キル・ユー~殺人鬼、異世界に転生する~
まんじ
正義の殺人
――とある山奥にある村落。
「おや、見つかってしまいましたか」
日が暮れ、人気のない村落で気配を殺しながら5人程始末した所で、村の者に私は見つかってしまいます。
「くっ……テメー何もんだ!」
「貴方がた山賊を殺す者ですよ」
この村落は山賊が作り上げた住処です。
私はとある人物の依頼で、この村に住む山賊達を成敗しに来た正義の味方……と言った所でしょうか。
まあ正義にどころか、心根は悪人側ですがね。
なにせ私、人を殺すのが大好きですから。
「ふざけやがって!敵襲だ!」
髭面の大男が叫びます。
それに呼応し、深夜の静けさを破って周囲の家屋から見るからにガラの悪そうな連中が飛び出してきました。
深夜遅くではありましたが、流石日の下を大手を振って歩けない家業の方々です。
こういう危機的状況を想定して普段から訓練でもしているのでしょう。
「誰の差し金か知らねーが。テメーはここで終わりだ」
私を発見した男が、腰巻の背中部分から刃物を取りだし、その刃の部分を下で舐めます。
漫画やドラマなどでよく三下の悪人がやる行動ですが、異世界でもこの手の行動は共通の様ですね。
あ、申し遅れましたが、私の名は
そしてここは魔物がおり、スキルや魔法、レベルのある世界。
いわゆる異世界であり、私は日本からの転生者になっております。
「私としては、一人一人楽しみながら殺したかったんですが……まあ仕方ないですね。
次々と姿を現す盗賊たちに向かって、私はスキルを発動させます。
ああ、これは攻撃スキルではありませんよ。
物事の善悪や、他者の嘘を暴くための判定スキルです。
転生前の私は日本人です。
人を殺して快楽を得る異常者ではありますが、それでも教育によって最低限の良心という物を植え付けられています。
ですので、私は基本的に殺すのは悪人だけと決めていました。
そうでないと、後味が悪くなってしまいますからね。
そうなると折角の楽しい殺人の余韻が台無しです。
ですから私は悪人しか殺しません。
だからこそ私はこのスキルを発動させたので。
山賊達の善悪を測るために。
山賊は測るまでも無く悪?
まあ世間一般の感覚ならばそうでしょう。
人を殺して物を奪うのが彼らの生態な訳ですから。
ですが中には例外なんかもいるものです。
例えば子供の頃に山賊に攫われ、そのまま山賊として育てられた、とかね。
その場合、その子は山賊としての生き方しか知りません。
果たして、教えられたとおりに生きているだけの存在を悪と断じてもいいのでしょうか?
私はそれを悪だとは判断しません。
だからそう言う人物にはチャンスを与えます。
人生をやり直すチャンスを。
ま、今まで出会った事はありませんが……
そういう境遇に近い人間はいても、山賊として同族を喰らう事になれた人間は自然と性根も腐っていく物ですからね。
朱に交われば赤という奴です。
だったら意味はない?
そんな事はありませんよ。
0に近いとはいえ、誤って善人を殺すリスクが消え、心置きなく相手を殺せるようになるというとても大きなメリットが生まれますので。
やはり殺しは楽しくないといけません。
「おや……おやおや……」
私を囲む山賊の数は総勢20名ほど。
騎士や腕利きの冒険者ならともかく、山賊程度数が集まった所で私の敵ではありません。
私がおやおや言ったのは、その中に居たからです。
そう、先ほど説明した例外。
悪ではない山賊が。
年のころは15、6歳と言った所でしょうか。
ボサボサ頭に鋭い目をした若者で、ぱっと見はとても善人には見せませんが、私のスキルによって発動した天秤は間違いなく善側に傾いていました。
「しねやぁ!」
その時、山賊の一人が私に飛び掛かって来ました。
囲んでおいて単独で突っ込んで来る意味が分かりません。
山賊稼業だけではなく、一応魔物との生存競争も生き抜いてる者にしては余りにもお粗末な行動と言わざる得ません。
まあ私はあまり強そうな見た目をしていないので、自分一人でも行けると考えてしまったのでしょうね。
こんな所に一人で襲撃を仕掛ける人間が、弱い訳などないというのに。
やはり人を見た目で判断するのは愚かな事だと、その飛び掛かって来た山賊の首を刎ねながら私は考えます。
「……」
地面に転がった男の顔が、驚愕に目を見開きます。
こと切れる直前に、きっと自身の愚かさを呪った事でしょう。
ああ、最高です……
絶望の中、散って行く命を堪能し、私は舌なめずりしました。
私はお酒を飲めませんが、きっと飲めたならこの光景を
まあ囲まれているので、例え飲めたとしてもしませんがね。
ふふ。
「て、テメェ!」
「くそ!こいつやべぇぞ!皆まとめて書かれ!!」
仲間の一人の首が飛び、自分達が実は危機的状況にあると気づいた様で。
今度は大勢いが一斉にかかってきます。
「やれやれ、こういう乱戦は好きじゃないんですがね」
私は手にしたナイフで山賊どもの首を手あたり次第跳ねます。
