第7話 その頃伊織は
一方その頃
齋藤伊織は全ての属性魔法について高い適性を持っていることが判明した。
「な、なんと凄い!全てにおいて、同じ頃の若者の中でもトップクラスにございます!」
魔法省の大臣が直々に伊織の魔法適性や魔力を調べに来たが、どれも既に同世代の平均を大きく上回っていた。
「しかし、魔法は魔力や適性の他にも、どのように使うかというのが大事です。
王立の魔法学園の方に今からでも入って頂いて、基礎を学び、同世代と切磋琢磨して頂くのがよろしいかと」
大臣は興奮しながらも、自分のところの管轄の学園に聖女サリトゥを引き入れようとしている。
中々の狸である。
「聖女様、アレックス殿下も学園に通っておいでなんですよ」
伊織が第一王子、アレックスの方を見ながら、顔を輝かせる。
「アレク!私もアレクと一緒に学校通いたい!」
アレックス王子は金髪をかき上げながら鮮やかな青い目を細めて、伊織を愛おしげに見る。
「じゃあ、決まりだ。大臣は直ぐに手続きを進める様に」
「ははあ!」
大臣は深々と頭を下げ、タプタプの二重顎をタプタプ上機嫌に震わせながら体重の割に軽快な足取りで退席した。
アレックスと伊織が微笑み合う。
そして、侍女の入れ直したお茶に口をつけようとした時、
「アレックス……殿下!」
乳母の息子で、アレックスの親友のリックが慌てた様子でやってきた。
少し癖のある紺色の髪の毛が少し乱れているのも気にせず、急いでやってきた様だ。
「あ、聖女様ご機嫌麗しく……」
リックの深い青色の瞳が伊織をとらえて、端正な顔を軽く下げて礼をとる。
「何だよ騒々しいな。イオリ、こいつは私の親友だ。生まれた時からのな。
ご覧の通り落ち着きのないやつだけど、良いやつだから」
「まあ、アレクの……。初めまして。齋藤伊織と言います。よろしくお願いします」
伊織は見よう見まねの、この世界での礼をとって挨拶をする。
「ああ……よろしくお願いします。
と、アレックス……殿下!パトリーシャが来てるぞ。
お前の婚約者様も噂の聖女様にお会いしたいってさ」
アレックスがヤレヤレと肩をすくめた。
「イオリ、婚約者と言っても……私の妹みたいな奴なんだ。
事前の連絡も無しに来るなんて非常識な奴だけど、もしイオリが良ければ会ってやってくれないか?」
「まあ……婚約者の方がいらっしゃったんですか。政略結婚ということですか?」
伊織のあまりにストレートな質問にリックは少し眉を顰めたが、アレックスは我が意を得たりとばかりに、満足げに笑って大きく頷いた。
「そうなんだ……。王族だと色々面倒が多くてね」
アレックスは大袈裟にため息をついてみせた。
そして、間も無くパトリーシャが現れた。
栗色の豊かな髪をリボンで綺麗に編んでいる。鮮やかな青色のドレスは今年の流行だ。
「ご機嫌よう。第一王子殿下、リック様。突然の訪問に応えていただきありがとう存じます」
パトリーシャは優美に礼をとった。
「こんにちは!あなたがパトリーシャさんね。
私、齋藤伊織。伊織って呼んでね。
あ、私もこれからあなたの事パトリーシャって呼ぶね。
あなたの事妹みたいに思ってるってアレクから聞いて、私も会いたいなって思ったからアポ無しとか全然気にしなくて良いよ。
これからよろしくね」
伊織はパトリーシャの両手をギュッと握った。
パトリーシャは王子からそれぞれ紹介を受けるものと思っていたので、伊織の言動に驚いて新緑の大きな瞳をさらにまんまるに大きく見開いている。
リックは頭痛を堪える様な表情を一瞬したが、直ぐにポーカーフェイスになった。
「良かった。二人とも仲良くなれそうで。
パトリーシャ、イオリも今後一緒に学園に通うことになったから、困っていたら力になってやってくれ。
なに分こちらの世界のことにまだまだ詳しく無くてな。
でも、イオリは本当に心優しく聖女に相応しい人だから。よろしく頼むよ」
「……殿下の頼みとあれば」
パトリーシャは淑女らしい微笑みを浮かべて伊織の手をそっと解くとアレックスにゆっくりと頭を下げ臣下の礼をとった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます