輝きを放っている。
「ちゃんと並べ……俺もちゃんと並んで後ろから見てるからな……」
「はひ……わかりまひた」
ギルド長の睨みでモヒカンズは肩を縮こまらせて、きちんと並び直した。
「ギルド長……受付はどうしたんですか?」
「ああ、用のある奴は待ってろって受付に紙貼って置いたから大丈夫だ」
「……文字読めない冒険者も結構いますよね?」
「文字が読めなくても俺がいない事くらいはわかるだろ」
この世界の人って自由すぎる。
俺も見習わなくちゃ!
時夫は郷に入っては郷に従えの精神で、もっと自由とか、まあいいやの精神を大事にしようと決意した。
時夫も外ばかりを見てるわけにいかない!
じゃんじゃん稼ぐぞ!!
そして、かなりの数のアイスクリームを用意していたのに、昼頃には完売してしまった。
聖女からアイスを受け取りたがる人がいたり、ルミィにしつこく名前を聞き出そうとする男性客がいたり大変だった。
心配だったコニーへの差別だが、ギルド長が3回もアイスクリームを購入しに来て睨みを利かせてくれたので、大きなトラブルにはならなかった。
普通に接してくれる人も多かったので、最初は緊張していたコニーにも、だんだんと笑顔が見られる ようになった。
「よし!暫くは給料は日払いだ。受け取ってくれ」
受け取ったコニーが目を丸くする。
「こんなに!?良いんですか!?」
「めちゃくちゃ忙しかったからな。明日の分もたくさん仕込みできたし」
「私、自分の力で稼ぐの初めてです!うちの高校バイト禁止だったから」
伊織も嬉しそうにはしゃいでいる。
あ、ルミィが明日の分のアイスをこっそり摘み食いしてやがる!後でデコピンだな。
「しっかし思いの外忙しかったなぁ。
人手がもっとありゃあな……」
何気に知り合いが少ないし、人を見る目とかイマイチ自信が無いので、新メンバーとかどうすれば良いやら。
ギルドで募ったら美人3人目当てのムキムキの男臭いのが来そうだし……。
下手するとモヒカン来るかもだし……。
冒険者のお姉様方って人気高いから、女性冒険者を引っこ抜けそうな給料は払えないしなぁ。
時夫の言葉を聞いて、コニーは少し考え込んだ顔をした後、大きな耳を自信なさげに折りたたんで、大きな尻尾を手で弄びながら、おずおずと切り出した。
「あの……私の妹のフォクシーがこっちに来るって言ってて、多分お役に立てると思うんですが……一度会ってみてくれませんか?」
「え?妹いるんだ?どんな子?」
料理上手とか、接客経験ありだと良いなぁ。
「母方の北狐族の血が濃く出てるんです」
それを聞いて、ルミィがすっ飛んできた。
「採用です!」
「なんだよ。勝手に決めるなよ。別に雇って良いけど。
でも、その北狐族って何?」
この世界に慣れてきてはいるものの、やはり知らない単語はまだまだ出てくる。
「氷系魔法を使えるとっても珍しい獣人です!この国には殆ど居ないんですよ!」
「採用!!」
採用することになった。
看板娘が増えるぞ!
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