天然美少女吸血鬼と先輩清楚お嬢様の百合

藤崎

プロローグ

 身体が熱い。


 頭はひどく朦朧もうろうとしていて、額にぺたりと貼られた冷却シートも役に立たない。

 寝巻きは汗でぐっしょりと濡れ、皮膚に張り付く布がひたすらに気持ち悪かった。


「ハル……?」


 組み敷かれた少女の戸惑うような声。その瞳はもう一人の少女──望月もちづきハルの赤く変異した瞳に真っすぐ向けられていて、おぼろげな意識の中でハルはもう戻れないことを悟った。


 舌でそっと犬歯に触れてみれば、人間のそれよりはるかに鋭利なそれが皮膚を突き破るのを待っている。爪はまるで付け爪のように細く長く伸びていた。

 荒い呼吸を繰り返しながら、ハルは四つん這いの姿勢から徐々に身を低くしていく。自分より十センチほど背が高い少女の、雪のように白い首筋をめがけて近づいていった。


 途中、少女の華奢な身体が強張るのがわかった。けれど止まることはできなかった。

 身体が、本能が、細胞が。彼女の血を欲している。


「ハ、ハル? あの、どうし……ひゃっ」


 舌先で首を舐められた少女がびくっ、と身体を揺らした。


──もう、だめだ。


 眼前に迫った少女の美しい首筋に欠片の理性も吹き飛んでいく。

 本能に従うまま、ハルは少女の首筋に歯を突き立てた。

 ぷつっ、と皮膚を貫いて、少女の身体から生暖かい血液が零れる。


「いっ──」


 噛まれた少女が痛みに顔を歪める。

 ハルはその声に気づかない。


「~~~~~~~~⁉」


 舌に少女の血が触れた途端、生まれて初めての感覚がハルの身体を襲った。

 脳天から雷を食らったような、衝撃にも近い感覚が全身を巡り、頭が真っ白になる。


──あ……これ、やばい。


 味覚と嗅覚が狂いそうなほどの強烈な味と匂いが身体を支配して、まるでマタタビを前にした猫のようになる。


──もっと。もっと欲しい。


 たらりと一筋赤い線を描く少女の首元へ、一度離した口元を再び近づける。

欲望の向くままにハルは少女の肌に嚙みついた。

 少女の頬を涙が伝っていることにも気づかずに。

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