第22話 魔道具屋と時夫の杖

 今日はついに待ちに待った魔法学園でのお仕事だ!

 

 でも、その前にテオールの家に行く。

 『魔道具屋ウィル』の看板が掲げられている。

 裏路地で目立たない場所にある割に客足がそこそこあるのは、看板娘のお陰だろう。

 

 一階を改装して、狭いが中々雰囲気のある作りになっている店内には、朝も早よから既に何人か客がいた。


「あら、トキオさん!お久しぶりです!注文の品出来てますよ!」


 美人看板娘のミーシャが笑顔で出迎えてくれた。シンプルなエプロン姿が素朴で可愛い。


「ああ、久しぶり。急いでないから他の客優先で良いぞ」


 と言いつつ、店内の商品を見ていく。この前来た時よりも断然品揃えが良くなっている。

 

 魔道具はこの世界では家電みたいな物で、生活魔法も人によって使える数や種類が違うので、自分や家族が出来ないタイプの生活魔法を補う物を選んで購入するのが普通だ。

 

 因みにこの店の一番人気は目覚ましである。

 朝7時頃にミーシャの声で「おはよう、朝ですよ」と声が出てくる魔道具で、一つ一つ録音?しているので、どの目覚ましを買うかで僅かに言い方に差がある。よく吟味して購入していく独身男性が目覚ましコーナーにたむろしている。

 

 時夫も独身男性だが、同類と思われないようにそこのコーナーには近寄らないようにしている。

 本当は一つくらい時夫も買いたいとか思ってないことも無い事はなくも無い。えーっと……とにかく買わない。うん。


「トキオさん。お久しぶりです!こちらです。どうぞご確認を」


 ウィルが奥の作業スペースから顔を出し、注文していた杖を渡してくれた。

 

 一般的な杖は魔石が一種類か二種類のところ、なんとこの杖は全種類の魔石がついている。

 付いている石の種類で、その属性の魔法を強力にしたり、使いやすくすることが出来るのだが、

 生活魔法はぶっちゃけどの種類の魔法も包括している戦闘には使われない雑多な魔法の総称みたいなものなので、今後使える生活魔法が増えていくだろう事も考えて、この様な特別な時夫専用の杖を作ってもらったのだ。

 

 一つ一つの石は通常の杖に使われる物よりも大分小さいとは言え、全種類ともなるとそこそこのお値段がした。

 最近の冒険者として稼いだお金の大半を注ぎ込んでしまった。

 

 初期投資は大事だから……仕方のない出費なんだ。と自分に言い訳しつつ、その見事な職人技の光る杖を、時夫は掲げて魔石の輝きを惚れ惚れと堪能する。


「そうだ、トキオさんにはお世話になってるんで、オマケもどうぞ。うちの看板商品です」

 

「ちょっとお父さん!?」


 ミーシャが頬を赤らめて父親に抗議する。

 時夫はミーシャ目覚ましを手に入れた。


 ウィルがふと思い出したように時夫に質問する。


「そう言えば、『接着』はどうですか?使い勝手は?」


 『接着』はウィルが新しく時夫に教えてくれた生活魔法だ。似た材質の物をくっ付けてしまう魔法で、『剥離』とセットで覚える。

 モノづくりをする人が覚えていることの多い魔法らしい。


「ああ、壊れた物を直したりするのに役立ってます」


 ミーシャが時夫を尊敬の眼差しで見上げてくる。そう、見上げてくる。ミーシャは小柄なので見上げてくるのだ。見上げられる事があまりない時夫。気分が良いな。


「トキオさんは凄いですね。そんなに沢山の種類の魔法を覚えられて。貴族の人じゃ無いのに」


 この世界では基本的に貴族でその中でも位の高い人の方が魔法に長けている傾向がある。

 どうも魔法の才能も遺伝要素が強いらしく、魔法に長けていれば上の階層と結婚できたりもする。

 

 シンデレラ的な話として、魔法の才能と美貌に恵まれた平民の女の子が王子様から身染められる的な子供向けの童話が有名だったり、魔法の才能での成り上がりは時夫じゃなくとも、この世界では一度は夢見るものなのだ。


「まあ、せっかくこんなに良い感じの杖も手に入れたし、今後更なる活躍を期待しててよ」


「はい!応援してます!」


 時夫にミーシャが良い笑顔を向けてくれる。が、店内の男性客から殺気の籠った視線を感じる。


「なんでミーシャたん……あんな男に笑顔を……」「俺は一日に五回は目覚ましを買いにくる上客で馴染みでお得意様なのに……あんな新参者……ちょっと高価な買い物した程度で常連ぶりやがって……」

「女連れのくせに……ころころしてやろうか……」


 なんか怖いな……。

 

「えーっと、そろそろ行くよ。ほらルミィ、行くぞ」


「え、待ってください!まだ見てて……」


「また来た時にしろ」


 ルミィの腕を掴んでズリズリ引きずって退店する。


「また来てくださいね!」


 ミーシャがひょっこり顔を出しながら、手を振って見送ってくれた。


「おう!またな!」


 時夫も手を上げて応えた。

 そんな時夫をジト目で見ながらルミィが当てこすってくる。


「トキオもてもてですねぇ。鼻の下伸びちゃってましたねぇ。若い女の子は可愛いですもんねぇ。

 しっかり目覚まし手に入れてましたねぇ。最近寝起きの悪いトキオがそんなんで起きられるのでしょうかねぇ。私もトキオを叩き起こす業務が無くなるなら嬉しいですよ!」


「いや、別にモテモテとかそんなんじゃ無いだろ。まあ、俺のことは生活魔法のカリスマとして尊敬し始めてる様だったけどな。

 それにルミィも若いし可愛いだろ」


「ふぇ!?可愛い!?それに……それに若いって言いました!?今言いましたよね!?若いって!!」


 ルミィが時夫に迫ってくる。何なに怖い!


「い、言ったかなぁ……?」


 仰け反りながら何となくはぐらかす。


「私まだ若いですよね!行き遅れじゃ無いですもんね!ね!」


 グイグイ来る。そう、この世界では20歳過ぎて結婚してないのは行き遅れ扱いなのだ。だから……ルミィは……誠に……残念ながら……。


「……俺も未婚だからな。お揃いだ!二人で強く生きていこう!」


 時夫は明るい言葉で適当に誤魔化す。


「ふ……二人で……そ、そうですね。二人で生きていきます」


 細い路地から大通りに出るので、ルミィはフードを深く被り直した。

 

そろそろ時間なので、ルミィに馬車を呼んでもらって、魔法学園に向かった。


 

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