第39話 リアム、お姫様抱っこする

 エルフの国の門から出ると、リディアさんが言った。


「リアムさん、私たちでしたら馬車に乗るよりも移動魔法を使用して魔族の国まで向かった方が早いと思われますが、いかがでしょうか?」


 このエルフの国に向かった時は、リディアさんがドラゴンとの戦いで負傷した直後だったから大事を取って馬車で向かうという選択肢を選んだけど、そういう状況でもない今だと、確かに馬車を使うよりも移動魔法で向かった方が早いかもしれない。


「わかりました、そうしましょう」


 そう考えた上でリディアさんの案に頷いた僕だったけど、そんな僕の後に続いてメリアさんが大きな声で言った。


「え〜!ちょっと待って!私、二人ぐらい移動魔法使えるわけじゃないから、二人について行けるかわからないよ〜!」

「もちろん、そこはメリアさんがはぐれないようにちゃんと速度を合わせます!」


 仲間として当然のことを言うと、メリアさんが言った。


「でも、それって私が足引っ張ってるって感じしない?」

「足を引っ張ってるなんて、そんな……たまたま僕とリディアさんが移動魔法が得意なだけなので、そんな風に思ったりしません!」


 僕が力強くそう言うと、メリアさんは微笑んで言った。


「そんな優しいこと言ってくれるリアムくんだからこそ、やっぱり足は引っ張りたくないんだよね〜、だから、一つリアムくんにお願いがあるんだけど良いかな?」

「お願い……?なんですか?」

「私のことお姫様抱っこして、一緒に連れて行ってくれない?」

「え……?」

「っ……!」


 その発言を聞いて困惑していると、リディアさんが冷たく言った。


「リアムさん、私たち二人で移動魔法を使い、いっそのことこの方のことを置き去りにしてしまうというのはいかがでしょうか」

「え、え!?ダメですよ!メリアさんは仲間なんですから!」

「ですが、お姫様抱っこなどと、ふざけたことを……!」

「ふざけてないよ〜、実際、感情とか抜きにして論理的に考えたらそれが一番早く魔族の国に到着する方法だと思わない?」

「それは……」


 メリアさんの言葉に対し、リディアさんは口を閉ざす。

 お姫様抱っこ……少し恥ずかしいけど、この場での解決策がそれしか無いなら!


「わかりました!僕がメリアさんのことをお姫様抱っこします!」

「やった〜!」

「リ、リアムさん……!」


 リディアさんはまだ反対したいといった様子で、実際僕も恥ずかしいけど、それ以上にメリアさんのことを置いていくなんてことは絶対にしたく無いため、そうすることに決めた。


「じゃあ、メリアさん……良いですか?」

「うん、いつでも良いよ!」


 メリアさんがそう言うと、僕はメリアさんの背中と脚の部分を持ってメリアさんのことをお姫様抱っこした。

 すると、メリアさんは僕の首元に両手を回して聞いてくる。


「どう?リアム、重くない?」

「全然重く無いです!」

「良かった〜」


 そう言うと、メリアさんは僕にしがみつくようにして体を密着させてきた。


「メ、メリアさんっ!?」

「どうしたの〜?リアムくん」

「え、えっと……」


 体を密着させられていることに対して恥ずかしさを抱いてしまって、どう言えば良いのかと言葉を選んでいると、リディアさんがメリアさんに向けて言った。


「っ!そんなに体を密着させる必要は無いはずです!」

「え〜?このぐらいちゃんと密着しとかないと落ちちゃうよ〜」

「あなた、足を引っ張ってしまうということなど二の次で、本当はそれが目的だったのでしょう……!」

「リディアちゃんが何言ってるのかよくわからな〜い」

「っ……!」


 メリアさんは、さらに僕に胸元を密着させるようにしながらそう言った……今は防寒具を着てくれているから良かったけど、防寒具を着ていなかったらと思うと……っ!い、今はもう、余計なことは考えないでおこう!


「それじゃあ、行きましょうか」

「うん!」

「……はい」


 その後、メリアさんを抱えた僕と、リディアさんはそれぞれ移動魔法を使用して魔族の国へと向かった。



◆◇◆

「メリアさん、風圧とか痛くないですか?」

「そっちは私が風魔法で切ってるから大丈夫!それにしても、リアムくん速〜い!やっぱり私にこんなスピード出せないからこうしてて正解だったよ〜!」

「なら良かったです」

「……」


 そんなやり取りをしているリアムとメリアに並走しながら思う。

 ────相変わらず軽薄な……機会と見ればすぐにリアムさんに体を密着させるなど……それに、リアムさんもリアムさんです、必要なこととは言え、お姫様抱っこなどというものを簡単に引き受けてしまうなど……

 一見するとただ怒っているように見えるリディアだったが────実際は、怒っているというよりは、メリアに対し嫉妬心を抱いていた。

 リアムと体を密着させたいという願望を、メリアが堂々と果たしているからだ。

 ────リアムさん、私の恋心をここまで動かしたのです……もはや、我慢など……どうか、ご覚悟なされてください。

 そんなことを心の中で思いながらも、リディアはリアムと並走して、魔族の国へ向かうべく、移動魔法によって足を進め続けた。

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