生き残りアーカイブ

 以下より記述されたのは20■■年6月15日に大手動画サイトに保存された生配信のアーカイブを文章に記録したものである。なおこの名前は配信のアーカイブは本サイトの規約違反により現在は閲覧不可となっている。

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[画面には恐らく自分の部屋でカメラを固定していると思われる撮影者が映っている。]

[十数秒後カメラを固定した後、撮影者は椅子に座り身体全体をこちらへ向け発言を開始した。]

「えー…もしまだ都内や東京都近郊、いや、日本国内でもいいです。生き残っていてこの配信やそのアーカイブを見てくれている人がいれば少しだけ、ほんの少しだけ私に時間をください。」

「私は中村裕也といいます。会社員でした。」

[撮影者は一瞬言葉につまり唾を飲み込む]


「ええと、まずは事の発端から話します。あれは…五日前の出来事です。私が都内の会社で仕事をしていた頃他の社員が騒がしくなっているのに気づき、皆が集まっている窓際に向かいました。」

「集団の内1人が空に指をさしていてつられて見てみると奇妙な、巨大で真っ白な楕円が横向きに浮かんでいました。多分飛行機の何倍の大きさもあったと思います。その時の天気は曇りでしたが雲よりも白く、少し光を放っているようにも見えました。」

「会社の判断により帰宅を余儀なくされた私は自宅のマンションに戻りニュースを見ました。あのニュース映像はおそらく皆さんも見たことがあると思います。その日は当然私にできることは何もなくその後はいつも通り風呂に入って布団に入りました。」


「次の日、私はニュースを見てみるとどうやら例の楕円の出自は不明らしく、外国の兵器でもないような話が流れていました。先々何が起こるかも分からぬまま、私は出社したまにあの楕円に目をやっていました。SNSを見てみると楕円から謎の液体が流れてきてるという話が話題になっており、一般人が撮影した動画も流れてきました。」


「翌日都民に危害が及ぶ恐れがあるとかで、例の楕円周辺の住民の避難が開始され、直接窓から楕円が見えるほど近くにあったうちの会社は出社を禁じられていました。」

「特定の区に住んでいる人は自宅待機を命じられ、ネットでは臆測に次ぐ憶測が加速していたのを今も覚えています。」


「その日の昼、日本政府が自衛隊と日本に駐屯しているアメリカ軍との共同軍事作戦を開始するというニュースが飛び込んできました。」

「国民に作戦による被害を防ぐため自宅待機の指定区域の範囲は私の自宅まで広がり、元々自宅待機をしていた人は避難することになっていました。」


「そして夜、作戦は行われました。本当に、今まで見たことのない光景でなにか悪い夢でも見ているのではないかと思いました。」

「ニュースで中継していた映像を見ていただけなので細かいことは覚えていませんが、恐らく自衛隊のヘリコプターが楕円に向かって射撃したんです。見てみたところ楕円は傷一つついてなくて、夜でも発光していたのがとても不気味でした。」

「追うように爆発が起こり、どうやら米軍の戦闘機がミサイルを撃ったようでした。」

「それでも楕円は平気そうに真っ白な体を宙に浮かせ続けていました。」

「そこから先は地獄でした。楕円がまるで日射を直接見たような眩しさの光を放ち生中継の映像が途切れました。あまりの眩しさに私の部屋にも光が入り込んできていて、窓を覗いてみると数キロ先になにか赤いものが揺らめいて見ました。燃えてたんです。街が。」

「ショックでした。いや、ショックというかこういう事って本当にあるんだ。あっていいのかって気持ちです。」

「そこからすぐに消防車や救急車のサイレンの音が鳴り続け、しばらく止むことはありませんでした。テレビの方に目を向けると別の生中継のカメラが火の海に浮遊する楕円を映していました。赤い火とは対を成す白が余計に恐ろしかったです。」 


「幸い私の自宅には被害はありませんでしたが、この配信を見ている皆さんが知っている通り翌日のニュースではかなりの数の死傷者が出ていました。」

「えー…それから自宅に籠もっていた私は一度も外出することなく家にある缶詰とか冷凍食品でなんとか凌いで二日が経ちました。」

「あまり嫌な想像はしたくありませんが会社からも連絡が来なかったので私はひたすらニュースを眺めていました。」

[部屋の外からドアを叩くような物音が聞こえる]

[数秒の沈黙]

「…ええと、二日目の深夜、確か23時くらいだったと思います。」

「その時は眠っていたのですが外から話し声というか、ざわめきが聞こえて起きたんです。また政府の作戦が開始されたのかと思ってカーテンを開けてみたんです。その時目に映ってきたのは圧倒的な大きさの例の楕円がほぼ自宅のマンションの真上に浮かんでいたんです。要するにいつのまにかこっちまで移動していたんです。」

「思わずギョッとしました。もっと恐ろしかったのは近辺に住んでいた住民や聞きつけたであろう他所からの人間が楕円の近くまで来ていたことでした。」

「もはや自分にできることはないと再び寝ようと布団へ体を向けたその時、一瞬床の色が自分の影を除いて赤く染まったんです。あの時の炎な赤さでした。」

「群衆はパニックに陥っていて確か…数十秒経って明らかに数名の様子がおかしかったのに気づきました。群衆のうち互いが互いを殴り合っていたのを見たんです。逃げ出すならまだしも、誰一人することなく傷つけ合っているのを見てあの赤い光が群衆を異常に仕立て上げたのは確かです。」

「殴り合いが始まって数分後、道路に倒れる人や血まみれになりながらも叫ぶ人、足の骨が折れたのか這いずり回りながら罵倒している人間もいました。」

「やがてマンションの建物内からも叫び声や激しい物音が聞こえてきました。おそらくあの光を直視してしまったんだと思います。」

「あまりの恐ろしさに呆然と窓際に立ち尽くしていた私はふと我に返りドアの戸締まりを確認したあと恐怖を押し殺しながら布団に息を潜めました。」


「それが昨日までの出来事です。皆さんご存知の通り東京は今閉鎖されています。暴徒が鎮まるまで、救助はできないとのことです。」

[再び部屋の外からドアを叩くような音が聞こえる]

「正直、怖いです。こんなことになるなんて誰も予想できなかったと思うし、原因はあの楕円にあると思います。でも私のようにあの暴徒に怯える人は少なからずいるし、今この瞬間被害にあっている人間もいると思います。どうか助けてください。見捨てないでください。死にたくないです」

[窓ガラスが割れる音と音の方向に顔を向け驚く撮影者]

「やめろ、なんだお前、やめ」


ーこの配信は本サイトの規約違反により停止されましたー


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ソーシャルネットワークサービスアプリで流出した群衆の集団パニックの映像

概要:当動画は20■■年6月14日23時11分東京都■■区の上空で一般人によって撮影された動画である。

内容

[群衆のざわめき]

(映像にはビル群の真上を浮遊する楕円の物体が映し出されており、下部には群衆がスマホをかざす様子が映し出されている。)

[楕円が振動し始める]

[群衆の興奮の入り混じった悲鳴]

[数秒経った後楕円の上部から黒い点が降りてきており、巨大な目玉のように見える]

[黒い点が左右に振れた後、赤い光が群衆に向かって発射される]

[さらに群衆の悲鳴が激しくなる]

[十数秒後、周囲の人間が乱闘を始め、完全に周囲がパニック状態と化していた]

(ここで映像は終了している)


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