第6話 生活魔法の悲しき世間的評価

 『クリーンアップ』


 時夫のチート生活魔法は、毎朝一時間掛けていた掃除を一瞬で終わらせてしまった。

 神の保証する世界最高峰の魔法で、建て替えホヤホヤの様な美しさ。


「うわー!トキタは本当に女神に選ばれし聖女様なんですね!……今後は聖女様とお呼びします!」


「男に聖女はやめろ!あと、トキタは氏でトキオが名前だから。

 絶対勘違いしてるだろ」

 

 ルミィがキラキラお目目で敬愛の眼差しで見つめてくる。

 うーん、生活魔法に対する偏見の思いがあるから喜べないのかな?

 でも、実用性で言えば他の追随を許さないんだよな。

 と言うか、生活魔法って何なんだ。


「なあ、生活魔法って何か定義あるのか?」


「実生活に役立つ魔法ですよ?お水出したり、火を出したり、汚れを取ったり」


「それは水魔法や炎の魔法とかと違うのか?」


「うーん……言われてみれば違うような……違わないような……考えたことも無かったですね。

 一般市民でも使える様な魔力が少ない人でも扱いやすいものが多いですよ。

 他にも重い荷物を軽くして持ち運んだり、あとは生ゴミを早く堆肥にしたり……そうそう、暗いところを少しの間明るくしたりも出来ます!」


 結構万能そうだ。

 ……何か戦う時に役立つかな、とも考えたが、そもそも戦う機会が無いからな。

 

 それに本当に戦いたいかな?無双はしたいけど、危険な目には遭いたくないな。

 あくまでほのぼのライフに勤しみつつも、ここぞと言う時にバーンと活躍したい。

 そして皆んなから尊敬されたいけど、人間関係とか面倒だから隠居生活したい。


 相反する望みの数々に心が千々に乱れる。

 

 ……よく考えたら、女神に元の世界に戻せって要求したのに、能力授けられてそこんところは有耶無耶にされてしまった。

 アイツ召喚やらに俺のこと巻き込んだポンコツかと思いきや、侮れない。


 しかし、せっかくのチート能力だ。元の世界に戻るのは少し魔法を楽しんでからでも良いだろう。

 それに、仕事も繁忙期なのに無断欠勤中だし、もうガッツリ休ませて貰って転職考えるかな。


 とにかく先ずは生活魔法について知らなくては。


「なあ、生活魔法について、もっと詳しく知りたいんだが、本とか無いのか?」


「無いです」


 即答された。


「何でだよ!」


「生活魔法の多くは、身分の低い使用人か、平民が使うものですので。

 そして、そういう人達は識字率が低いのです。

 

 もちろん、貴族も使えますよ。何種類か。

 特に戦争とか行く様な男性は貴族の使える生活魔法の平均を押し上げてます。

 が、やはり、そういう魔法を使うのは、その場にいる人の中でも身分とか立場が低い人が使うことが多いです。

 

 魔力も消費が少ないとは言え、やはり使うことには違いありませんから。

 強くて偉い人は、戦いに備えて魔力は温存して、戦力として微妙な人がそういう時に役立つ形です。


 生活魔法は身分の低い人のやる雑用に分類されるので、あんまり率先してやってると見下される原因となるので、お気をつけください」


 あの女神……とんでもないハズレを掴ませやがったのか!?


 怒りにプルプル震える時夫に、レミィが気遣わしげに声をかける。


「えっと、私はトキョのこと凄いと思いますよ!」


 慰めてくれた。しかし、発音が残念無念だ。訂正せねば。

 

「トキョじゃ無くて、トキオ!」


「ト、キーヨ?」


「ト、キ、オ!」


「ト、キ……オ!」


「よし!」


 とりあえず生活魔法はレミィに聞きつつ、自分で研究していくしか無いだろう。

 ここの世界の文字も不思議と読めるし、何なら研究結果を紙にまとめたりしても良いかも知れない。


 この世界での今後の方針の一つとしよう。

 後は……聖女とかってどうやれば辞められるんだろうな。

 そういや齋藤伊織……さん?は聖女パワー無くて困って無いだろうか?

 まあ、魔法のチート能力は貰ってるそうだから、それなりの活躍をしてるだろうな。

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る