こういう戦いになると殺した相手のこと切れる瞬間を堪能できないので、私としては旨味が半減してしまいます。
まあ彼らと私には結構な実力差があるので、無力化したうえで一人一人殺していくという手もあるのですが……まあ一応は正義を執行するという大義名分の依頼を受けてこの場にいるので、そういう悪人然とした行動は好ましくありません。
私にも矜持っぽい物がありますので、ここはぐっと我慢して、乱雑に殺しを楽しむ事にしましょう。
「ひ、ひぃぃ……」
8割ほど殺した所で、数人が私に背を向けて逃げ出します。
当然逃がしはしません。
私は特殊スキルである
心の中で、ありがとうと感謝しながら。
逃げ出してくれたお陰で、乱戦では確認し辛い彼らの死に様をしっかりこの目に納められる様になった訳ですからね。
ああ、言っておきますが……これは痛めつけてではなく、逃がさない様足を潰して一人ずつ殺すだけですから。
「た、助けてくれ!」
「お断りします」
「嫌だぁ!死にたくない!」
「諦めてください」
泣き叫び、命乞いする山賊達の命を笑顔で刈り取りながら私は至福の時間に浸ります。
こういった散り際の醜態もまた、私に生の終わりを感じさせてくれる最高のファクターです。
なので彼らには、本当に感謝しかありません。
「さて……」
襲い掛かって来た山賊は全部始末しました。
一人を除き。
もちろん殺さなかったのは善人判定の若い山賊です。
彼は首を刎ねず、腹部に蹴りを入れて気絶させておきました。
「残りも始末するしましょうか」
ここは山賊の村ですが、住んで居るのは山賊だけではありません。
こういう輩は女性を攫ったりするものです。
そしてその女生との間に子を設けたりもします。
なので、この村には女子供もいました。
その人たちも殺すのか?
もちろん殺します。
天秤が悪に傾いているのならば。
攫われた女性は純粋な被害者です。
ですが被害者イコール善という訳でもありません。
例えば山賊村での生活に順応し、上手くのし上がってそれ以外の被害者を迫害する者なんかは間違いなく悪です。
もしくは、元々とんでもない悪人だった女が攫われた場合などですね。
そして私の天秤は、数名の女性と子供を悪とみなしていました。
まあ子供は流石に手をかけるつもりはありませんが、女性は話が別です。
山賊の手助けをしていたとでも報告すれば、依頼主も納得してくれる事でしょう。
彼らも私のジャッジメントの効果や、嗜好は知っていますしね。
「な、何だいアンタ!皆はどうしたんだい!!」
殺さなかった青年は縛っておき、まずは手近な家へと入ります。
そこには刃物を持った気の強そうな女性と、そして床には傷だらけで放心状態の女性が転がされていました。
縛ったり鞭の跡があるので、山賊に酷い目に合わされていた事が一目でわかります。
いや、山賊だけとは限りませんね。
刃物を持った女の頭上の天秤は悪を指していました。
なので、この女も
まあ何にせよ――
「ただの人殺しですよ。貴方もここで相当やらかしていた様ですね。山賊の一味とみなして処分しますね」
「ふ、ふざけんじゃないよ!」
私の言葉に、女性が手にした刃物を向けます。
但しその対象は此方ではなく、床に転がっている女性へとでした。
彼女は女性の髪を掴み、そしてその首筋に刃物を当てます。
「動いたらこの女をころ――」
ですが私に脅しは通用しません。
彼女が言葉を言い終えるよりも早く、私はその胸にナイフを突き込みました。
「あ、あぁ……」
ひょっとしたこの女性も、自分が生きるために必死だっただけなのかもしれません。
その中で魂が汚れ、悪に染まってしまった。
そう考えると同情の余地はあるのかもしれませんが、それは私が気にする様な事ではありません。
この女は私から見て悪で。
そして私は人殺しが大好き。
その結果こうなっただけです。
「ごちそうさまでした。命という、とても素晴らしいプレゼントをありがとう」
私はその場に崩れ落ち、死にゆく彼女に感謝の言葉をかけました。
これは嫌味ではなく、純粋な私の気持ちです。
その後私は残りの悪人を始末していき。
終わった所で、最近贔屓頂いている依頼主へとスキルで連絡を入れました。
依頼主は反帝国組織スティグマ。
その北部支部の統括者であるセライナという女性です。
彼らは腐りきった現在の帝国を革命する事を目的としていますが、まあ私から見た限り難しいと言わざる得ません。
なにせ山賊の討伐ごときに、外部の人間である私を頼っている始末なのですから。
組織としては虚弱極まりない。
ま、それは私が気にする様な事ではありませんが。
私としては、彼らが持って来る悪人の情報さえ確かなら、それ以外はどうでもいい事ですので。
「さて、では私はこれで失礼させて頂きましょうか」
救助者や子供のケアに付き合うつもりも興味もありませんので、仕事を終えた私はさっさとその場を後にしました。
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