怪物観察記録
茶々
怪物観察記録
俺の家には怪物がいる。飼う義務があるだとかで押し付けられた。良い迷惑だ。生産性がなく汚ならしい、下等で卑しい生命体。触れたくもない。しかし、観察をすることも義務らしい。仕方がないが観察し記録をつけていこう。
今回は記録の一部だけを公開するものとする。
10:07pm
素手で触れたくないので蹴る。反応するが態度が気にくわない。もう一度蹴る。蹴ったら下品な音が鳴った。変色する。汚ならしい色に、
い………………
ぃた………
ま…………ま、……………、
10:01pm
ある程度人間の言葉らしいものを発声出来るようだ。たどたどしく幼稚で、神経を逆撫でする声で。
『ママ』
「やめろ。」
『ママ…!』
「耳でも腐ってるのか。やめろ。」
『ママ、ママ、ママ、ママ、ママ、ママ、ママママママママ!!!!』
9:41pm
気でも狂ったのか、同一単語を繰り返し発声している。気…?こいつにそんな高度な感覚があったのか。データとしてまとめなければ。
煩い。ママとは自身を出産した女のことをいうだろう。こいつは馬鹿なのか。俺は女ではない。
「煩い」
9:44pm
いつも通り殴ろうとした。拳を振り上げたら既に怯えており、震えている。情けを期待しているかの様な目。気にくわない。
9:47pm
殴った。大声を出し泣いている。煩い。一丁前に人の様に痛がる。怪物のくせに。
『マ……ぁ…………ァア…マ……』
「黙れ、なぁ黙れっつてんだろ。」
『まぁあぁぁああぁあまぁあ』
9:53pm
泣き喚き出した。煩い。飼い主に逆らう。生産性がなければ知能もない。
『ごはん……ママ…ごはん…』
10:21am
飯をくれと言い出した。怪物のくせに偉そうに主人に指図する。利口にしていれば与えてやる気もあったがそれも失せた。食事を与ない実験ということにしよう。
10:23am
催促し出した。こいつはどこまで図々しい?何故飼い主に逆らう?怪物のくせに人様の様に欲を出す。醜い。
『まま………ま…、ま……ま』
2:25pm
こいつはまた俺のことをママと呼ぶ。一体どこで覚えてきたんだ?
──ママとして甘えさせてみよう。
2:27pm
怯えて、どこか期待しているような情けない顔で俺を見上げている。これは少し気分がいい。手をあげてみる。 怯えて縮んだ。心地好い。頭を撫でてみると、びくと身体を震わせ、されるがままになっているが満更でもなさそうだ。服従。
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撫で終わった後は少し物寂しそうな顔をしていた。
怪物は初めてヒトに撫でられた。愛のない手で。しかしヒトの体温は暖かかった。怪物よりも。
怪物はヒトを見る度に怯えることは治らなかったが、何か期待しているようだった。
嗚呼憐れな怪物。ヒトの一時の気紛れを未来にまで求める子。馬鹿な子、愛しい子。あのヒトが、お前を撫でたのは、愛からなんかじゃあないのに。お前はヒトに愛を求めるのだね。見返りのない愛。お前はヒトに何もあげられない。ヒトもお前に何もあげない。嗚呼、見返りのない愛。真実の愛。お前はそれが欲しいのだろう。当たり前のものとして、過不足なく過剰に。お辞めよ怪物。あのヒトにそれを求めちゃいけない。あのヒトは君に愛なんてくれないよ。怪物。怪物よ。愛なんてね、お前のような怪物にはあげないんだよ。
怪物観察記録 茶々 @kanatorisenkou
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