1 ぶらん、ぶらん


今から2年程前の秋頃、筆者が実家で体験したお話です。




私の部屋というのは完全な個室ではなく、

12畳ほどの広さの部屋を、オーガンジー風の白く透けたカーテンで簡易的に仕切り、半分を妹、もう半分を私という形で共有して使っています。



妹のタンスをカーテンのギリギリまで寄せてもらい、壁というには情けなくも何もないよりは心強い隔たりによって、それなりに快適に過ごしていました。




ただ、このカーテンが少し長く、足元にでろっと垂れているのが邪魔臭かったので、私はベッドの頭側をタンスにくっつけて、カーテンを挟むようにして動かないようしていました。




秋も深まったある日のこと。



その日はとてもよく眠れて、心地よい日差しで目を覚ましました。



まるでサンキャッチャーのように、

太陽の光が揺れるのを綺麗だなと眺めていました。


寝ぼけた頭で、この心地よさに浸っていたいとまどろんでいると、目線の先で白い何かが揺れているのが見えました。




実は、私はとても目が悪く、とくに寝起きは頭がボーッとしているので、しばらくそれが何か分かりませんでした。




私のお腹あたり、そのちょうど真上の天井から白く波打つ布がふわぁと揺れている。

それにあわせて、外から入り込んできた日差しが、屈折して揺れています。



仕切りのカーテンかな、そう思いました。



しかし、意識がはっきりしていくうちに

あることに気がつきました。



今、ベッドで仰向けに寝ているのだから、

先ほど書いた通り、カーテンはベッドの縁と

タンスに挟まれているはずで、視界に入るはずがありません。




では、あれは一体。


白い布を確かめようと状態を動かそうとして、私はその時になり初めて自分が金縛りにあっていることを知りました。



さーっと血の気が引いて冴えてきた頭。


眼鏡がなくぼやけた景色の中、相変わらず揺れ続けている白い布を、動かせない頭のせいで意味もなく眺め続けていると、

幸か不幸か、視力が悪くともそれがただの布でないことが分かりました。



白い布の中に、2つの青白く丸い何かがあって、それが、ぶらん、ぶらん、と揺れているのです。



ぶらん、ぶらん。



前後に揺れるそれがはっきりと見え始めたとき、私はあることに気がつき戦慄しました。



私の目が慣れたから、布の中身が見えたのではなく、それがゆっくりと天井から降りてきて、近づいているから見え始めたことに。



そして、

布の中で

ぶらん、ぶらん、とゆれる

2つの青白い玉の正体が

女性のかかとであることに。





ぶらん、ぶらん



天井からぶら下がっているのは、白い布なんかではなかったんです。



それは、ぐったりと首を曲げ、だらりと両腕をおろした、白いワンピースをまとった女性でした。



止めて!来ないで!


そう叫ぼうとしても声がでない。


その間も女性の両足は揺れて、こちらに近づいている。


モザイクのようなもやがかかった顔は、こちらをみているのかも分からず、それがなお恐怖心をあおりました。


身をよじってとなりの部屋で寝ている妹に助けを求めますが、タンスのせいで私の姿は妹に見えません。



追い詰められたせいか、私は何故か冷静になってしまいました。



あ、これは夢だ!

こんなことが現実な訳がない。

寝て醒めたら消えてる。



私は震える目蓋をなんとか閉じて、

無理矢理にでも眠ろうとしました。



これは夢だと言い聞かせて。



1、2、3…



呼吸が落ち着き、震えが止まったのを感じて私は目を開きました。




ぶらん!



先程よりも近く、眼前に迫った

細く華奢な女の足の指が鼻をかすめ、

私は耐えきれず叫びながら跳ね起きました。




息を荒げ、周りを見渡しますが、

天井には何もありません。




その後すぐにベッドの位置をかえたところ、

その女が現れることはありませんでした。




彼女が何者なのか、分からずじまいです。

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