リスナーのみんな! 私元老院最終勧告だされちゃった(。•́︿•̀。)

アールグレイ

第1話

「みんな!聞いて! 今さ、緊急配信してるんだけど、なんでだと思う? そう! 私、ついさっきローマ帝国の元老院から最終勧告出されちゃったの!」

 Vtuber「独裁姫カエサル」は、いつもの甲高い声でまくし立てる。紫色の髪をツインテールにし、軍服風の衣装を身にまとった彼女の姿は、いつものように可愛らしいが、表情は真剣そのものだ。

「え?なんでかって? さっき軍団兵引き連れてルビコン川渡っちゃったからだよ! みんな知ってるよね? ルビコン川渡っちゃダメってやつ! 私、やっちゃったんだよね~」


「ネットニュースで見た~」「ローマのトレンドに入ってるよ!」「トレンド入りおめ?」


 画面にはローマ帝国の地図が表示され、ルビコン川を渡るカエサルの軍団兵のCGが映し出される。精巧な3Dモデルで作られた兵士たちは、「やー」という掛け声とともに川を渡り、ローマへと進軍していく。

「いやぁ、まさか元老院が最終勧告出すとは思わなかったよね! だって私、この国のために頑張ってきたじゃん! 税金もちゃんと払ってるし、公共事業もやってるし! ガリアだって征服したし! なのにさ、なんでだよ! なんで私だけこんなにいじめられるんだよ!」

 カエサルは机を叩きながら叫ぶ。彼女の怒りは、コメント欄にも飛び火し、

「元老院は腐敗してる!」「カエサルは悪くない!」「がんばれカエサル!」といった声が殺到する。

「みんな、ありがとう! でもさ、私、もうダメかもしれない……元老院の最終勧告ってことは、私、もうこの国にいられないってことだよね……みんなとのお別れだなんて考えたくないよ……せっかく仲良くなれたのに…」

 カエサルは目を潤ませながら、絞り出すように言葉を紡ぐ。彼女の頬を伝う涙は、視聴者の心を打つ。


「カエちゃんがんばれ!」「属国民だけど応援してるよ!」


 心からの励ましの言葉が、コメント欄に流れる。カエサルは、画面の向こう側にいるファンたちの温かさに触れ、再び勇気を振り絞る。

「でも、大丈夫! 私、諦めない! 絶対にこの国に戻ってくる! みんな待っててね! それまで、チャンネル登録と高評価、よろしくお願いしますね!」

 カエサルは涙を拭いながら、力強く宣言する。いつもの調子を取り戻した彼女は、最後にウィンクをしてみせる。

 コメント欄は「待ってるよ!」「絶対に戻ってきてね!」「私たちはカエサルの味方だよ!」といった励ましのメッセージで溢れ返る。中には、「スーパーチャット投げたよ!」「メンバーシップ登録したよ!」といった声も。

「みんな、本当にありがとう! 私は絶対に諦めない! みんなのために、この国のために、私は戦う! 絶対に勝つ! だから、みんな、私を信じて待ってて!」

 カエサルは拳を握りしめ、カメラに向かって力強く語りかける。その瞳には、揺るぎない決意が宿っている。

 だが、コメント欄に流れる意見は、好意的なものばかりではなかった。

「さすがに今回はまずいんじゃないか?」

「ルビコン川渡るって、それもう宣戦布告じゃん」

「さすがに擁護できないわ…」

 冷静な意見や、心配の声も少なくなかった。中には、

「もう終わりだね」

「さよならカエサル」

 と、突き放すようなコメントもちらほら見られた。

「俺ポンペイウス派~」

「ポンちゃんの方が正直かわいいし」

「さっさと引退しろこの女たらしのハゲ」

 と、ライバルであるポンペイウスを応援する声や、カエサルへの痛烈な批判まで飛び交い始めた。

 特に彼女を傷つけたのは、軍団兵(メンバー)の中にも批判的な人物がいたことだった。

「カエサル様…今回はさすがに軽率すぎました…」

「私もポンペイウス様に鞍替えしようかな…」

「今までありがとうございました。さようなら」

 彼女は泣きそうになりながらも、必死に耐えるが、大物リスナーにも動きがあった。

「あ……マイルストーンチャットありがとうございます。えーと、ラビエヌスさん……『失望しました、メンバー抜けます』そ、そんなぁ……」

 カエサルの声が震える。画面には「メンバーシップ解除のお知らせ」のポップアップが表示され、ラビエヌスの名前が赤く点滅している。

 コメント欄は騒然とする。

「え、あのラビエヌスさんが!?」

「古参メンバーだったよね」

「ちょっとやばいかも」

 不安の声が次々と書き込まれる。しかし、カエサルはすぐに気を取り直す。

「ううん、私にはまだまだ信用できる軍団兵(メンバー)のみんながいるから! 大丈夫! 絶対に諦めない!」

 カエサルは力強く宣言する。その言葉に、コメント欄は再び活気を取り戻す。

「そうだ! カエサルには私たちがいる!」

「一緒に頑張ろう!」

「応援してるよ!」

 励ましの言葉が溢れ出す。カエサルは笑顔で応える。

「みんな、ありがとう! じゃあ、今日の挨拶はこれにしようかな。じゃあいっくよ~さいなげ~」

 カエサルが元気よく呼びかけると、コメント欄は「さいなげ~」の文字で埋め尽くされる。

「さい投げ~!」

 カエサルは最後に力強く叫び、配信を終了する。画面が暗転しても、コメント欄はしばらくの間、「さいなげ~」の嵐が吹き荒れる。


 配信は終了し、画面は暗転する。しかし、カエサルの戦いはまだ始まったばかりだ。ローマ帝国を揺るがす大事件の幕開けであることを、この時誰も知る由もなかった。


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リスナーのみんな! 私元老院最終勧告だされちゃった(。•́︿•̀。) アールグレイ @gemini555

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