第57話 メリアと女帝、予期する
◆◇◆
「ぁ……ぐ……が……」
延々と悲鳴を上げさせられるような攻撃をされ続けたマスクをしている男性は、もはや意識的に声を上げることすらできずにその場にひれ伏していた。
「とりあえずこいつのことは懲らしめたけど、今後また何か悪いこと企てる可能性もあるんだよね」
「そのことなら心配ない……この者が今後を悪事を働けぬよう、こちらで引き受けさせてもらう」
そう言うと、女帝は上空に魔力を放った。
「これで、直に来る者たちによってこの男は連行される」
「それなら安心だね〜!そうだ、それなら、今闘技場の医務室に居る、女帝ちゃんが戦ったゼインってやつと、そのパーティーメンバーを私……っていうか、エルフの国で預かってもいい?」
「あぁ、あの戦士を侮辱した者のことか……私も彼のことは許せないが、どうして君がわざわざそんなことを言い出すんだ?」
女帝のその問いに対して、メリアが落ち着いた表情で言う。
「あいつとそのパーティーメンバーが、このマスクの男に唆されてエルフの国を滅ぼそうとした張本人で、しかもお金と地位を得るためだけにリアムくんのことを使い捨ててパーティーから追放したようなやつだからだよ」
「何……!?」
初めて聞いた情報に驚いていたのも束の間、女帝は体から微かに氷魔法と雷魔法を放ちながら言った。
「戦士を侮辱しただけでなく、そのようなことまでしていたとは……あの程度で済ませるべきではなかったか」
「闘技場っていう場であれ以上したら観客の方が怖がっちゃいそうだし、仕方無いと思うよ?それに、エルフの国で預けてくれれば、国を滅ぼそうとした奴らってことで、もう今後二度とそんな悪事を働けず、そもそもそんな悪事を働こうなんて思えないようにしてあげるから」
メリアがそう言うと、女帝は少し落ち着き、魔力を体から放つのをやめて言った。
「そうか、そういうことなら、その者たちのことは君たちエルフの国の住人に任せよう……しかし、その者たちのことをどう引き渡したものか」
「どうって、女帝ちゃんがエルフの国に手紙送ってあいつらのことをエルフの国に引き渡すじゃダメなの?」
「そうできれば簡単だが、君も知っての通り我が国の心象は他国から見てあまり良くない……そんな私が人間をエルフの国に引き渡すといっても、私による間者だと疑われてしまうだけだろう」
そんな女帝の言葉を聞いたメリアは、少し考えた素振りを取ってから明るい声色で言った。
「じゃあ、エルフの国と魔族の国で国交樹立して、今後は仲良くしようよ!」
「……国交の樹立?」
「うん!そうしちゃえば、その問題だって解決するでしょ?」
「それはそうだが、そんなことはそう簡単に────」
「私、これでもエルフの国ではその長の族長と同じぐらい発言権のある大魔法使いなんだよ?女帝ちゃんの手紙と一緒に私の直筆で魔族の国と国交樹立したいって言ったら絶対通るよ!ていうか、通らないと私がエルフの国まで戻って通させるから!」
「……我が国が国交樹立、か」
一時的な契約などを他国とすることはあったが、他国と国交を樹立することなど、少なくとも前皇帝の時代からは無かった。
そのため、自らの国が他国と国交を樹立することなど想像もしていなかった────が。
「そういうことなら、君の提案通りにさせてもらう……そして約束しよう、君が我が国と国交を樹立すると言ってくれた言葉に対して、私も全力で応えると」
「うん!」
どこかで、このまま独立したままではいけないと感じていた女帝が、メリアの提案を受けて少し口角を上げながらそう言うと、メリアはそれに対して笑顔で返した。
そして、それからやって来た魔族の者たちによって、マスクをしている男性が連行されるのを見届けると、二人は宿に向かう。
「我が国と国交樹立をすると言ってくれた君に……そして、私たちがこれほどまでに関わる大きなきっかけを作ってくれたリアムには、感謝しなければならないな」
「私はもちろん、リアムくんもそんなことで感謝なんて求めないと思うよ」
「そうだな……流石は私の男と、私の男と一緒に居る者だ」
「っ!ちょっと待って!やっぱり、感謝してるって言うんだったら、もうちょっとリアムくんに対して遠慮して!」
「それは難しい」
「はぁ!?」
そんな話をしながら宿に向かい、宿のリアムとリディアの部屋前に到着した頃には二人は落ち着いていると、そのドアを開けて中に入る。
「リアムく〜ん!リディアちゃ〜ん!戻ってき────あれ?」
中に入ると、居るはずのリアムとリディアが居ないことに、メリアは困惑の声を上げると、続けて言う。
「まだ宿に着いてない……わけないよね」
「あぁ、その可能性は限りなく低い」
「じゃあ、意図的にってこと……?まさか……」
「……」
二人の頭の中には、同じことを予期したが、今は他に行く宛も無いため、この部屋で大人しく、リアムとリディアのことを待つことにした。
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