第4話 自称女神

 女神官時夫の朝は掃除から始まる。


「うーん、やはり男手があると助かりますねぇ」


 時夫が椅子をどかした場所をせっせとルミィが生活魔法とやらで綺麗にしていく。

 椅子をどかさないと、椅子の脚の跡がつくから嫌なのだそうだが、そんなの誰も気にしないんじゃ無いかな。

 

 ここの女性専用の区画も、昔は多くの女神官がいたらしい。

 問題を起こした貴族の娘の再教育施設として活躍していたらしいが、ある時何やら色々ピンク色の不祥事が発生した為に娘達はサッサと引き上げられてしまって今に至るとの事だ。

 

 ゾフィーラ婆さんはさておき、ルミィなんてまだ若いし顔も良いんだから危険じゃ無いかと思ったが、なんか見た目より逞しそうな奴なので大丈夫そうだな、と時夫は判断した。

 

 ……新人の時夫目当てに来る奴は流石にいないよな?


「ふう……綺麗になりました。さて、女神アルマに祈りを捧げますよ」


 女神アルマ……ルミィがよく口にする名前だ。ルミィの名前もアルマから付けられたらしい。

 アルマのルマを可愛くして、ルミィ……みたいな。


「本当にアルマっていう神様の事が好きなんだな」


 特に信仰する宗教は無い時夫は感心している。ただし、その神様の治める世界に無理やり連れてこられて不満たっぷりなので、評価は今の所高く無い。

 それをあえてルミィに言うことはしないが。


「当たり前です。

 私は常に心の中でアルマ様に話しかけてるのです。

 日々の生活のあれこれを全て女神は見ておいでですよ!トキタもほら、ここに来てください」


 一緒に祈らされた。

 ステンドグラスの鮮やかな光に包まれて、ルミィは発光しているように見える……。


「………………」


 いや、これ本当に発光してるぞ?何?何かの魔法使ってるのか?

 え?俺も何かした方がいいやつ?


 そして、ルミィが突然スクッと立ち上がる。

 未だひざまづいている時夫を金色に輝く瞳で睥睨する。

 

 「んん?ルミィどうした?」


 時夫も立ち上がりながら聞いてやる。


「違う。私はルミィでは無いわ。私はアルマ。この世界を統治すべき神」


「……………………」


 ……もしかして、祈った後はイタコ芸をするルールが?

 え?もしかして今後は俺もやるの?

 時夫は反応に困った。しかし、ここは乗ってやるべき、何だろうな。うん。


 「ええっと……アルマ様は、何かご用件がおありで?」


「ふむ」


 自称アルマことルミィは重々しく頷いて、近くの長椅子に腰掛けた。


「そなたもそちらに座わりなさい」


「はは……ありがたき幸せ」


 これっていつまでやれば良いのかな?時夫は仕方なく椅子に座って調子を合わせてやる。

 目の色を変える魔法とかあるんだなぁ。

 元の色も綺麗だけど、金色も悪く無いな。

 俺も目の色変えられるかな?オッドアイとか……いや、この歳であんまり中二病なのは流石に……。


 「私がこうして、信仰厚きものの体を借りて直接そなたと話をするのは、他でも無い、

 どうやらそなた達が気付いていないらしいことを教えに来たのよ」


「ほほう。なるほどなるほど!」


 それっぽい顔をしつつも時夫の返事はテケトーである。

 時夫は神様ごっこに付き合うのに早くも飽き始めている。

 

 しかし、大した娯楽も無いこの世界、この微妙な話を終わらせても、ぼんやり本を読むとかしかやる事がない。

 魔法の勉強も独学ではなかなか難しい。ルミィに教わりながら生活魔法は少し使えるようになりつつあるが、本当のところは、もっとかっこいい魔法を習いたかったりする。

 

「この世界のもの達が、異世界から聖女を呼び出す儀式を行ったので、私も手を貸したのだけど……ちょっと手違いがあって……。

 要するに、そなたが巻き込まれてしまった事で……」


「……まあ、大層な手違いでございましょうとも。でも、人間そんなこともありますよ……あ、人間では無いのでしたね」


 もしやコイツは神様のフリをしつつ巻き込んでこっちに連れて来たことを謝るつもりか?

 コイツはどうも下っ端っぽいし、責任を取るべきはもっと上の方のやつだと思っていたからコイツ自身には怒りを感じていなかったが、こんなふざけた事をされると、流石に不愉快だ。


 思わず眉根が寄っていくのを感じる。

 自称アルマがチラチラと時夫の顔色を伺いながら、さらにとんでもない事を言い始めた。


「要するに……聖女の能力は、本来はあちらの少女に持たせるつもりが、巻き込まれたそなた、時田時夫に授けてしまったの。

 ……申し訳ないけど、今後は聖女としてこの世界の為に頑張って貰うわね」


「……………………はあ?」


 時夫はポカンと口を開けた。

 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る