城塞都市の恋歌
アールグレイ
第1話
朝日に照らされたアストルムは、まるで宝石箱のようだった。
尖塔が空に伸び、色とりどりの屋根が太陽の光を反射している。石畳の通りには、魔力を帯びた街灯がまだ淡く光を灯し、人々が朝の支度を始めている。パン屋の店先からは焼きたてのパンの香りが漂い、市場では商人が威勢の良い掛け声と共に新鮮な果物や野菜を並べ始めている。
「んんー……」
ベッドの上で伸びをした私は、ゆっくりと目を開けた。セレスティーヌ、魔法学校に通う十七歳の少女。窓の外に広がる美しい街並みを眺めながら、今日も一日が始まる。
身支度を整え、箒にまたがると、私は空へと舞い上がった。
眼下には、アストルムの街並みが広がっている。活気ある市場では、色とりどりの商品が所狭しと並べられ、商人たちの威勢の良い声が響き渡る。荘厳な大聖堂からは、朝の祈りの鐘の音が聞こえてくる。緑豊かな公園では、子供たちが楽しそうに遊んでいる。全てが魔法の光に包まれ、まるで絵画のように美しい。
私は箒を操り、魔法学校へと向かう。風を切る音と、鳥たちのさえずりが心地よい。この平和な日常が永遠に続けばいいのに……。
そんなことを考えながら、私は学校へと降り立った。
魔王軍の侵攻? そんなものは、遠い国の出来事に過ぎない。この美しいアストルムが、あの醜悪な魔物たちに蹂躙されることなど、想像すらできなかった。
*
燃え盛る炎が、夜空を赤く染める。
私の村は、地獄絵図と化していた。
かつては穏やかだった村は、今や魔王軍の魔物たちによって蹂躙されている。家々は破壊され、人々の悲鳴が響き渡る。泣き叫ぶ子供、助けを求めて手を伸ばす老人、そして、抵抗むなしく倒れていく若者たち。
私は、恐怖で身を震わせながら、物陰に隠れていた。
目の前で、一生懸命育ててきた家畜が、いつか一緒に街へ行こうねと誓い合った友人が、愛する家族が、次々と魔物たちに襲われ命を落としていく。助けを求める声も、虚しく空に消えていく。
「なぜ……なぜこんなことに……」
私は、涙を流しながら、祈ることしかできなかった。神様、どうか、この悪夢から目覚めさせてください……。
しかし、現実は残酷だった。逃げ惑う人々、崩れ落ちる家々、そして、容赦なく襲い来る魔物たち。その光景は、まさに悪夢としか言いようがなかった。
「誰か……誰か助けて!」
私は必死に叫んだ。だが、誰も答えてはくれなかった。みんな自分のことで精一杯なのだ。
「……どうしてこんなことに……」
私は、自分の無力さを呪った。そして、この悪夢から目覚めることを願った。しかし、その祈りが届くことはなかった。
やがて夜が明けた頃、村は静寂に包まれていた。魔物たちはすでに立ち去り、残されたのは死体と血に染まった大地だけだった。
「あ、う……」
私は、醜悪な顔をしたゴブリンに捕らえられて、夜通し欲望の捌け口にされていた。
(もう、どうでもいいや)
私は、絶望に打ちひしがれながら、静かに目を閉じた。
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