僕は勇者の殺し方を知っている。
飛翔
第一部 『僕らの復讐劇』
気配
『勇者様だ!!勇者様がやって来たぞ!!』
アントニウス歴1765年12月。
雪がシトシトと降る白銀の世界にある僕らの村に、勇者がやって来た。
『勇者様!!握手してください!!』
『俺も!!俺も握手をお願いします!!』
『私も!!』
『僕も!!』
そんな中、この僕エミールは勇者に群がる群衆の多さと夏の火に群がる虫の多さの共通点を見出していた。
つまり、どちらもなんか多そうな方に群がっているだけにすぎない、と僕の人生哲学が言うのだ。
もちろん、実際のところはそんなに単純ではないと分かっている。
だが、それでもむさ苦しいことは明らかだった。
ーくだらない。
そう思いながら、僕は家に帰り、冬祭りの屋台の準備をすることにした。
(……………………)
僕が家に着くやいなや、僕は休む間もなく、親が出すポテトフライの屋台の手伝いをすることになった。
だが、不思議とそこまで嫌な感じはしなかった。
何故なら、その屋台の設営をはじめとするこれらの作業がそれなりに楽しく、また今のこの生活は、1週間前までの10キロ弱先の高等学校に徒歩で毎日通う生活に比べて、幾分か楽であったからだ。
(……………………)
そして、夕方になり作業は終わったので、僕は用事があるからと親に伝えて、外の白銀の世界に出ることにした。
外に出てまず感じられたのは、吐く息は降りしきる雪のように真っ白で、背筋は当然のように凍るような異常な寒さだ。
まあ、慣れたことだな。
というのも、僕が生まれてこの方、ずっとこの寒い村にいたからな。
しかし、親いわく、どうやら25年前まではここまで寒くなく、むしろこの王国の中でもかなり温暖な方だったらしい。
まあ、この王国がそもそも寒すぎるってのもあるが…
今の状況から考えると、信じられないことだった。
まあ…でも。
そんな"寒さごとき"を気にしている弱者は、この世界では生きていけない。
何故なら、この世界は人間の居住区をでればすぐに…
『ギュピぃ゙ぃ゙ぃ゙ぃ゙ぃ゙ぃ゙!!!!!』
魔物に遭遇するからだ。
そして、この村を出て、とある大切な人とオーロラを見に行こうとした僕の前にも当然のように鳥型の魔物が出てきた。
その魔物は威勢だけは良く、僕に向かって大声を上げて威嚇してきた。
しかし、僕が自衛のために普段から持ち歩いている剣を空に振るうと、少しその魔物は怖気づき、後ろにのけぞった。
『僕は今からデートに行くんだ。それに、僕は屋台の設営で疲れてるんだ。邪魔しないでくれるかな…?』
『ギュピ…!』
『ギュピぃ゙ぃ゙ぃ゙ぃ゙ぃ゙ぃ゙ぃ゙ぃ゙ぃ゙ぃ゙!!!!!!』
その鳥型の魔物は僕の目の前に向かって、猪突猛進の構えで突っ込んできた。
まあ、仕方ないか。
低級魔族ごときに言葉は通じるわけないか。
『じゃあ、死ね』
僕はそう言って、学校に行くときと同じように、慣れた手さばきで魔物の翼を切り刻んだ。
魔物は泣き叫び、逃げようとした。
そして、そのタイミングで、僕は空高く飛んだ。
『逃さねえよ』
僕は魔物の脳天を剣でぶっ刺した。
そしてもちろん、魔物は即死した。
(……………)
その後、僕は特になんの苦労もすることなく、オーロラのよく見える海辺の灯台にやって来た。
すると、人影が見えた。
恐らく、僕の恋人であるマーシャだろうと思っていたが、僕が声をかける前に、相手が先に声をかけてくれた。
『や。エミール!久しぶり!!』
『久しぶり。マーシャ。相変わらず君は綺麗だね』
『そうかな?へへ。嬉しいな』
僕は微笑んでいるマーシャにウインクをした。
だけど、そのウインクがちょっとおかしかったみたいで、マーシャの顔に笑みがこぼれる。
そして、そんな僕らは互いにこれからのことを話した。
結婚のことだったり、王国の兵士として首都に行くか、それとも村に残るかどうかだったり…
とにかく、こんな寒さなんて忘れるぐらいに僕らは話した。
そして、気づけば時間は深夜0時になっていた。
(………………)
僕らは帰路についた。
暗闇から突然出てくるであろう魔物に注意を払いながら。
まあ、僕もマーシャもこんな危険な道を通って五体満足で学校に通学できてる時点で、村の中ではダントツの実力者なのは確かなんだが…
それでも、暗闇の中ではどこから魔物が出てくるか余計わからない。
だから、常に細心の注意を払わなければ……
『キサマァ…ミタナ…?』
…??
声がした…?
アレが…
アレが声の主か?
あいつは…ヤバいな。
ヤバいどころの話じゃない。
身体の震えが止まらない。
これから僕らがアレに殺されることを考えると、吐き気もしてきた。
なんでこんなとこにいるんだよ。
アレはズルだろ!完全に超上級魔族じゃねえか…!!?クソっ!!!
『エミール…あれ、何?…まさか。なんでこんなとこにいるの?…低級魔族だよね?』
…違う。
あれは低級魔族なんかじゃない。
もっと恐ろしくて、もっと禍々しい…
そんな生命体だ。
いや、違う。
奴はもはや、生命体ではない。
アレは恐怖そのものだ。
何故なら、アレの正体は世界で最も強い魔族…!
魔王以外にないからだ。
『…マーシャ。僕を置いて逃げろ』
『嫌だ』
『はやく』
『エミールが死ぬなら…!私も一緒に!』
まずい、意識が…
『オワリダ。ニンゲン』
まずい、来る…!!
奴の黒魔術が…!!
『厄災ヨ来タレ』
まずい!死ぬ!!
『"リ・テンペスト"』
まだ!!
まだマーシャを逃がせてないのに!!!
いや…!!まだだ!!!
『"転移魔法"…!!!命令する!!マーシャを!!村に飛ばせ!!!』
そして、辺りに眩い光が満ち、マーシャはいなくなっていた。
…マーシャは村に転移されたのか…?
良かった。良かったァ…!!
どうか、マーシャ。
幸せに…な?
…こうして、安堵しながら僕の意識は闇に落ちた。
(…………………)
『起きたかい?少年』
優しい声がしたから、目を覚ました。
その男の声はまるで全てを包み込むような…
いや、そんなことはどうでも良い。
『貴方は閻魔大王か死神か何かですか…?僕は天国に行きたいのです…が………?』
『なんで?どうして??僕は死んだはずじゃ…』
『死んでないよ。もう魔王は僕が黒魔術を防いだのを見たら帰っていったからね。…それに、気づいたかい?初めましてじゃないよね』
『貴方は…まさか』
『そう。そのまさかさ!改めて自己紹介しようか』
『僕の名前はラングルド・ハーヴェスト。この世界では勇者と呼ばれている者だよ』
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