夢日記

@uonoragon_daisuki

夢日記ー継承者 (4月28日)

切り立った断崖の下で、我々は曇り空が碧く光るのを見た。眼前に広がる海の、波がざぶんと音を立てる。司祭と名乗る老いた男が、「天のお告げだ」と小さくつぶやいたのが聞こえた。

 「ラオフェン、例のものを持ってきなさい。」司祭はそばにいた少女に言う。「はい。」と澄んだ声で少女は返事をすると、どこかへと駆けていった。

 彼女が走り去る姿を見届けると、司祭は我々の方に向き直り跪いた。

「お待たせしました。継承者さま。たった今、天があなた様方を継承者だと承認されました。これより、継承の石板をお渡しさせていただきたく存じます。」

 司祭は深々と頭を下げる。生ぬるい風がわたしの背を撫でていた。

「いや、わたしたちはその継承者というものではない。通りすがりの旅人だ。」

わたしは司祭にそう告げた。仲間たちもわたしの言葉に頷く。本当に、我々は旅をしている最中なのだ。

 しかし、司祭の意思は固かった。

「いえ、あなた様方が継承者であると天が認めたのです。今、空が碧く光るのをご覧になったでしょう。あれは天の意思の表れです。どうか、これをお受け取りください。」

 いつの間にか、ラオフェンと呼ばれた少女が戻ってきていた。黄色を基調とした装束に身を包み、髪を頭のてっぺんで丸く結っている。少女は布に包まれた板のような何かを、わたしたちに捧げながら跪いた。

「継承者さま。お受け取りください。」

 可憐な声もまたそう言う。わたしたちはお互いに顔を見合わせた。そもそも、彼らの言う継承者とは何なのか、なぜ我々がそれに選ばれたのか、石板を受け取った場合何が起こるのか、何もわからないのである。気づくと、雨が降り出していた。

「さあ、継承者さま。」

 無垢な目に見上げられ、ついに私はその石板に手を伸ばしてしまう。石板と呼ばれたものは複数枚あるようだ。何枚もあるそれを先ほどと変わらぬ体制で捧げている少女が、少し不憫に思えた。

 右手を少女の方に伸ばし、石板を手に取る。ずっしりとした石の板だ。表面には何か文字が刻まれているが、異国の文字だからかわたしには読めなかった。わたしがそれを両手で持つと、刻まれている文字が紫色に光る。その次の瞬間、雨空も紫色に光ったのだ。我々の体が紫色に包まれる。数秒間光ったのち、空は光るのをやめた。

 わたしに続いて、仲間の一人が石板を手に取る。彼の石板は赤く光っていた。最初は戸惑っていたわたしの仲間たちも、次々と石板を受け取ってゆく。それぞれ、異なる色を光らせていた。

 最後の者が石板を受け取った。まるで我々の人数を知っていたかのように、そこで石板もなくなった。彼女の石板は白く光った。少しして、空も白く光る。ラオフェンが、満足そうに口の端を吊り上げる。年相応の笑顔だ。

 次の瞬間だった。雨が急に、強くなったのだ。今まで吹いていなかった風も今は吹き荒れ、立っていることも困難になってしまう。

 「なんで……。天がお怒りになっている。」

 ラオフェンがおびえたようにつぶやく。司祭が空に向かい、「天よ、なぜでございましょう。」と叫ぶ。どうやら、よからぬことが起きているらしい。

 「とりあえず、この石板はお返ししましょう。」

わたしは司祭に告げる。そして、ラオフェンを呼び寄せ彼女の両手に石板をのせた。

少し、風が弱まったように感じる。わたしに続いて、仲間たちもラオフェンに石板を返してゆく。そのたびに風は弱くなり、ついに風はぴたりと止んだ。

 事態が収まると、司祭はわたしに深々と頭を下げた。

「申し訳ございません、継承者さま。なぜ天がお怒りになったのか、私にはわからぬものなのです。」

 もとより、我々は継承者ではない。特段気にすることでもなかった。

「かまわない。それより、そろそろ次の場所に移動しようと考えているんだが。」

わたしは司祭にいくつか地名を告げる。司祭は「それでしたら」と我々を案内してくれるようだった。わたしを先頭に、仲間たちも列をなして移動を始めた。もうこの町を訪れることはないだろう、と思った。


 ふと気づくと、雨はすでにやんでいた。背中に少女の視線を感じたが、わたしはそれを無視した。

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