ドール・イン・ファンタジー 〜ドール精霊を救う旅へ~

屑野メン弱

第一章 リュミエール剣魔学園編

プロローグ 消滅した街


 その日、精魔大陸せいまたいりく西部に位置するオスクロ公国の一つの街、アンベシルが消滅した。



 ◆◆◆



 アンベシルが消滅する少し前……。


「ハハハ! ハハハハハハ! 遂に! 遂に遂に! この時が来た!」


 低い天井に狭い通路で揺れる蝋燭の灯火、多少の湿気で辺りにはカビの臭いが漂うアンベシルの教会地下。その通路を抜けた先、開けた空間には魔法陣が描かれた祭壇があった。

 神父服を着た男はその祭壇の前で哄笑する。


「アハハハハハハ! 特異十二精霊の一角、闇影あんえい精霊ユノ! お前の魔力を使えばどれほど強力な異世界人が召喚出来るのか! 楽しみで仕方ない!」


 男が話しかけるその先、祭壇の上には一体の人形が拘束されていた。

 丈の長い漆黒のドレスと薄墨色のセミロングの髪によって際立つ金色の瞳。人間の年齢なら十四歳くらいの少女ユノは、その精巧な顔に苦しげな面影を見せ男に抗言する。


「精霊契約も……仮契約すらできないあなたに……私の力がまともに扱えるとは思えない」

「ハハッ残念だったな! 扱うのはこの私ではない! お前の魔力を使い精霊との適正が最も高い者を召喚する! そしてお前を異世界人に魔法で縛り付け異世界人を洗脳する! そうすれば特異精霊の力は我が物だ! アハハハハハハハ!」


 拘束と封印によってユノは苦しむ姿を見せながらも、神父の妄言に対し怒気を帯びた声音で叱咤する。


「貴方たちに異世界人を召喚する資格なんてない! 異世界人だからと言い、自分達の都合の良いように騙し! 兵器や物として扱う……異世界人だって貴方たちと同じ人間なのよ!」

「あれが同じ人間だと? 笑わせるな。それぞれ個体差はあるが、魔法を教えれば詠唱を必要としないものもいれば、本来人族が使うことのできない光や闇魔法を行使する者もいるじゃないか。大体、お前のところの異世界人も魂に関する稀有な魔法を使っていた。その上、特異精霊と契約できる者は世界を探しても片手で数えられるほどしかいないのにというのに、奴は二体もの精霊と契約できた。それのどこが普通の人間なんだ!」


 男が口にしたことに嘘偽りはなかった。ユノは男の発言を否定したかったが、嘗てその身をとある異世界人によって救われたため、異世界人の特異性を認めざるを得なかった。だが救われたからこそ、その異世界人が誰よりも優しかったことを知っていたユノは、彼ら彼女らがただ強い力を持つ存在ではないと言いたかったのだ。

 しかしユノの説得は意味を成さず、男は召喚の準備に取り掛かり詠唱を唱える。


「異界の門よ! 世界の理から外れし愚かなる我が前にその姿を顕せ! 我願うは異端の神エデン! その力を罪人たる我に示せ! サモン・アラグニア!」


 そしてユノの視界は暗転した。



 ◆◆◆



 (情けない……なんて無様なのかしら。特異十二騎士に精霊の森を侵略され、挙げ句の果てに愛理あいり……精霊女王を失い、私たちドール精霊は皆バラバラに…………。愛理……貴方を失った私たちは、これからどう生きていけばいいの……)


 己が過去を悔い、ユノはその想いを巡らせていたその時、一筋の光がユノを照らし召喚された少年がユノの前に顕現する。


 (そう……あなたが……ごめんなさい…………私が捕まったせいで貴方を巻き込んでしまって……人生を奪ってしまって、本当に、ごめんなさい……)


 ユノは既に諦めかけていた。

 特異精霊は、自分たちも制御できないほど強力過ぎる力が原因で、とある封印を施されていた。ただでさえ力が抑えられているユノに、男は加えて封印を施し拘束していたのだ。

 懺悔と謝罪。

 つまり、今の彼女にできることはそれくらい……のはずだった。


 (これは!?)


 少年の異常とまで言える、精霊との相性の高さにユノは驚愕していた。

 嘗て、精霊女王は二体もの精霊と契約してみせた。これは世界において、前代未聞の偉業であった。


 しかし、少年には全ての精霊と契約できる可能性があったのだ。もちろん本人とその精霊次第ではあるが。

 そしてユノは少年との相性の高さに活路を見いだした。


 (あの男は私と少年を縛り付けると言っていた……恐らく魔力的な何かだと思う。意識のない少年と精霊契約は交わせない……そうか! 私と少年が魔法によって結びつくその一瞬で、奴隷契約を交わせば!)


 本来、人間と精霊の間で奴隷契約は不可能であり、何より互いの信頼関係で成り立つ精霊契約があるため奴隷契約その意味を成さない。

 しかし、少年は何もかもが例外だった。

 ユノは少年と奴隷契約が結べることを確信していた。

 その上でユノは現状を打開する作戦を立てた。


 (そうだ……この魔方陣は私の魔力で動かされている。少年と奴隷契約が交わした瞬間、私の全魔力を使い魔方陣を暴走させ、超位級範囲魔法を発動すれば魔方陣ごと破壊できる!)


 だがこの作戦にはひとつ問題があった。

 今回の奴隷契約は、ユノが少年に一方的に隷属する形で行使できるものの、その契約には互いの名前が必須だった。

 そう、ユノは少年の名前を知らなかったのだ。

 故にユノはこの世界の少年の名前を考える。


 (よし、決めた)


 そして神父服の男が、ユノたちを魔法で縛り付けようとしたその瞬間をユノは見逃さなかった。


「世界の理から外れし罪人に与えられし鎖よ! 我が身を縛り、その自由を奪いたまえ! 我、願う名は暗影を司る精霊ユノ! 我が身を与える彼の者の名は『レイ』! 隷属魔法セルウス・コントラト!」


 隷属魔法を成功させたユノは、その後全魔力を使い超位級範囲魔法ブラックホールを発動させた。

 こうして魔法が発動された教会を中心地として、アンベシルは消滅した。


 (レイ……願わくば……貴方とドール精霊たちが…………………いえ、貴方を………………元の……………………………………………) 

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