燃えるゴミと燃えないゴミ
惣山沙樹
01
ああっ、クソッ、クソッ、クソッ! まただ!
また他の男のところに行きやがった!
眠ってぶっ飛んでしまいたかったから、睡眠薬を適当に開けてストロングゼロで流した。退去の時にどうなるか、なんて今考えなくてもいい。ワンルームで紙タバコをスパスパ吸った。
「優樹ぃ……優樹ぃ……」
俺は優樹がいないとダメだって何度も言ってるのになぜわかってくれない? 付き合った頃は隣の部屋から罵声を浴びせられるくらい激しく声をあげてセックスしたじゃないか?
吸い殻をペットボトルに押し込んでベッドにうずくまって下着をおろした。
どうせ今ごろ優樹は他の奴に貫かれてアンアン言ってる。男にビッチと言うのが正しいかどうかは知らないが優樹は紛れもないビッチだ。でも、あいつの尻の穴を広げたのは俺だ。なぜ、なぜ俺だけのものでいてくれない?
「うぁっ、あっ、あっ」
グチャグチャ泣きながらオナニーしたって気持ちよくも何ともならず、疲れただけだった。酔いと薬が回ってきて俺は下半身をさらけ出したまま寝た。
「……なんや
ガンガン痛む頭を押さえながら見上げるとヘラヘラ笑う優樹の姿があった。
「優樹っ、昨日っ、どこ、行ってた」
「んー? まあ雅人の想像通り?」
「俺言ったよな! 俺のことだけ見ろって言ったよな!」
「まぁまぁ雅人、そんな怒鳴らんといてや……」
優樹はどっこいしょとベッドに腰掛けてきた。
「雅人は食いもん何が一番好きや?」
「何だよ、こんな時に、そんな質問……」
「ええから答えてや」
「松屋の牛めし……」
「ふんふん。なんぼ好きなもんでも毎日食うとったら他のもん食いたくなるやろ? 牛めしの次はパフェとか食いたいやん?」
「俺は牛めしだけでいい……」
「例えが悪かったかぁ」
優樹がわしゃわしゃと俺の髪を撫でてきた。肩まで伸びていてすっかり鬱陶しくなっている。
「にしても、また酷くなっとうでこの部屋。お片付けしたるから待っとき」
俺が外に出られなくなってかなり経つ。食事はデリバリーか優樹が買ってきてくれたもので何とかしていて、金も優樹に出してもらっていた。
優樹が何の仕事をしているかは知らない。多分知らない方がいい。チャラチャラ長い金髪をなびかせ派手なシャツを着ている。そんなのでもできる仕事だということだけわかっていればいい。
とにかく金は優樹が稼いできてくれていて、俺は何とか生きながらえている。
「ふぅ……ゴミ袋パンパンやぁ。雅人、昨日は風呂入ったか?」
「入ってない……」
「せやろと思った。洗ったるわ。脱ぎ」
俺は大人しく全裸になって優樹にされるがままになった。腹の奥は煮えたぎっているがこうして世話をされるので表に出すことができない。結局は帰ってきてくれた、という安心感でいっぱいになった。
「優樹……おかえり」
「んっ。ただいま」
優しくキスをされて、これでうやむやになってしまう。いつもそうだ。いつもいつも。優樹が何回浮気をしたのかもう数えていないが全て許してしまっている。
「ケツ出せよ、優樹っ……」
「あーはいはい。昨日は寂しい思いさせたもんなぁ。尽くしたるからなぁ」
俺の身体のことなら優樹は全て知っているから途中までは任せればいい。高ぶってきたところで俺は優樹を噛みまくった。服で隠れない部分もお構いなしだ。優樹も慣れているのか何なのかうっすら笑うだけ。
「……どんだけ浮気しても僕のこと好きでいてくれるんやなぁ」
「当たり前だろ」
「うんうん。僕、愛されとうわぁ」
やってやってやりまくってようやく満足できて、俺は静かに優樹の腕の中に収まった。
「優樹……俺のこと、一人にしないで。置いていかないで。離れないで。ずっと側にいて」
「二十四時間三百六十五日は無理やて」
「せめて俺が起きてる時はここに居て」
「あ……薬足りるか? また買わなあかんなぁ……」
優樹さえいてくれたら自分の行く末なんてどうでもいい、薬か酒のやり過ぎで死ぬんだったらそれでいい、でもその時は優樹にいてほしい。
「優樹……好き。好き。大好き」
「雅人は可愛いなぁ。僕も好きやで」
この幸せを噛み締めたままでいたかったから、俺は一旦優樹の腕から離れて薬を飲んで、また元の場所に戻った。
「優樹……優樹……」
「もうねんねしぃ。何か歌でも歌おか」
優樹が選んだのは季節外れすぎるクリスマス・ソングだったし、何より下手くそで歌詞もうろ覚えの始末だったけれど、俺はそれを聴きながら意識を手放した。
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