魂の自由を取り戻して

福田

死人

 佐々木、電話出ないよ。あいつほんと大丈夫かな?(18:32)


「X大学構内 男性が焼身自殺図ったか」

 ————搬送先の病院で死亡が確認され……(21:38)


 これ、佐々木だって(21:39)


 佐々木が死んだ。


 その前夜、佐々木とは中高の同窓会で再会したばかりだった。ホテルの会場で行われた同窓会の後、10人ほどを集めた二次会が安い居酒屋で行われた。佐々木はその二次会から合流した。仲の良かった白川がどうしてもと言って頼み込んだところ、二次会からなら行くと了承したらしかった。佐々木は大学も行かず、フリーターをしていると聞いていた。会費の高い同窓会に行きたがらなかったのも自然なことだった。二次会での佐々木はただ「唐揚げを大口で頬張って、ビールを仰ぎ、大袈裟に口を拭う」という一連のアルゴリズムを繰り返しているだけで、誰かと話すということをしなかった。白川の方は何か話しかけようと試みていたようだったが、佐々木は適当な会釈をするだけだった。


 彼はなかなか大胆な食べ方をしていたが、それは同級生らにとって特別に目立つことでもなくて、彼のアルゴリズムはテーブルの片隅で、ひっそりと、粛々と実行されていた。


 僕が佐々木とちゃんと接したのは帰り道のことだった。佐々木はかなり飲みすぎてしまったようで、居酒屋の看板近くに座り込んでしまった。体育座り。動ける様子ではなかった。佐々木は膝に顔を埋め、皮脂と汗で湿った髪の毛を右手でくしゃくしゃにして「ああ」とため息を漏らした。そして居酒屋の明かりに照らされた地面のアスファルト、その光の凹凸に目をやると、今度は「はあ」と漏らした。


 それにしても生気のない顔だ。僕はその顔を見て、「死人だ」と思った。彼は生きながらにして死んでいるのだと思った。そんな判断はそもそも倫理的でないし、彼は実際生きていた。もちろんそうだ。彼は汗を流しているし、呼吸をしている。ため息だってつくし、さっきだって唐揚げをいくつも食べていた。れっきとした生命活動。生物として十分に認められる。しかし、僕には佐々木が人間のふりをした屍のように思えてならなかった。僕にとっては、屍が喋り、屍が歩き、屍が鶏の揚げ物を喰らっているにすぎなかった。思えば中学の頃から彼は死人だった。あの頃の、昼休みのグラウンド、体育の時間、全校集会。彼はそれらの時には決まって今のように気力なく座っていた。それは、まるで場違いであるかのように異質なものに思えた。なぜあんな、まるで見知らぬ国に迷い込んだ異邦人みたいに、座る必要があったのか。

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