第3話 雑に追放からの回収
「トキタ!起きてください!大変です!」
ルミィがアワアワとした様子で、時夫を起こした。
「う……ん?もう朝か」
時夫はのんびりと欠伸をしつつ起き上がる。
「ルミィ、どうしたんだよ」
寝ぼけ眼のままの時夫をルミィが掴み掛かり、ガクガクと揺さぶる。
「トキタのことを追い出すそうです!」
「は?」
「王室も神殿も聖女様さえいれば良いから、トキタは追い出すそうです!」
時夫のスローライフの夢はこれにて潰えました。
これまで応援いただきありがとうございました。
……じゃない!冗談じゃねえぞ!
「何言ってるんだよ!お前達が勝手に俺を巻き込んでおいて、この世界のこと何も知らないのに!」
思わず立ち上がる。
「お、落ち着いてください!どうどう!」
馬でも宥める様に対応される。
もっと怒ろうかとも思ったが、下手すると10代にも見えなくも無い女の子に流石に怒鳴ったりするのは色々アレだ、と時夫は理性で自分を宥めた。
「私に良い考えがあるのです!」
ルミィはふんぞり返って偉そうだ。
秀でた白い額にデコピンしてやろうか。
「これです!」
ルミィの取り出したるは、ルミィが着ているのと同じローブにしか見えなかった。
……もしや本で見た魔法道具的なアレで凄い魔法で、時夫がめちゃくちゃ強くなって、理不尽を拳で砕く力が得られたりするんだろうか?
「単なるローブに見えるぞ」
「何を言ってるんですか!ちゃんと見てください」
「……よこせ。よく見てみるから」
全体をよく見る。裏返す。洗濯表示は無い。まあ、そう言うのは無い世界なのだろう。
……時夫にはやはり普通のローブに見えた。
「おろしたての新品ですよ!ほら、全然ほつれて無……あいた!」
ルミィにやはりデコピンしておいた。
なんだ?新しいのを手に入れたから朝も早よから自慢しに来たのか?
人を叩き起こして何て迷惑なやつだ。
時夫は二度寝することにした。
何故なら、この世には二度寝することよりも幸せな事など一つも存在しないから。
魔法と奇跡のあるこの世界でも今のところ、その真理には一つのケチも付いていない。
だがしかし、ここにはニつの世界を制する世界一の幸せを得ようとする時夫を、愚かにも止めようとする不届きものが存在したのだった。
「ダメです!何で寝ようとするんですか!
良いですか?あなたはこれから見習い女神官になって貰いますよ!」
「……はあ?」
そう、ルミィは自慢げに作戦を披露した。
――女神官は基本的に顔を見せずにローブを着て、下を向いて過ごすことが多い。
そして、時夫はちと背が低い。
頑張れば性別を偽れるのでは無いかと言っているのだ。この頭いかれ女は。
新しい見習いを雇った体(てい)でルミィが協力するから、神殿に居座れと。
「上手くいくとは思えないが……」
絶対余計に面倒になりそうなので、お断りの気分の時夫だったが、ルミィは必死に時夫を説得してくる。
「生活魔法すら碌に使えないのに、外で生きていけるわけ無いじゃ無いですか!
まずは私があなたに魔法を教えます。きっと他にも協力者を集めます。
それに、神殿には女しか行けない区画があって、今のところ女は私と目の悪いゾフィーラさんしかいません。
ゾフィーラさんは最近耳も悪いし、腰も悪いし、人の名前を間違えるし……とにかく何とかなります!何とかします!
私を信じてください!」
ルミィの青灰色の瞳は真剣そのもので、澄んだ瞳に嘘偽りは無かった。
よし、信じてみよう。
時夫は早速ローブを羽織ってみせた。フードを目深に被って顔を隠す。
「どうだ?」
「うーん……」
なぜかルミィは眉根を寄せて時夫を見つめる。
「何だよ」
「やっぱり新しい方は私が着るので、あなたはお古にしましょう……あいた!」
ふざけた女神官にデコピンの鉄槌を喰らわせた。
まあ、これから世話になることだし、新品は返してやることにした。
ルミィは数着あるローブをじっくりと観察し、一番ほつれが多いやつを時夫に笑顔で手渡して来た。
かなり満足げな笑顔だった。
先行き不安に襲われる時夫。
こんな女に自分の命運を託して良いのだろうか。
「頑張りましょう。女神アルマのご加護がトキタにもあります様に!」
けっして悪いやつでは無いんだけどなぁ……。
時夫はこっそりため息を吐いた。
そして、王室の方から来たとかいう騎士だか兵士だかに時夫は本当に着の身着のまま神殿から追い出された。
やばい。この世界は基本的人権とか知らないのかよ。
そして、予定通りにルミィに回収された。
新米女神官時夫の生活が始まる。
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