狂気

@jthbc2006

第1話


古びた洋館の中、鈍い月光が差し込む窓辺に、主人公の田中一郎は座っていた。彼の顔には疲れと不安が滲み出ており、その目はどこか遠くを見つめているようだった。壁にかけられた時計が、深夜の2時を知らせると、一郎はようやく動き出した。


「この館には、何かがいる…」そう呟いた彼の言葉は、静寂に包まれた部屋に吸い込まれて消えた。


数日前、一郎はこの館に足を踏み入れた。祖父の遺品を整理するためだったが、館に入った途端、彼の心には奇妙な違和感が生じた。空気が重く、古い木材の匂いが鼻をつく。さらに、不思議な音が彼の耳に響いてきたのだ。最初は風の音かと思ったが、それは次第に人の囁き声に変わっていった。


「お前はここに来るべきではなかった…」


その夜、一郎は寝室で眠れずにいた。暗闇の中、彼の頭の中には無数の声が響き渡り、冷たい汗が額から流れ落ちた。目を閉じるたびに、彼の視界には見知らぬ人々の顔が浮かび上がり、彼を睨みつけた。彼らは皆、同じことを囁いていた。


「ここから逃げろ…さもないと狂気に飲み込まれるぞ…」


翌朝、一郎は決意した。この館に何が潜んでいるのかを突き止めなければならない。祖父の死の真相を知るためには、どうしてもこの謎を解かねばならないと感じたのだ。彼は手始めに、館の古い書庫を調べることにした。


埃まみれの書庫には、古い書物や日記が山積みになっていた。その中の一冊に、彼の目は釘付けになった。それは祖父の日記だった。ページをめくるごとに、祖父の狂気じみた記述が浮かび上がってきた。祖父もまた、この館で何かに囚われていたのだ。


「狂気とは、我々の内に潜む最も恐ろしい敵である…」


田中一郎は深く息を吸い込んだ。彼は祖父と同じ道を歩むのか、それともこの館の呪縛から解放されるのか。決意を新たに、彼は館の奥深くへと足を踏み入れた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

狂気 @jthbc2006

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る