第21話 イベントの多い学校

一年四組の教室に行くと、教室でもみんなの話題は校内に貼られた張り紙についてだった。


 そんな中、閏の元に御式美也とことりと市ヶ谷優太がやってきた。


「時十さん、課外授業の話を聞きましたか?」


「いえ、まだなんのことかさっぱり……」


 閏の隣にはいつも通り、ユナと麦虎がいる。御式美也の隣にもことりと優太がついていた。


「数年に一回の大チャンス! 先生たちが卒業試験に関するヒントをくれるんだよ!」


 優太の話だとこの課外授業は毎年行われているわけでもないらしい。


「卒業試験のヒントですか?」


 優太は村上という少年を助け出してから元気さが数倍増したような気がする。


「完全に教頭の気まぐれで開催されるのよ。毎年、卒業試験は難問続き。去年も卒業できたのはわずか六名だったという噂よ。卒業試験は五回までしか受けられないからみんなこの課題のチャンスに懸けているの」


 どうやらみんなの話題は『世界の果てへようこそ』というタイトルよりも内容の課題の方で盛り上がっているらしい。


「ねぇねぇ、みんなは『見ると死ぬ部屋』の噂は覚えてる?」


 ユナが聞くとみんな一様に首を傾げた。


「なんだその不気味な部屋」

「学園の七不思議にありそうですね」

「あっても確かめたくない内容よね」


 これは、ここの三人も見事に情報が書き換えられているんだろう。


「じゃあ、ユナの正体は?」

「「「『ガフの部屋』」」」


 ユナの質問に今度は全員答えられた。つまり、他の記憶にまで精神汚染の影響は及んでいないということだ。


『人間族は軒並み精神汚染にかかっておるな。まぁ魂の汚染は不可能だから味方が敵になることも、また逆も起こりえないとしても、厄介なことだ』


 麦虎の言う通り、魂の汚染はどんな凄腕ハッカーでも不可能だ。優太も美也もことりも、情報は書き換えられているが、根っことなる行動理念は変化していない。


 つまり、人間は自分で考え、納得済みの行動しか起こさず、自分の考えと違う行動を取ったことを納得させようとしても、それはありえないと看破されてしまえば精神汚染も自動的に解除されてしまう。魂という根幹の汚染は不可能ということだ。


「一応、伝えておくけど、昨日まで優太たちは『世界の果て』の噂を『見ると死ぬ部屋』の噂に書き換えられていたぞ」


「はぁ!? なんだそれ!?」


 確かになぜこのタイミングで元の状態に戻したのかわからない。しかし、考え込んでいると、眉間にしわを寄せた志島久志が閏の前にやってきた。


「時十、てめぇ随分とはしゃいでるじゃねぇか。昨日で勝った気になってるんじゃねぇだろうな」


「あら、志島さん。時十さんは勝った気になっていませんよ。勝ったのは優太さんですから」


 志島の顔は明らかに歪んだ。


「生意気な女だ。市ヶ谷、てめぇ教師が後ろ盾についたら大物気取りか?」


 ぐっと拳を握りしめる優太は、忠國をあてにしてるわけじゃないだろうに言い返さない。


(異空間に迷い込んだってことは、優太にも迷いがあるってことだよな)


「ほら脳三、出番よ。志島を粛清しなさい」


 いつの間にかチラシを持って閏の後ろに立っていた忠國は優太の背中に隠れた。


「い、いやだ。人間の悪意には報復が待っている。悪魔はいいぞう。全て忘れて魔界に帰る」


「こいつが後ろ盾になれるわけないじゃない!」


 誰も忠國をあてにはしていないが、志島とは一度話をつけないといけないだろう。


 しかし、それは志島も同じ気持ちのようだ。今朝から学園中に貼り出されている張り紙を持ち出すと閏の眼前に突きつけた。


「時十、課外授業で勝負しようぜ。アイテムを手に入れたもん勝ちだ。シンプルでいいだろ」


 今朝から何度も見たチラシ。ポップなイラストにはダイヤモンドみたいな大きめの宝石が描かれている。文言には【世界の果てへようこそ! 世界の果てへ繋がるアイテムを探し出せ! 幻の大秘宝ケツァルコアトルの卵がチェックポイントのどこかに隠されています。課外授業の参加者は教師に申し出てください】と書かれていた。


「ふおおおおおお! それだ! 私はそれを言いに来たのだ! 行くぞ生徒たち! ケツァルコアトルの卵をゲットするのだ!」


 忠國はやる気満々だが、閏には首を傾げたい話だ。


「先生、俺には魔導具の回収という使命があるのですが」


「何を言うか! その問題もケツァルコアトルの卵があれば解決だ! なにせこのアイテムは上位悪魔を召喚するための卵なのだ! その悪魔は未来視すらできると言われている知恵の悪魔でな! 魔女がどこにいるのか、ブービートラップはどこか、という質問にも答えてくれる」


 本来は卒業試験のヒントを聞くためらしい。これには閏もユナも目を輝かせた。


「志島さん、お受けしましょう」


「ユナたちが優勝したら、もう閏につっかからないでよ!」


 口元を上げた志島は上から閏を見下ろすと瞳を光らせた。


「いいぜ。アイテムゲットしたら、お互いに相手を好きにしていい。それでいいよな?」


 こちらのチームには女子もいるし、それは如何なものか。だが、


「いいわ。やってやろうじゃない。美也に土下座して謝らせてやるわ」


「うふふ、ことりちゃんがそう仰るのなら、本気でやってやりましょう」


 女子たちの方がやる気満々で応じてしまった。


 志島は鼻を鳴らして去っていく。


「いいのか? 正直、戦力として期待できるのは脳三先生くらいだぞ。ことりは射撃の正確性に問題がある。目の良い補佐をつけるか、召喚獣自体との精神ネットワーク共有を高め、魔力を上げて成長させる必要がある」


 閏自身も戦力として十分な力を発揮できていないと告げると、ことりと美也と優太は俯いた。


「……わかってるわよ」


「オレも、全然。召喚獣との繋がり弱くて、成長出来てねぇんだわ……」


 召喚獣は人間族との繋がりが深まると本来の力を出しやすくなる。


 お互いに信頼できると心に一歩踏み込めば、ブレーキが解除されて召喚獣の成長に繋がるのだ。ただし、本当に信頼されていないと術者の手を離れて召喚獣は暴れだしてしまうため、心の繋がりはやみくもに繋げばいいというわけではない。


「……わたくしは、未だに他の子を呼び出せないでいます。あの子に会えたら、ちゃんとさよならを言えたら、自信もつくと思ったのですけど……」


 美也に至っては呼び出せる召喚獣がいない。しかし、果てしないポンコツは他にいる。


「大丈夫だよ~! ユナなんて一発撃ったら用無し! 閏の下半身しか慰められないもん♪」


「貴様は空を飛べるんだから索敵と女子の壁だ。いざというときは何度でもその無駄な体に穴をあけろ」


「あまりにもひどいぃいいい!」


 おそらく麦虎も魔力が回復すれば空を飛べるだろう。閏は自分自身の成長が必要である。


 そもそも魔人の特技である進化の能力すら今はまだ使えない。空を飛ぶのはまだまだ先の話だ。




☆☆☆

今度は課外授業に参加するようです(*'ω'*)


そろそろみなさまの志島へのヘイトも溜まって来たでしょうか('ω')


そろそろざまぁか? ざまぁなのか??



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