次元の奥で会いましょう
大山 吟太
奥をしめす
四角の講義室を渡る細い廊下の間は人がぎゅうぎゅうに詰め込まれている。油断するとぺっちゃんこになりそうだ。体育館みたいな場所に来てみると、たくさんの自分の同級生になるであろう人間が体育座りをしている。
急いでそれに紛れるように滑り込むと、前の方のひな壇に、中学生の時に私の親友に告白された女の子が見えた。楽器を吹くのがとても上手く、ホルンを持っていた印象が残っている。あの時の親友を振った人だが、その容姿にはモテる理由も納得だ。
ふと右を向くと、同級生だろうか、私と人ひとり分のスペースを挟んで座っている。その人はガラの悪い先輩に暴言を吐かれているようだ。「おぉいぃ?お前さぁ来んなよマジでそのクソみてぇなつら見せんな、こんなとこ来んなよ」それだけ言ってどこかへ行ってしまった。それを見て私は、その同級生が可哀想に思い「あんなもん気にすんな、お前を肯定するやつは沢山いる」と声をかけた、少し救われていそうな顔をしていた。ただ、その時の私は、まったく笑顔ではなかっただろう。なぜなら私はその時点で興味を過去に持っていかれていたからだ
親友は、クラスメイトのとある女子の事が大好きだった。ただ、彼女はいつか、急に姿を見せなくなった。私と親友は、ついに次元の襖の奥に、彼女とその彼女を攫った集団がいることを聞きつけ、襖の前までやってきた。襖の世界は膝下ほどまで水が張ってある。ジェットスキーを使って移動することが望ましいだろう。私は後ろに親友と小銃を乗せて、次元の奥へと向かった。
飛び散る水にうんざりしながら、明るくて、いくつかの襖と水の張った空間を探索すること半時ほど、ついに該当する襖を見つけた。肘でその扉を破り、中のヤツらを持ってきた小銃で撃ち殺す、そこで気づいた。こよ細長い部屋に人が存在してるだけで何も無い。彼女も、ましてや彼女を攫った奴らのボスと思われる奴すらいない。むしゃくしゃして右の壁を叩くと、明らかに空間がある。
私は壁を目掛けて思い切りドンと蹴った。すると壁が砂のように崩れ、重そうな鉄のスライドドアがでてきた。「おい、なんかあるぞ」親友を呼んでみる。それに体重をかけて引くと、砂塵がサラサラと流れ落ちる中、ドアが開くと、そこにはまだ刃物を持った男がいた、間一髪でそれの突進を避ける、親友は直ぐにそれを撃ち殺した。ほっとして中の空間に首を突っ込む。灯りのない細長い部屋に、生活感のある潰れたクッションの上に座りながら、こちらを向いた男達と、その奥には目の虚ろな彼女がいた。
白い布切れのような服1枚に身を包んでおり、髪はボサボサだった。親友にいたことを伝えようとする前に、親友はその空間に飛び込んだ。そこで足元もまともに見えない中、私も助太刀した。そしていつしか、彼女の元へ辿り着いた時には、見えなかった足元には肉片が転がっていた。まぁそんな事はどうでも良い、まずは再会だ、親友は彼女の前に立ち、ただただ彼女のことを見つめていた。
私は親友と親友の大好きな想い人の再会を邪魔しないよう配慮しようとしたところ、左側にドアがあった。私はそれを蹴り、外の砂壁を落とし、ドアを横に引いてから、元の明かりがついた部屋に戻り、そのドアを閉めた。その後私は追手が来ないように見張りながら、その再会を耳だけでもと、聞こうとした。「ペチャ、、、、ペチャ、、、」水音だけが聞こえる。その時、私は何故か違和感を覚えなかった。10分程しただろうか、その水音はテンポを乱さずに鳴り続けていた。
さらに10分後、立ち上がる音が聞こえて、私はドアからよろめくように離れた。スライドドアが開かれ、そこからは顔と体を接触させながら横歩きをする親友と彼女が出てきた。
私はまたもや違和感を抱くことはなかった。「お、どうだった?感動の再会は」社交ダンスのような動きの2人にそう言い終わった時、2人だと思っていた肉体は、顔を接触させていた部分が、チーズのようにどろどろに溶け合って、糸を引きながら、こちらへ歩き始めていた。そこでやっとハッとした。「人を捨てたか!」それの歩みが止まる様子は無い。それを察して、そいつの腹を蹴り飛ばすと、そいつはよろめいた後、後ろに倒れた。その隙に横を通り、襖の外にあるジェットスキーのエンジンをかける、爽快に1発でかかるエンジンはこの状況には不相応だが、今の私にとっては救世主だ。
襖を閉め、すぐに水の張った襖の空間をジェットスキーでその区画を抜けようとする時、襖が開く音がした。その音がひたすらに怖くて、一瞬のその記憶が何度も何度も背筋を冷たく撫でてくる。親友とその彼女だったものが怖くて怖くて出口へ戻る。襖の区画を抜けた時から、後ろから追いかけてくるような水音は無かった。
その後、親友らとは会っていない。だが、ここまで脳裏で綴ってみた時、ふと思い出した。ならあれはなんだ?
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